子宮頸がんの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
子宮頸がんとは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
子宮の膣に近いほうを頸部、子宮の奥のほうを体部といい、子宮頸部に発生するがんを子宮頸がんといいます。子宮がんの7、8割を子宮頸がんが占め、子宮体がんより子宮頸がんのほうが多くみられます。
子宮頸部の表面は、扁平上皮といわれる粘膜で、その粘膜細胞が形を変えて増殖するものを扁平上皮がん、子宮頸管の内側の腺上皮を形成している腺細胞が形を変えて増殖するものを腺がんと分類しています。扁平上皮がんと腺がんの発症比はおよそ8対2で、扁平上皮がんが多くみられます。予後は腺がんのほうが不良です。
初期の段階ではほとんど症状がなく、病期が進行してがんが広がっていくにつれて、おりものが増え、不正出血、性交渉時の出血などもみられます。とくに、性交渉のときの出血は特徴的な症状です。さらに、がんが大きくなり直腸や膀胱にまで広がると、腹痛や腰痛のほか、血便や血尿が出ることもあります。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
子宮頸がんの発生には、ヒトパピローマウイルスの感染がかかわっていることがわかっています。ほとんどは性交渉によって、男女の性器に感染します。性体験の早い人、不特定多数のパートナーと性交渉をもつ人などのほか、中絶経験のある人、妊娠・出産の経験が多い人に、子宮頸がんがおこりやすいという報告もあります。
しかし、ヒトパピローマウイルスは、10歳~20歳代の約4割、30歳~50歳代の約2割の女性から検出されるほど、ありふれた感染症です。男性はヒトパピローマウイルスに感染しても、細胞ががんになりにくく、症状もみられません。
ヒトパピローマウイルスに感染した場合でも、ほとんどは体内の免疫によってウイルスが消失します。ただし、一部が持続感染して、細胞組織が変異をおこすと、子宮頸がんができる可能性があると考えられています。
ヒトパピローマウイルスの感染から、がん発生に至るまでのメカニズムはすでにほぼ解明されており、定期的な検診によって前がん状態(がんが発生する前の異型細胞)での発見も可能となっています。
前がん状態には、軽度異形成、中等度異形成、高度異形成と、すべての細胞ががんに変化するまでに3段階ありますが、前がん状態になったからといって、すべての人が高度異形成になり、子宮頸がんに進行するわけではありません。しかし、前がん状態と診断された場合は、進行の可能性があるということですから、定期的に検診を受けながら進行状態を確認することが必要です。
病気の特徴
子宮頸がんは、婦人科のがんのなかで、いちばん多くみられます。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
| 治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| 病期に応じて手術法を検討、選択する | ★4 | 病期(がんの大きさや深さ、形態、転移の有無)によって、手術法が選択されます。子宮膣部円錐切除術は、高周波メスやレーザーメスで子宮頸部を円錐状に切除して、がんを取り除きます。準広範子宮摘出術は、子宮、子宮の周囲の組織、膣の一部を切除します。広範子宮摘出術は、子宮、膣、卵巣、卵管などを切除します。このとき、子宮周囲のリンパ節にがんが転移している可能性が高いので、リンパ節郭清(リンパ節の切除)を行います。これらのすべての治療法について、直接比較した研究はありませんが、それぞれの手術法の再発率や予後を報告した信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(1)~(5) | |
| 手術後の経過によって放射線療法と化学療法を検討する | ★5 | リンパ節転移があるなど再発の危険性が高い患者さんに対して、手術したあとに放射線療法と化学療法を加えることで、再発率が低下し、5年生存率が改善することが、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(6)(7) | |
| かなり進行した場合は手術や放射線療法の前に、化学療法によってがんを小さくしてからそれぞれの療法を検討して行う(ネオアジュバント療法) | ★3 | 進行がんに対してネオアジュバント療法をしてもしなくても5年生存率と再発率はほとんど変わらなかった、という臨床研究があります。ただし、病期がI期からII期の間では、ネオアジュバント療法を行ったことで、5年生存率が高くなったという報告もあります。 根拠(8) | |
| 不特定多数の相手との性交渉を避ける | ★3 | 子宮頸がんにかかった患者さんのうち、扁平上皮がんの95パーセント、腺がんの90パーセントでヒトパピローマウイルスが検出されたという臨床研究があります。また、性交渉のパートナーが多い人、性病にかかった経験のある人は、子宮頸がんの危険性が高いことは専門家の意見や経験によって支持されています。 根拠(9) | |
| 性交渉ではコンドームを使用する | ★5 | 非常に信頼性の高い臨床研究によって、性交渉時のコンドームの使用はヒトパピローマウイルス感染予防に高い効果があると証明されています。 根拠(10) | |
| パートナーがいる女性は定期的に専門医の検診を受ける | ★5 | 性交渉が一度でもある人は、ヒトパピローマウイルスに感染する可能性があります。このため、非常に信頼性の高い臨床研究によって、はじめての性交渉をしてから3年以内、もしくは21歳から子宮頸がんの検診を受けることが推奨されています。また、少なくとも3年ごとに検診を受けたほうがよいとされています。ただし、この検査の間隔は、ヒトパピローマウイルス感染の有無や細胞診の結果によって短くなることもあります。 根拠(11) | |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
