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卵巣がんの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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卵巣がんとは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 卵巣に発生するがんが卵巣がんです。腫瘍が小さい場合でも卵巣を支える靱帯がねじれて血流がとだえることで、急激な激しい腹痛をひきおこすことがあります。腫瘍が大きくなると、腹部に圧迫感や膨満感を感じる、しこりが触れる、尿がでにくくなるなどの症状がでます。さらに、腹膜にがんが広がると、腹水がたまります。症状がでにくいため、約7割の人が、リンパ節や他の臓器に転移がある状態で診断されます。

 患者さんの年齢や状態、考え方、病期の進行度によって、手術療法、化学療法および症状に対する緩和療法を組み合わせて治療を行います。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 卵巣がん患者の5~10パーセントで遺伝性の関与が推測されます。遺伝子の異常として、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の原因であるBRCA1(breast cancer gene I)、BRCA2(breast cancer gene II)などがあります。また、初潮年齢が早いこと、高齢での妊娠、遅い閉経、ホルモン補充療法を行っていることなどが、卵巣がんのリスクとして報告されています。経口避妊薬の内服はリスクを減らすと報告されています。(1)

 なお、腫瘍マーカー、超音波検査など、いずれの検査でも、卵巣がんの死亡率を低下させる効果はみとめられなかったと報告されています。また、偽陽性(まぎらわしい所見のため、がんでないのに手術を受けてしまう)などの問題が指摘されました。このため、がん検診としては推奨されていません。(2)~(4)

病気の特徴

 日本で卵巣がんにかかった人は2011年で9,314人、2013年の死亡者数は4,717人でした。年齢としては、40歳代から60歳代に多いと報告されています。(5)(6)

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
初回腫瘍減量手術を行う ★3 卵巣がんと診断された場合、初回腫瘍減量手術によって、できるだけ腫瘍の量を取り除き、がん細胞の種類と病期を確定します。初回腫瘍減量手術後に、抗がん薬療法を行うことが一般的です。抗がん薬療法の後におなかをあけて腫瘍を減らす再度開腹手術については、有効性が証明されていません。 根拠(7)(8)(9)
化学療法を行う ★3 ごく初期の、ある種類の卵巣がんを除いては、手術後に化学療法を併用したほうがよいことが報告されています。化学療法には、抗がん薬療法と分子標的療法があります。患者さんの年齢や状態と病期にあわせて、抗がん薬の種類や量を調整します。がんが広がっている場合は、手術の前に抗がん薬を使用して切除する部分を減らすこともあります。 根拠(10)(11)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗がん薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
TC療法 など  根拠 (12)(13) パラプラチン(カルボプラチン)+タキソール(パクリタキセル) ★5 がん細胞を壊したり増殖を抑える効果のある薬剤を、定期的(3週間おきなど)に点滴で投与します。腹腔内に直接抗がん薬を注入する方法もあります。これらの抗がん薬によって、増殖速度の早いがん細胞のほうが健康な細胞よりも壊され、健康な細胞は次の治療の日までに回復してきます。このサイクルをくり返し、残ったがん細胞をできるかぎり体のなかから減らすという治療法です。抗がん薬療法では、健康な細胞も薬の作用を受けます。このため、強い副作用を各種の方法でコントロールしながら、治療を行う必要があります。とくに腹腔内への投与は効果が高いものの副作用も高く、治療として使えるかどうか、体の状態をみながらの慎重な検討が必要です。初回腫瘍減量手術後の初回化学療法、再発や転移がある場合のそれぞれについて、抗がん薬の組み合わせごとに効果が証明されています。ここで紹介しているのは抗がん薬の組み合わせの一例です。現在のところ、効果のみられた抗がん薬でも、使用しつづける(維持療法)ことで予後の改善を証明できた薬はありません。(16) 根拠(12)(13)(14)(15)
CAP療法など  根拠 (14)(15) エンドキサンP(シクロホスファミド水和物)+アドリアシン(ドキソルビシン塩酸塩)+ランダ/ブリプラチン(シスプラチン) ★5

分子標的薬 根拠 (17)(18)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
アバスチン(ベバシズマブ)ほか ★3 初回化学療法時や再発療法時に、抗がん薬との併用で、病気の進行を抑える効果が報告されています。しかし、予後の改善は証明されていません。高血圧やたんぱく尿、血栓などの特殊な副作用とのバランスを考慮にいれて使用する必要があります。 根拠(17)(18)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

有効な検診方法は現在のところない

 腫瘍マーカーや超音波検査など、いずれの検査でも予後の改善を期待できる効果が認められていません。有効な予防法、早期発見の手段がないがんの一つです。

 卵巣がんのリスクとして、初潮年齢が早いこと、高齢での妊娠、遅い閉経、ホルモン補充療法を行っていることなどが挙げられます。5~10パーセントの患者さんに遺伝性の関与があると推測されています。

