腎がんの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
腎がんとは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
腎がんには腎細胞がんと腎盂がんがあります。ほとんどは腎細胞がんで、腎臓にある尿細管の内側の細胞が、がん化したものです。
腫瘍が小さいときには、これといった症状はありません。進行して腫瘍が5センチメートルより大きくなると、血尿、腹部腫瘤、疼痛などがみられます。発熱、体重減少、貧血といった全身症状が現れる場合もあります。
また、それほど多くはありませんが、腎がんが産生する物質によって、赤血球増多症や高血圧、高カルシウム血症などが引きおこされることがあります。
現在は超音波検査やCTなどの画像診断で無症状のうちに偶然発見される例も増えてきましたが、肺や骨に転移したがんが先に見つかり、くわしく調べると腎がんがもとだったということも少なくありません。
なお、子どもの腎がんのほとんどは、ウイルムス腫瘍(腎芽細胞腫)と呼ばれるもので、腹部に腫瘤ができます。腹痛、発熱、食欲不振、嘔吐、血尿、高血圧などを伴うこともあります。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
腎がんは発生しやすい家系があります。遺伝子を調べることで、発病前から将来、腎がんにかかることが予測できます。
ただし、原因は家系的なものばかりではありません。喫煙や肥満、高血圧などが複合的に作用して発がんのリスクを高めていると考えられています。また、長期にわたる、石油由来の有機溶媒やカドミウム、アスベストなどの暴露を受けた人や、長期にわたって人工透析を続けている人に腎がんの発生が多いこともわかってきました。
子どものウイルムス腫瘍は、胎生期の組織から発生するものです。
病気の特徴
腎細胞がんの発生頻度は、日本では人口10万人あたり男性が8.2人、女性が3.7人で、男性が女性の2~3倍多くなっています。腎盂がんは人口10万人あたり男女とも約0.1人程度です。
子どものウイルムス腫瘍は5歳以下で発病することが多く、男女差はありません。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
遠隔転移がない場合 | 腎摘出術を行う | ★4 | 腎摘出術には開腹による方法と腹腔鏡による方法がありますが、腹腔鏡下腎摘出術の手術成績を開腹で行う腎摘出術と比較したとき、生存率、再発率に差はないことが臨床研究によって確認されています。 根拠(1) |
腎部分摘出術を行う | ★4 | 早期の腎がんに対して、腎部分摘出術は腎摘出術と同等の生存率を示していますが、腎機能を保持する面では有用であることが信頼性の高い臨床研究によって確認されています。腎臓が1つしかない場合、腎機能が悪い場合、両側の腎臓にがんがある場合にはこの治療法が選択されます。 根拠(2)(3) | |
経皮的局所療法を行う | ★3 | 体表から腫瘍に細い電極針を刺して、ラジオ波電流を流して腫瘍を焼灼するラジオ波焼灼術(RFA)やアルゴンガスを利用して腫瘍を凍結させる凍結療法(Cryoablation)は有用性が確認され、侵襲が少ないため、高齢者や全身状態が悪い症例の治療のひとつとして専門家の意見や経験から支持されています。凍結療法は腹腔鏡下で行われることもあります。ラジオ波焼灼術や凍結療法の長期的な成績は不明であり、どちらも日本ではまだ保険が適用されていません。 根拠(4) | |
遠隔転移がある場合 | 動脈塞栓術を行う | ★2 | 腫瘍に血液が流れ込まないよう腎動脈を人工的に閉塞させる方法を動脈塞栓術といいます。外科的手術が難しい場合、手術時の出血量を減らすために術前に行う場合などがあります。腎摘出術前にこれを行っても、生存期間が延長されることはありません。 |
サイトカイン療法 | インターフェロンを用いる | ★5 | 生体の防御機構を高めるインターフェロンアルファの皮下注射と、抗がん薬として用いられるメドロキシプロゲステロン酢酸エステルの経口使用とを比較した信頼性の高い臨床研究では、インターフェロンアルファ皮下注射のほうが、1年生存率、生存中央値(対象者を生存期間の長さで並べた場合、ちょうどまん中に位置する人の生存期間)ともに有意にすぐれていました。しかしながら、インターフェロンガンマとプラセボ(偽薬)を比較した非常に信頼性の高い臨床研究では、治療への反応、生存中央値ともに、両者の間に有意差は認められませんでした。 根拠(5)(6) |
インターロイキン-2(テセロイキン)を用いる | ★4 | 高用量のインターロイキン-2(テセロイキン)を用いて、15パーセントの患者さんに腫瘍縮小効果が認められたことが信頼性の高い臨床研究によって報告されています。 根拠(7) | |
分子標的薬を用いる | ★4 | 腎細胞がんの発がん、進展に重要な役割を果たす分子を標的にした分子標的薬は、腫瘍の縮小効果や生存期間の延長を認め、臨床的に有用であることが確認されています。また、サイトカイン無効例では生存期間が延長することが信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(8)~(12) | |
外科療法に放射線療法を併用する | ★2 | 手術後に放射線を照射した場合には、効果があったとするものと効果がなかったとする研究報告があります。脳転移に対するガンマナイフ、放射線治療など有効な場合があると考えられています。 根拠(13) |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
サイトカイン
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
スミフェロン(インターフェロンアルファ) | ★4 | 非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(5)(6) | |
イムネース(インターロイキン-2:テセロイキン) | ★4 | 非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(7) |
分子標的薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
アバスチン(ベバシズマブ) | ★4 | 信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。ベバシズマブは日本では保険適用外です。 根拠(10)(11)(12)(8)(9) | |
