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膵がんの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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膵がんとは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 膵臓は胃のうしろにある長さ20センチメートルほどの細長い臓器です。消化液である膵液や血糖を調節するホルモンを分泌する働きがあります。膵臓にできるがんのうち90パーセント以上は、膵液が流れる膵管の上皮細胞から発生します。これをとくに膵管がんといいます。

 初期にみられる症状は、胃のあたりや背中が重苦しい、おなかの調子がよくない、食欲不振など漠然としたものです。膵がんに特有の症状ではないので、しばしば発見が遅れます。ただし、最近では超音波検査、内視鏡的逆行性胆道膵管造影法(ERCP)、超音波内視鏡検査、CT、血管造影検査などの各種画像検査で病変を早めに見つけることもあります

 進行すると上腹部や背部に痛みを感じたり、腹部に腫瘤ができたりします。全身の倦怠感、嘔吐、体重減少、糖尿病の発症・悪化などがみられることもあります。がんが胆管に浸潤すると黄疸がでるので、この時点で発見されることも少なくありません。糖尿病新規発症や悪化例では膵がんを念頭におく必要があります。

 早期発見が困難であるため予後はきわめて不良で、約70パーセントが診断時にがんの切除が不可能であり、切除が可能な例でも5年生存率は約15パーセントです。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 原因はよくわかっていません。膵がんは危険因子として、肉食、喫煙、排気ガス、化学物質などが挙げられますが、統計学的に明らかに関係が証明されている因子はありません。人口の高齢化とともに本邦では急速に増加してきました。最近では人口10万人あたりの罹患率は10~20人に達しています。膵がんのリスクファクターとして、膵がんの家族歴・糖尿病・慢性膵炎・肥満・大量飲酒・膵管内乳頭粘液性腫瘍があげられます。(1)

病気の特徴

 年間死亡者数は年々増加しており、年間約29,000人が死亡し、がん死亡者数では男性で5位、女性で4位。高齢者に多く、ピークは60歳代です。

 膵がんの約8割はステージIVの最も進んだ状態で見つかり、胃がんや大腸がんでは治癒が期待できるステージIの状態で診断されるのは1.7パーセントです。しかしながら、膵がんでは、ステージIの状態で診断されてもその治療成績は不良です。膵がんの治療成績(5年生存率)をステージ別に示すと、ステージI:58.6パーセント、ステージII:51パーセント、ステージIII:25.9パーセント、ステージIVa:11.9パーセント、ステージIVb:2.8パーセントとなっています。(1)

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
膵頭部がんに対して 膵頭十二指腸切除術を行う ★3 膵臓は頭部、体部、尾部に分けられます。膵頭部がんの場合、膵臓の頭部とその周辺にある十二指腸、小腸の一部、胃の一部、胆のうをともに切除する膵頭十二指腸切除術が行われます。この手術による予後は大変厳しいものがあり、5年生存率は10~25パーセント、生存中央値(対象者を生存期間の長さで並べた場合、ちょうどまん中に位置する人の生存期間)は10~20カ月となっています。 根拠(2)(3)
膵体尾部がんに対して 膵体尾部切除術を行う ★2 膵臓の体部と尾部にがんがある膵体尾部がんの場合、総胆管を巻き込まずにがんが成長するので早期発見はまれです。症状がでにくく、知らないうちに病状が進展するため外科治療も困難なものとなります。膵頭部がんに比べ術後生存率は低く、周術期(手術中や手術前後)の死亡率も高くなります。予後も不良です。 根拠(4)~(6)
局所進行膵がんに対して 化学療法を行う ★4 GEM(ゲムシタビン塩酸塩)やテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、5-FUなどを用いた化学放射線療法が局所進行切除不能膵がんに対する標準治療と考えられていますが、化学放射線療法と化学療法単独とを比べた研究が多くの施設で行われています。 根拠(1)(7)~(15)
放射線療法を行う ★2 放射線療法単独ではなく、化学療法と組み合わせて行うことで、生存期間の延長を認めているとの報告も多くみられます。高いエビデンスはありませんが、全身状態良好で照射野設定が広くならない(15×15センチメートル以下)局所進行切除不能膵がんに対して、化学放射線療法は標準治療の1つと考えられます。治療法選択の際、おもに生存期間中央値について議論されることが多いのですが、化学放射線療法を行うことにより、2年生存割合などの中長期的な生存割合の向上や局所制御による疼痛緩和が期待できることも利点です。化学療法単独も治療選択肢の1つになり得ますが、治療方針決定の際には患者さんに化学放射線療法も含めて説明する必要があります。 根拠(7)~(11)
手術後の補助として化学療法を行う ★5 テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、GEMを用いた術後化学療法が勧められます。とくに、GEMを含まない化学療法では除痛効果が得られなかったとの報告があります。膵がんに対して、単剤で最も高い除痛効果が報告されている薬剤はGEMで、23.8パーセントに症状緩和が得られたとの報告があります。 根拠(16)(1)(17)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗がん薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ジェムザール(GEM:ゲムシタビン塩酸塩) ★4 切除不能またはほかの臓器などへの転移がある膵がんでは、抗がん薬による化学療法が行われます。これらの薬を用いた治療には延命効果があることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(1)
ティーエスワン(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤) ★4
ジェムザール(GEM:ゲムシタビン塩酸塩)+タルセバ(エルロチニブ塩酸塩) ★4
ジェムザール(GEM:ゲムシタビン塩酸塩)+アブラキサン(ナブパクリタキセル) ★4
FOLFIRINOX療法 エルプラット(オキサリプラチン)+カンプト/トポテシン(イリノテカン塩酸塩水和物)+5-FU(フルオロウラシル)+アイソボリン(レボホリナートカルシウム) ★4