できるだけ腫瘍を取り除いたのちに化学療法を行うのが基本

 卵巣がんの診断がついた場合、基本的には、手術によってできるだけ腫瘍を取り除き、その後、複数の抗がん薬や分子標的薬を組み合わせて行う化学療法を行います。患者さんの年齢や状態、病期に応じて、さまざまな薬の組み合わせがあり、それぞれ効果が認められています。がんが広範囲に広がってしまっている場合には、手術前に抗がん薬を用い、切除範囲を狭めることもあります。

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根拠(参考文献)

  • (1)Braem MG, Onland-Moret NC, van den Brandt PA et al.Reproductive and hormonal factors in association with ovarian cancer in the Netherlands cohort study. Am J Epidemiol. 2010 ;172:1181-1189.
  • (2)Buys SS, Partridge E, Black A, et al; PLCO Project Team.Effect of screening on ovarian cancer mortality: the Prostate, Lung, Colorectal and Ovarian (PLCO) Cancer Screening Randomized Controlled Trial. JAMA. 2011;305:2295-2303.
  • (3)Pinsky PF, Zhu C, Skates SJ, et al.Potential effect of the risk of ovarian cancer algorithm (ROCA) on the mortality outcome of the Prostate, Lung, Colorectal and Ovarian (PLCO) trial. Int J Cancer. 2013;132:2127-2133.
  • (4)Reade CJ, Riva JJ, Busse JW, et al.Risks and benefits of screening asymptomatic women for ovarian cancer: a systematic review and meta-analysis. GynecolOncol. 2013 ;130:674-681.
  • (5)国立がん研究センターがん情報サービス 地域がん登録全国推計によるがん罹患データ(1975年~2011年) http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html アクセス日2015年5月1日
  • (6)国立がん研究センターがん情報サービス 人口動態統計によるがん死亡データ(1958年~2013年) http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html アクセス日2015年5月1日
  • (7)National Comprehensive Cancer Network ホームページ(NCCN:全米がんセンターガイドライン策定組織)http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/ovarian.pdf アクセス日 2015年5月1日
  • (8)日本婦人科腫瘍学会ホームページ:NCCNガイドライン 日本語版 2014年版 
  • http://www.tri-kobe.org/nccn/guideline/gynecological/ アクセス日2015年5月2日
  • (9)Tangjitgamol S, Manusirivithaya S, Laopaiboon M, et al.Interval debulking surgery for advanced epithelial ovarian cancer.Cochrane Database Syst Rev. 2013 Apr 30;4:CD006014.
  • (10)Winter-Roach BA, Kitchener HC, Lawrie TA. Adjuvant (post-surgery) chemotherapy for early stage epithelial ovarian cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Mar 14;3:CD004706.
  • (11)Vergote I, Tropé CG, Amant F, et al; European Organization for Research and Treatment of Cancer-Gynaecological Cancer Group; NCIC Clinical Trials Group.Neoadjuvant chemotherapy or primary surgery in stage IIIC or IV ovarian cancer.N Engl J Med. 2010 ;363:943-953.
  • (12)Ozols RF, Bundy BN, Greer BE, et al; Gynecologic Oncology Group.Phase III trial of carboplatin and paclitaxel compared with cisplatin and paclitaxel in patients with optimally resected stage III ovarian cancer: a Gynecologic Oncology Group study. J ClinOncol. 2003 ;21:3194-3200.
  • (13)Jaaback K, Johnson N, Lawrie TA.Intraperitoneal chemotherapy for the initial management of primary epithelial ovarian cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2011 Nov 9;(11):CD005340.
  • (14)Parmar MK, Ledermann JA, Colombo N, et al ; ICON and AGO Collaborators. Paclitaxel plus platinum-based chemotherapy versus conventional platinum-based chemotherapy in women with relapsed ovarian cancer: the ICON4/AGO-OVAR-2.2 trial.Lancet. 2003;361:2099-2106.
  • (15)Cantù MG, Buda A, Parma G, et al.Randomized controlled trial of single-agent paclitaxel versus cyclophosphamide, doxorubicin, and cisplatin in patients with recurrent ovarian cancer who responded to first-line platinum-based regimens. J ClinOncol. 2002 ;20:1232-1237.
  • (16)Mei L, Chen H, Wei DM, et al.Maintenance chemotherapy for ovarian cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jun 29;6:CD007414.
  • (17)Burger RA, Sill MW, Monk BJ,et al.Phase II trial of bevacizumab in persistent or recurrent epithelial ovarian cancer or primary peritoneal cancer: a Gynecologic Oncology Group Study.J ClinOncol. 2007;25:5165-5171.
  • (18)Zhou M, Yu P, Qu X, Liu Y, Zhang J. Phase III trials of standard chemotherapy with or without bevacizumab for ovarian cancer: a meta-analysis.PLoS One. 2013 ;8:e81858. Ye Q, Chen HL.Bevacizumab in the treatment of ovarian cancer: a meta-analysis from four phase III randomized controlled trials.Arch Gynecol Obstet. 2013;288:655-666.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)