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子宮体がんの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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子宮体がんとは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 子宮体がんは、子宮の内側を覆っている粘膜(子宮内膜)の細胞が異常に増殖したがんです。多くは子宮内膜から発生する「腺がん」で、1割が筋肉組織などから発生した「肉腫」です。

 おもな症状として、月経(生理)以外のときに性器から出血する不正出血がみられます。おりものを伴うこともあります。初期のおりものは黄白色または透明ですが、病状が進行すると、子宮内部にたまった血液や膿が外に排出されるため、おりものに血や膿が混じるようになります。このときに、激しい下腹部の痛みがでることもあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 女性ホルモンとの関連が指摘されています。すなわち、初潮年齢が早いこと、閉経が遅いこと、出産歴がないこと、55歳以上であること、乳がんに対するタモキシフェンの内服により、リスクが高まるとされています。また、肥満、糖尿病、脂肪分の多い食事も危険因子になると報告されています。(1)

 遺伝性の子宮体がんとしては、大腸がん・子宮体がんと関連するリンチ症候群が報告されています。(2)

 

病気の特徴

 日本で、新たに子宮体がんにかかった人は2011年で14,763人、また死亡者数は2013年で2,107人と報告されています。年齢としては、50~60歳代前半に多い病気です。2007年以降、子宮体がんにかかった人の数は子宮頸がんにかかった人の数より多いと報告されています。(3)(4)

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
リスクの高い人は子宮体がん検診を受診する ★2 リスクのない人に対する子宮体がん検診の効果は否定されています。不正性器出血がある場合、あるいはリンチ症候群やその家族歴、35歳未満の大腸がんの家族歴などのリスクの高い女性に対しては、早期発見の有効性とがん検診を行うという侵襲的な操作の問題点(子宮の奥まで器具を入れるため、苦痛をともなうなど)を十分に説明したうえで、子宮体がん検診を行うよう勧められています。日本では、子宮体がん検診を行っている自治体は全体の約半数と報告されています。子宮頸がん検診を行っている婦人科医が、50歳以上かつ閉経後の人に対し、最近6カ月以内の不正性器出血があったか、または未妊婦であって月経不規則か質問を行い、必要に応じて検診を実施することとされています。 根拠(5)(6)
病期などに応じて治療方法を検討、選択する ★3 子宮体がんと診断された場合、まずは手術療法により、がんをできるかぎり取り除きます。さらに、がん細胞の広がり(病期)や、がん細胞の悪性度(再発リスクの高さ)、腫瘍の数や大きさ、リンパ節や他の臓器へがんが転移しているかどうかなどを総合的に考えて、さらに、患者さんの考え方を考慮して、化学療法や放射線療法を追加していくか、決めていきます。病期が進行している場合は、症状をコントロールする緩和療法なども組み合わせて行います。 根拠(7)~(10)
手術療法を行う ★4 がんの転移がない場合は、単純子宮全摘出術と、卵巣卵管の付属器切除術が行われます。同時に、リンパ節の生検を行い、がん細胞の特性と病期を確定します。手術時のリンパ節郭清(リンパ節の切除)は、予後の改善が期待できないと報告されています。 根拠(11)
化学療法を検討する ★3 悪性度の高い、早期子宮体がんの手術後に化学療法のひとつである抗がん薬療法を行うと、再発を抑える効果と生存期間を延長する効果があると報告されています。また、広範囲に広がった子宮体がんに対する抗がん薬療法は、手術後に行うことで、放射線療法単独より効果があり、がんの進行を抑え、予後を改善すると報告されています。抗がん薬療法は、がん細胞を壊したり増殖を抑える効果のある薬剤を、定期的(3週間おきなど)に点滴や内服で服用します。この薬によって、増殖速度の早いがん細胞のほうが健康な細胞よりも壊され、健康な細胞は次の治療の日までに回復してきます。このサイクルをくり返し、残ったがん細胞をできるかぎり体のなかからなくしてしまう、という治療法です。しかし、健康な細胞も薬の作用を受けるため、強い副作用がでます。いずれの場合も心臓の機能低下や、感染症を合併するなど、重篤な副作用が一定の頻度で発生します。このため、抗がん薬療法は全身状態や病期を十分に考慮して、使用できるかどうか検討する必要があります。 根拠(12)(13)
放射線療法を検討する ★3 膣への密封小線源療法と、骨盤全体に放射線をあてる方法の2種類があります。早期の子宮体がんに対する放射線療法は、その部位での再発を抑える効果はありますが、予後を改善する効果は証明されていません。また、密封小線源療法と骨盤全体への照射療法で、再発率には差がなく、副作用を考慮すると密封小線源療法がすぐれているとされています。 進行し広範囲に広がったがんの場合、効果の点から抗がん薬療法が優先されます。しかし、抗がん薬療法の効果がなくなった場合や、再発時、全身状態により抗がん薬が使用できない場合の放射線療法の効果が報告されています。 根拠(14)~(17)(18)~(20)
ホルモン療法を検討する ★2 ホルモン療法について、延命や病気の進行を抑える効果は証明されていません。しかし、がんが子宮体部から外へ広範囲に浸潤しているような病期や、再発した場合でがん細胞にホルモン受容体があるときには使用を考慮します。 根拠(21)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗がん薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
AP療法など 根拠 (22) ランダ/ブリプラチン(シスプラチン)+アドリアシン(塩酸ドキソルビシン) ★3 悪性度の高い早期がん、およびがんが子宮体部から外へ広範囲に浸潤しているような病期で、病気の進行を抑え、予後を改善する効果が報告されています。 根拠(22)

