膀胱がんの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
膀胱がんとは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
膀胱の表面を覆う移行上皮が、がん化して膀胱がんとなります。カリフラワーのように膀胱の内腔に突出する乳頭がん、こぶのように盛り上がったり、粘膜がむくんだりして見える非乳頭がん、粘膜壁に沿って存在する上皮内がんの三つのタイプがあります。
初期の特徴的な症状は肉眼でわかる血尿で、これには痛みを伴いません。排尿痛はがんが進行してから出現することが多いのですが、初期にも膀胱炎に似た排尿痛がみられることがあります。抗菌薬で痛みがおさまらない場合は、膀胱がんを疑う必要があります。
病期が進んでくると、がんが広がって尿管口を閉塞させ、腎臓がつくりだした尿が膀胱まで流れなくなって、尿管、腎盂が拡張することがあります。これを水腎症といい、背中に鈍痛を感じます。検査では尿のなかにはがれ落ちてくるがん細胞をとらえる尿細胞診が有効で、膀胱内部を観察する内視鏡の膀胱鏡で調べると、ほぼ確実に診断できます。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
喫煙者は、非喫煙者の2~3倍の割合で膀胱がんになりやすいとされています。また、染料を扱う職業の人に発症の多いことが知られています。染料に使うベンチジンなど一部の化学物質に発がん性があったためです。すでにこうした化学物質は使われていませんが、染料工場等で働いたことのある人は注意が必要です。
病気の特徴
人口10万人あたり毎年約17人発生しています。50歳以降に多く、男性は女性の約3倍です。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
| 治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| 表在性および上皮内がんの場合 | 経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)を行う | ★3 | 尿道から特殊な膀胱鏡を入れ、目で確認しながら電気メスでがん組織を切除する方法で、臨床研究によって効果が確認されています。がんが粘膜内に限局している膀胱がんに対しては有効で、再発率が低いとされています。しかし、がんが粘膜下まで浸潤しているが膀胱筋層にはおよんでいない段階でこの治療法を行った場合には、60パーセントに再発が認められています。 根拠(1) |
| 浸潤性の場合 | 膀胱全摘除術を行う | ★3 | 開腹して骨盤内のリンパ節と膀胱、さらに男性では前立腺と精のう、女性では子宮を摘出する手術です。臨床研究によって、5年生存率は60~70パーセントと報告されています。ただし、リンパ節転移の有無により5年生存率は異なり、リンパ節転移なしでは70パーセント、リンパ節転移ありでは40~50パーセントになります。 根拠(1) |
| 放射線療法を行う | ★2 | 放射線照射単独での治療効果については、専門家の意見や経験から支持されています。 | |
| 化学療法(M-VAC:多剤併用療法)を行う | ★3 | 化学療法単独の治療成績を報告した信頼性の高い臨床研究はありませんが、メトトレキサート、硫酸ビンブラスチン、アドリアマイシンあるいはその誘導体、シスプラチンの4剤を組み合わせる多剤併用療法のM-VAC療法の効果は臨床研究によって確認されています。それによると完全寛解率は36パーセントです。 根拠(2) | |
| BCGの膀胱内注入療法を行う | ★3 | TUR-Bt後にBCG注入療法を行ったほうが、TUR-Bt単独療法より1年後の再発率が低いことが、いくつかの臨床研究によって確認されています。 根拠(3)~(9) | |
| 抗がん薬の膀胱内注入療法を行う | ★3 | TUR-Bt後に抗がん薬であるマイトマイシンCの膀胱内注入療法を行うと、TUR-Bt単独療法より2年後の再発率が低いことが、臨床研究によって確認されています。 根拠(10) | |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
抗がん薬
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
早期なら、TUR-Bt後に膀胱内注入療法
膀胱粘膜内にとどまる比較的早期の膀胱がんについては、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)を行ったあと、薬物の膀胱内注入療法を行います。
再発したり、がんを複数の場所に認めたりしたときには、そのつど、それぞれの場所に注入療法を行います。
膀胱内注入療法では、現在BCGを注入するのが一般的ですが、そのほか、抗がん薬などの薬物のほか、インターフェロンなどが用いられることもあります。
浸潤がんは手術と補助療法の組み合わせ
膀胱筋層に浸潤した膀胱がんには、根治的な膀胱全摘除術や膀胱部分切除術、広範囲の内視鏡的切除術、膀胱部分切除術に化学療法や放射線体外照射療法を組み合わせる治療など、さまざまな選択肢が考えられます。
余命をもっとも延長することが確実なのは根治的な膀胱全摘除術ですが、がんの広がりなどによっては、膀胱の部分切除術に化学療法などを組み合わせることも十分考えられます。
しかし、手術療法と組み合わせずに単独で放射線療法や化学療法を行ったときの治療成績は、現在のところあまり芳しくありませんので勧められません。
喫煙などのリスク因子は、当然取り除く必要があります。
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根拠(参考文献)
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- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行
