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舌がんの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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舌がんとは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 舌がんは舌の縁の痛みのない潰瘍から始まり、徐々に広がっていきます。広がり方には外に向かって増殖するタイプ、舌の内部に侵入していくタイプ、浅い潰瘍が広がるタイプなどがあります。

 がん化した部分の表面がカリフラワーのような顆粒状にみえるのが特徴です。

 初期には刺激物がしみたり、食事をすると痛む程度です。進行すると次第に大きなかたまり(腫瘤)となって出血したり、違和感を覚えるようになります。やがて強い痛みを感じるようになることもあります。

 食べ物を飲み込みにくい、話しにくい、口臭が強くなるといった症状もみられます。さらに悪化すると周囲に広がっていき、頸部リンパ節などに転移します。進行が比較的早いがんですが、自分で異常に気づきやすいので、多くの場合早期に発見されます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 くわしい原因はわかっていませんが、ビタミンB1の欠乏による萎縮性舌炎や、粘膜が角質化して白いまだら状になる白板症と関係が深いとされています。歯のかみ合わせやむし歯、入れ歯などのとがった部分による慢性的な刺激がもとになって発生する場合もあると考えられています。喫煙や飲酒は重大な危険因子です。

病気の特徴

 50歳~60歳代の人に多くみられるがんで、男性では女性の2倍多くみられます。しかし、最近は若い人にもみられるようになり、男女差も小さくなってきています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
手術で舌の一部を切除する ★3 臨床研究では、病変部から1センチメートル以上外側を切除する方法が推奨されています。手術後に味覚や言語などの障害が残ることがあります。 根拠(1)(2)
放射線療法を行う ★3 副作用などにより手術や化学療法が行えない場合に、外部照射と、体内に線源を埋め込む小線源治療を組み合わせて行います。これは臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(3)(4)
手術または放射線療法に化学療法を組み合わせる ★5 進行がんでは手術や放射線療法、または両方の組み合わせにさらに化学療法を組み合わせる方法について、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(5)
手術、放射線療法を組み合わせる ★4 進行がんの患者さんに対して手術後に放射線療法を行った患者さんの群のほうが、しなかった群より頸部に再発する率が低いことが、信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(6)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗がん薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ランダ/ブリプラチン(シスプラチン)+5-FU(フルオロウラシル)+タキソテール(ドセタキセル水和物)またはタキソール(パクリタキセル) ★5 手術前にこの3種類の抗がん薬を組み合わせて用いた患者さんの群と用いなかった患者さんの群を比較したところ、用いた患者さんの群では、手術後に放射線療法や下顎切除を必要とする率が減少し、生存率も改善したという非常に信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(7)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

比較的早期発見が容易な舌がん

 舌がんは比較的進行の速いがんですが、一方で、舌の表面に現れる異常は自分の目でも見えますし、出血や舌の違和感、飲み込みにくさや話しにくさ、口臭などは気づきやすい症状ですので、早期発見が比較的容易ながんでもあります。

手術と放射線療法のどちらを選ぶか、主治医と相談を

 一般的には、がん病巣を外科的に摘出することが勧められます。がん細胞を取り出してしまえば、もう体には残っていないというイメージが患者さんにとっても医師にとっても強くアピールします。舌がんの場合は手術と放射線のみを比較したデータがありませんが、局所の病変を手術で切除することが推奨されます。手術に耐えられない場合や、手術による重篤な機能障害が予想される場合には放射線療法が選択されます。

 がんの大きさや全身状態、治療を受ける病院での治療成績を踏まえて、主治医と相談して決めるとよいでしょう。

進行がんには手術と放射線療法を組み合わせる

 進行がんについては、舌の範囲を越えてどの程度広がっているのかにもよりますが、手術と放射線療法、化学療法を組み合わせた治療が一般に行われます。患者さんそれぞれの病状や、同時にもっているそのほかの病気、体力などを総合的に考えた臨床判断が必要になります。

 喫煙や飲酒、歯と口腔内の衛生状態など、舌がんの危険因子ははっきりとわかっていますので、そうした危険因子がなくなるような生活習慣を身につけるよう強く勧められます。

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根拠(参考文献)

  • (1)Helliwell T, Woolgar JA (Eds). Standards and minimum datasets for reporting cancers. Dataset for histopathological reports on head and neck carcinomas and salivary neoplasms. In: Royal College of Pathologists Guidelines, 2nd, Royal College of Pathologists, London, 2005.
  • (2)Bradley PJ, MacLennan K, Brakenhoff RH, et al. Status of primary tumour surgical margins in squamous head and neck cancer: prognostic implications. Curr Opin Otolaryngol Head Neck Surg. 2007;15:74.
  • (3)Oota S, Shibuya H, Yoshimura R, et al. Brachytherapy of stage II mobile tongue carcinoma. Prediction of local control and QOL. RadiatOncol. 2006 ; 1 : 21.
  • (4)Inoue Ta, Inoue To, Yoshida K, et al. Phase III trial of high-vs. low-dose-rate interstitial radiotherapy for early mobile tongue cancer. Int J RadiatOncolBiol Phys. 2001;51:171-5.
  • (5)Pignon JP, le Maître A, Maillard E, et al. Meta-analysis of chemotherapy in head and neck cancer (MACH-NC): an update on 93 randomised trials and 17,346 patients. Radiother Oncol. 2009;92:4.
  • (6)Hinerman RW, Mendenhall WM, Morris CG, et al. Postoperative irradiation for squamous cell carcinoma of the oral cavity: 35-year experience. Head Neck. 2004; 26:984.
  • (7)Lorch JH, Goloubeva O, Haddad RI, et al. Induction chemotherapy with cisplatin and fluorouracil alone or in combination with docetaxel in locally advanced squamous-cell cancer of the head and neck: long-term results of the TAX 324 randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2011;12:153.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)