スーテント(スニチニブ) | ★4 | ||
ネクサバール(ソラフェニブ) | ★4 | ||
トーリセル(テムシロリムス) | ★4 | ||
アフィニトール(エベロリムス) | ★4 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
症状は全身におよぶ
腎がんは、血尿、腹部腫瘤、側腹部痛などの腎臓自体にかかわる症状だけでなく、発熱、貧血、高カルシウム血症、赤血球増多症などの全身的な異常をしばしばきたすため、以前から“内科医の腫瘍”ともいわれています。
転移がなければ、手術が原則
以前に比べて、CTなどの画像検査で早期に発見される患者さんも増えてきています。がんが腎臓内に限局している場合は、腎摘出術ないし腎部分摘出術が第一選択の治療法となります。
その際に、開腹術、腹腔鏡下、後腹膜鏡下のどの術式を採用するかは、発生している場所やがん自体の大きさ、リンパ節への転移の有無、静脈への浸潤の有無、手術チームの経験などにより決定されます。
転移してもサイトカインや分子標的薬が効くことも
腎臓の近くのリンパ節への転移や、肺や脳、骨などへの遠隔転移がある場合は、インターフェロンやインターロイキン-2(テセロイキン)などのサイトカインや分子標的薬の投与が有効なことがあります。
おすすめの記事
根拠(参考文献)
- (1)Hemal AK, Kumar A, Kumar R, et al. Laparoscopic versus open radical nephrectomy for large renal tumors:a long-term prospective comparison. J Urol. 2007;177:862-866.
- (2)Joniau S, Vander Eeckt K, Van Poppel H. The indications for partial nephrectomy in the treatmenat of renal cell carcinoma. Nat Clin Pract Urol. 2006;3:198-205.
- (3)McKiernan J, Simmons R, Katz J, et al. Natural history of chronic renal insufficiency after partial and radical nephrectomy. Urology. 2002;59:816-820.
- (4)Kutikov A, Kunkle DA, Uzzo RG. Focal therapy for kidney cancer:a systematic review. Curr Opin Urol. 2009;19:148-153.
- (5)Interferon-alpha and survival in metastatic renal carcinoma: early results of a randomised controlled trial. Medical Research Council Renal Cancer Collaborators. Lancet. 1999;353:14-17.
- (6)Gleave ME, Elhilali M, Fradet Y, et al. Canadian Urologic Oncology Group: Interferon gamma-1b compared with placebo in metastatic renal-cell carcinoma. N Engl J Med. 1998;338:1265-1271.
- (7)Bukowski RM. Natural history and therapy of metastatic renal cell carcinoma:the role of interleukin-2. Cancer. 1997;80:1198-1220.
- (8)Yang JC, Haworth L, Sherry RM, et al. A randomized trial of bevacizumab, an anti-vascular endothelial growth factor antibody, for metastatic renal cancer. N Engl J Med. 2003;349:427-434.
- (9)Motzer RJ, Hutson TE, Tomczak P, et al. Sunitinib versus interferon alfa in metastatic renal-cell carcinoma. N Engl J Med. 2007;356:115-124.
- (10)Escudier B, Eisen T, Stadler WM, et al. Sorafenib in advanced clear-cell renal-cell carcinoma. N Engl J Med. 2007;356:125-134.
- (11)Hudes G, Carducci M, Tomczak P, et al. Temsirolimus, interferon alfa, or both for advanced renal-cell carcinoma. N Engl J Med. 2007;356:2271-2281.
- (12)Amato RJ, Jac J, Giessinger S, et al. A phase 2 study with a daily regimen of the oral mTOR inhibitor RAD001(everolimus)in patients with metastatic clear cell renal cell cancer. Cancer. 2009;115:2438-2446.
- (13)Wowra B, Siebels M, Muacevic A, et al. Repeated gamma knife surgery for multiple brain metastases from renal cell carcinoma. J Neurosurg. 2002;97:785-793.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)