ホルモン療法薬 根拠 (21)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ヒスロンH(メドロキシプロゲステロン酢酸エステル) ★2 がんが子宮体部から外へ広範囲に浸潤しているような病期や、再発した場合でがん細胞にホルモン受容体があるときには使用を考慮します。延命や病気の進行を抑える効果は証明されていませんが、専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(21)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

子宮体がん検診の方法は確立されていない

 リスクのない女性に対する子宮体がんの効果は否定されており、子宮体がんの検診方法は確立されていません。このため、早期発見には、不正出血や普段と異なるおりものに気づいたら、できるだけ早く婦人科医を受診することが勧められます。ただし、子宮体がんの原因として、女性ホルモンとの関連が指摘されており、初潮年齢が早い、閉経が遅い、出産歴がない、55歳以上のほか、遺伝性のリンチ症候群の病歴や家族歴などがリスクを高める要因とされています。リスクのある女性の場合は、早期発見の有効性と検診の体への負担を十分に理解したうえで、検診を受けることが勧められています。

子宮体がんの治療は、手術で病巣を切除するのが基本

 子宮体がんの基本的な治療は、がんそのものを体から取り除くことです。病期によって、子宮の全摘術に加え、卵巣、卵管などの両側の付属器を切除するかどうかが検討されます。

術後の化学療法・放射線療法・ホルモン療法を検討する

 患者さんの全身状態とともに、病期、がん細胞の悪性度などから再発のリスクが高いと考えられる場合には、効果と副作用の程度を考慮して、手術後に化学療法・放射線療法・ホルモン療法を併用するか検討します。

 悪性度の高い早期の子宮体がんに対しては、化学療法による再発の予防効果、生存期間の延長効果が確認されています。広範囲に広がった子宮体がんでは、放射線療法と化学療法の併用が、放射線療法単独よりもがんの進行の抑制効果などが示されています。

 手術後の放射線療法により、再発を抑える効果が証明されています。放射線療法には、膣に放射線源を埋め込んで体内から照射する密封小線源療法と、通常の骨盤全体に放射線をあてる方法があります。照射法での再発率に差はありませんが、副作用を考慮すると、密封小線源療法がすぐれているとされています。

 がん細胞が女性ホルモンに感受性がある(受容体が現れている)場合には、使用が検討されます。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

  • (1)Van den Bosch T, Coosemans A, Morina M, et al. Screening for uterine tumours. Best Pract Res ClinObstetGynaecol. 2012 ;26:257-266.  
  • (2)Walsh CS, Blum A, Walts A, et al. Lynch syndrome among gynecologic oncology patients meeting Bethesda guidelines for screening. GynecolOncol. 2010 ;116:516-521.
  • (3)国立がん研究センターがん情報サービス 地域がん登録全国推計によるがん罹患データ(1975年~2011年)http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html  アクセス日2015年5月1日
  • (4)国立がん研究センターがん情報サービス 人口動態統計によるがん死亡データ(1958年~2013年)http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html アクセス日2015年5月1日
  • (5)Smith RA, Manassaram-Baptiste D, Brooks D, et al. Cancer screening in the United States, 2015: a review of current American cancer society guidelines and current issues in cancer screening. CA Cancer J Clin. 2015;65:30-54.
  • (6)厚生労働省健康局長 がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針の一部改正について 平成25年3月28日
  • http://www.mhlw.go.jp/file.jsp?id=148162&name=2r98520000035gti_1.pdfアクセス日2015年5月3日
  • (7)Kokka F, Bryant A, Brockbank E, et al. Hysterectomy with radiotherapy or chemotherapy or both for women with locally advanced cervical cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Apr 7;4:CD010260.
  • (8)National Comprehensive Cancer Network ホームページ(NCCN:全米がんセンターガイドライン策定組織)NCCN Guidelines. Uterine neoplasm ver.2 2015 http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/uterine.pdfアクセス日2015年5月3日,
  • (9)日本婦人科腫瘍学会ホームページ:子宮体がん治療ガイドライン2013年版:(金原出版)http://jsgo.or.jp/guideline/taigan.html アクセス日2015年5月2日
  • (10)日本婦人科腫瘍学会ホームページ:NCCNガイドライン 日本語版 2014年版 http://www.tri-kobe.org/nccn/guideline/gynecological/ アクセス日2015年5月2日
  • (11)May K, Bryant A, Dickinson HO, et al. Lymphadenectomy for the management of endometrial cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2010 Jan 20;(1):CD007585.
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  • (15)Kong A, Johnson N, Kitchener HC, Lawrie TA. Adjuvant radiotherapy for stage I endometrial cancer: an updated Cochrane systematic review and meta-analysis. J Natl Cancer Inst. 2012;104:1625-1634.
  • (16)Kong A, Johnson N, Kitchener HC, et al. Adjuvant radiotherapy for stage I endometrial cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Apr 18;4:CD003916.
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  • (19)Geller MA, Ivy JJ, Ghebre R, et al.A phase II trial of carboplatin and docetaxel followed by radiotherapy given in a "Sandwich" method for stage III, IV, and recurrent endometrial cancer. GynecolOncol. 2011 ;121:112-117.
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  • (22)Randall ME, Filiaci VL, Muss H, et al; Gynecologic Oncology Group Study. Randomized phase III trial of whole-abdominal irradiation versus doxorubicin and cisplatin chemotherapy in advanced endometrial carcinoma: a Gynecologic Oncology Group Study. J ClinOncol. 2006;24:36-44.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)