扁平上皮がんに対する抗がん薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| BOMP療法 根拠 (12) | ブレオ(塩酸ブレオマイシン)+オンコビン(硫酸ビンクリスチン)+マイトマイシンS(マイトマイシンC)+ランダ/ブリプラチン(シスプラチン) | ★5 | 非常に信頼性の高い臨床研究によって、再発もしくは転移性子宮頸がんに対するBOMP療法(上記の4種類の組み合わせによる抗がん薬治療)の有効性について検討されています。この結果、BOMP療法の効果は確認されていますが、シスプラチン単独またはマイトマイシンCとシスプラチンの併用以上の効果は認められていません。 根拠(12) |
| NAC療法 | ランダ/ブリプラチン(シスプラチン)+ペプレオ(硫酸ペプロマイシン)+5-FU(フルオロウラシル) | ★2 | NAC療法(上記の3種類の組み合わせによる抗がん薬治療)については、専門家の意見や経験からその効果が支持されています。 |
腺がんに対する抗がん薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| MEP療法 根拠 (13)(14) | マイトマイシンS(マイトマイシンC)+ラステッド/ベプシド(エトポシド)+ランダ/ブリプラチン(シスプラチン) | ★4 | 信頼性の高い臨床研究によって、進行性の子宮頸がんに対するMEP療法(上記の3種類の組み合わせによる抗がん薬治療)の有効性が検討されています。進行度によって差はありますが、およそ20パーセントの患者さんに効果があったことがわかっています。 根拠(13)(14) |
| BCAP療法 根拠 (15) | ブレオ(塩酸ブレオマイシン)+エンドキサンP(シクロホスファミド)+アドリアシン(塩酸ドキソルビシン)+ランダ/ブリプラチン(シスプラチン) | ★5 | 非常に信頼性の高い臨床研究によって、進行性の子宮頸がんに対するBCAP療法(上記の4種類の組み合わせによる抗がん薬治療)の有効性について検討されています。この治療の効果は確認されていますが、シスプラチンとブレオマイシンの併用使用以上の効果は確認されていません。 根拠(15) |
| NAC療法 | ランダ/ブリプラチン(シスプラチン)+ペプレオ(硫酸ペプロマイシン)+5-FU(フルオロウラシル) | ★2 | NAC療法については、専門家の意見や経験からその効果が支持されています。 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
外科的な切除が治療の中心
子宮頸がんの治療の中心は外科的な切除です。病気の進行度(病期)によって、がんを摘出する範囲や手術方法を選びます。
リンパ節転移があるなど再発の危険が高い患者さんに対しては、手術後に化学療法と放射線療法を加えることが一般的に行われています。
これによって、再発率が低下し、5年生存率が改善することが、非常に信頼性の高い臨床研究で証明されています。
手術後、あるいは手術不可能な場合の化学療法は症例に応じて
手術後の化学療法、あるいは手術が不可能な患者さんでの化学療法について、どの薬をどれくらいの量、どのような間隔で使用すればよいのかについては、日本人でのデータがなく、不確実な点が多々あります。
病院ごとの方針、あるいは婦人科医の個人的な経験に裏打ちされた意見を尊重するのが適切と考えられる場面も少なからずあります。
性交渉の早かった人は、定期的な検診を受ける
早期発見のための「がん検診」は、近年臓器によって有効性にばらつきがあるといわれています。そのなかでも子宮頸がんの検診は有効性が証明されている数少ない検診の一つです。
子宮頸がんの検診で行う細胞診は、外来で簡単にでき、痛みもありません。アメリカのガイドラインでは、はじめての性交渉から3年以内、あるいは18歳か21歳からの受診を勧めています。
とくに、ヒトパピローマウイルス感染者、エイズウイルス感染者、性交渉が早かった人、性的パートナーがいる人、喫煙者、性病にかかったことある人などは、子宮頸がんになりやすい危険性が高いと考えられるため、定期的な検診を受けることが強く勧められます。
性交渉のときには、コンドームを使用する
コンドームを正しく使用すれば、ヒトパピローマウイルスを含めた性感染症のパートナー感染はほぼ完全に予防できます。さらに、近年アジアで爆発的に増加しているエイズ感染も防ぐことができます。自分の体や相手の体を守るためにコンドームの使用を心がけてほしいものです。
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根拠(参考文献)
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- (12) Alberts DS, Kronmal R, Baker LH, et al. Phase II randomized trial of cisplatin chemotherapy regimens in the treatment of recurrent or metastatic squamous cell cancer of the cervix: a Southwest Oncology Group Study. J Clin Oncol. 1987;5:1791-1795.
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- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行