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

膵頭部の部分切除なら、膵臓の機能もある程度残る

 膵がんでは、完全な外科的切除が唯一の効果的な治療です。多くの場合、早期に見つかるのは、がんが小さいときに胆道を閉塞して肝・胆汁系統の症状をおこしやすい膵頭部のがんということになります。

 膵頭部の部分切除であれば、手術後、膵臓からの消化酵素などの外分泌機能、インスリンなどの内分泌機能もある程度保たれますので、膵臓の全摘術に比べ、ずっと管理が容易になります。

手術以外の効果はいまひとつ

 いろいろな研究的取り組みは行われていますが、放射線治療、化学療法ともに、大きな予後改善は認められていません。

リスクのある人は定期検診を

 喫煙、慢性膵炎、糖尿病、カロリー摂取の増加などが、膵がんの発症を高めることがわかっています。これらの要因をもっている人は、そうでない人に比べて膵がんになる危険性が高いといえますから、膵臓のスクリーニング検査を定期的に受け、禁煙や摂取カロリーの適正化などにも努める必要があります。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

  • (1)膵癌診療ガイドライン改訂委員会編. 膵癌診療ガイドライン2013年版, 日本膵臓学会. 2013.
  • (2)Benassai G, Mastrorilli M, Quarto G, et al. Survival after pancreaticoduodenectomy for ductal adenocarcinoma of the head of the pancreas. Chir Ital. 2000;52:263-270.
  • (3)Trede M, Schwall G, Saeger HD. Survival after pancreatoduodenectomy. 118 consecutive resections without an operative mortality. Ann Surg. 1990;211:447-458.
  • (4)Wade TP, Virgo KS, Johnson FE. Distal pancreatectomy for cancer: results in U.S. Department of Veterans Affairs hospitals, 1987-1991. Pancreas. 1995;11:341-344.
  • (5)Johnson CD, Schwall G, Flechtenmacher J, et al. Resection for adenocarcinoma of the body and tail of the pancreas. Br J Surg. 1993;80:1177-1179.
  • (6)Dalton RR, Sarr MG, van Heerden JA, et al. Carcinoma of the body and tail of the pancreas: is curative resection justified? Surgery. 1992;111:489-494.
  • (7)Gastrointestinal Tumor Study Group. Treatment of locally unresectable carcinoma of the pancreas: comparison of combined-modality therapy (chemotherapy plus radiotherapy) to chemotherapy alone. J Natl Cancer Inst. 1988;80:751-755.
  • (8)Moertel CG, Childs DS Jr, Reitemeier RJ, et al. Combined 5-fluorouracil and supervoltage radiation therapy of locally unresectable gastrointestinal cancer. Lancet. 1969;2:865-867.
  • (9)Moertel CG, Frytak S, Hahn RG, et al. Therapy of locally unresectable pancreatic carcinoma:a randomized comparison of high dose (6000 rads) radiation alone, moderate dose radiation (4000rads+5-fluorouracil), and high dose radiation+5-fluorouracil:The Gastrointestinal Tumor Study Group. Cancer. 1981;48:1705-1710.
  • (10)Shinchi H, Takao S, Noma H, et al. Length and quality of survival after external-beam radiotherapy with concurrent continuous 5-fluorouracil infusion for locally unresectable pancreatic cancer. Int J RadiatOncolBiol Phys. 2002;53:146-150.
  • (11)Klaassen DJ, MacIntyre JM, Catton GE, et al. Treatment of locally unresectable cancer of the stomach and pancreas:a randomized comparison of 5-fluorouracil alone with radiation plus concurrent and maintenance 5-fluorouracil―an Eastern Cooperative Oncology Group study. J ClinOncol. 1985;3:373-378.
  • (12)Chauffert B, Mornex F, Bonnetain F, et al. Phase III trial comparing intensive induction chemoradiotherapy(60 Gy, infusional 5-FU and intermittent cisplatin) followed by maintenance gemcitabine with gemcitabine alone for locally advanced unresectable pancreatic cancer. Definitive results of the 2000-01 FFCD/SFRO study. Ann Oncol. 2008;19:1592-1599.
  • (13)Huguet F, Andr T, Hammel P, et al. Impact of chemoradiotherapy after disease control with chemotherapy in locally advanced pancreatic adenocarcinoma in GERCOR phase II and III studies. J ClinOncol. 2007;25:326-331.
  • (14)Loehrer PJ, Powell ME, Cardenes HR, et al. A randomized phase III study of gemcitabine in combination with radiation therapy versus gemcitabine alone in patients with localized, unresectable pancreatic cancer:E4201. J ClinOncol. 2008;26:abstr 4506.
  • (15)Burris HA 3rd, Moore MJ, Andersen J, et al. Improvements in survival and clinical benefit with gemcitabine as first-line therapy for patients with advanced pancreas cancer :a randomized trial. J ClinOncol. 1997;15:2403-2413.
  • (16)佐伯博行, 杉政征夫, 山田六平, 他. 切除不能(Stage IVb)膵癌に対する術中照射療法 (IORT). 癌と化学療法. 2002;29:2221-2223.
  • (17)Burris HA 3rd, Improvements in survival and clinical benefit with gemcitabine as first-line therapy for patients with advanced pancreas cancer :a randomized trial:JClin Oncol:1997;15;2403-2413.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)