出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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薬物依存
やくぶついぞん

もしかして... アルコール依存症

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薬物依存とは?

どんな病気か

 薬物依存を引き起こす薬物は表7表7 乱用される薬物の種類と特徴(平成10年度厚生省医薬安全対策総合研究事業和田班編)に示すように、中枢神経系を興奮させたり抑制したりして、「こころ」のあり方を変える作用をもっています。これらの薬物を連用していると耐性がつき、同じ効果を求めて使用の回数や量を増やしていくうちにコントロールがきかなくなって、連続的・強迫的に使用する状態になります。この状態を薬物依存といいます。

表7 乱用される薬物の種類と特徴(平成10年度厚生省医薬安全対策総合研究事業和田班編)

 薬物依存には、薬物の連用を中断すると、落ち着きを欠き、焦燥感や怒りっぽさを示す精神依存と、薬物特有の離脱症状を示す身体依存との両面があります。薬物依存が続くと、自己中心的でイライラして怒りっぽくなり(情動面)、何かをやろうとする意欲が減退したり(意欲面)、犯罪を平気で犯したり(道徳面)という三方向の性格の変化が認められます。薬物使用によって身体障害や精神障害、社会的な問題(退学・失業・離婚・借金・事故・犯罪など)が引き起こされていてもなお、誘われたり薬物を目の前にすると、使用したいという渇望感が強くなり、手を出してしまうのです。

薬物依存の特徴

 現在のところ、日本で流行している乱用薬物は覚せい剤(メタンフェタミン)、大麻、有機溶剤(シンナー、トルエンなど)が主なものですが、最近ではベンゾジアゼピン系の向精神薬も多くなっています。薬物依存の本質は、体の痛み、心の痛みに耐えきれずに、生きている実感を得るために示す自己確認・自己治療の努力がそのきっかけとなります。

 また、何とかして薬物を入手し「薬物中心の生活」をしている薬物依存者は、同時に周囲にいる家族にも依存しないと、一人ではその生活が成り立ちません。家族を不安に陥れては、自分の薬物依存の生活を支えるように仕向ける「ケア引き出し行動」が非常にうまいのも特徴のひとつです。

 薬物依存の治療の主体は依存者自身なのですが、薬物依存の結果引き起こされた借金や事故・事件などの問題に対して、周囲にいる家族などが尻ぬぐいや転ばぬ先の杖を出しているかぎり、家族の努力は決して報われることはありません。このように依存者の「薬物中心の生活」に巻き込まれて、際限なく依存者の生活を丸抱えで支えている家族などを「イネイブラー」といいます。

症状の現れ方

 薬物依存でみられる症状としては、①乱用時の急性中毒症状、②精神依存の表現である薬物探索行動と強迫的な薬物使用パターンなど、③身体依存の表現である各薬物に特有な離脱症状(禁断症状)、さらに薬物の慢性使用による④身体障害の症状と⑤精神障害の症状があります。このうち、主な薬物にみられる①と③の主要症状は、表7表7 乱用される薬物の種類と特徴(平成10年度厚生省医薬安全対策総合研究事業和田班編)にまとめてあります。

 何とかして薬物を入手するための行動を「薬物探索行動」といいますが、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬や抗不安薬の依存では、指示された以上に服用するために、薬をバスに忘れたとか落としてしまったと嘘をついたり、同時に複数の医療機関に受診すること(ドクターショッピング)がみられたりします。有機溶剤や覚せい剤の依存では、多額の借金をしたり、万引き・恐喝・売春・薬物密売などの事件を起こすこともしばしばあります。

 日本で流行している乱用薬物では、比較的高率に幻視・幻聴・身体幻覚や被害関係妄想、嫉妬妄想などを主体とする中毒性精神病を合併し、まともな判断ができないために、自殺しようとしたり、傷害・殺人などの凶暴な事件にもつながりやすいのです。

検査と診断

 診断は、本人・家族などからきちんと使用薬物やその使用状況、離脱症状の経過などが聴取できれば、比較的容易です。合併する肝臓障害、末梢神経障害などの身体障害や精神障害は、それぞれ専門的な診断を必要とします。静脈内注射による使用者では、とくにB型・C型肝炎、HIV感染をチェックする必要があります。

治療の方法

 中毒性精神病が発病していれば、まず精神科病院に入院して、依存対象の薬物から隔離・禁断することと、幻覚・妄想などの精神病症状を抗精神病薬によって治療することが必要です。本人が承諾しない時は、家族の依頼と精神保健指定医の診断によって医療保護入院で対応します。中毒性精神病を合併しない場合では、できるだけ本人から治療意欲を引き出して、任意入院で対応するのが原則です。

 薬物依存の治療には、認知行動療法が有効です。

 薬物依存者の薬物中心の生活に巻き込まれ、イネイブラーの役割を演じている家族などが、自分の行っている余計な支援にきちんと限界を設けて、薬物依存の過程でみられる各種の問題の責任を依存者自身に引き受けさせるようにしていけば、依存者は「底付き体験」をすることによって断薬を決意します。底付き体験とは、社会の底辺にまで身をおとすということではなく、自分の本来あるべき姿(同級生の現状で代表される)と現在の自分の姿を比較するなどして、このままではどうしようもないと自覚することをいいます。

 さらに、断薬継続のためには、NA(ナルコティクス・アノニマス)などの自助グループのミーティングに参加することが有効です。

病気に気づいたらどうする

 喫煙・飲酒を経験したことのある未成年者は、薬物乱用・依存のハイリスク集団です。薬物の乱用・依存は素人でも診断できてしまうため、素人判断で対応をしてしまうことにより、かえって重症化してしまうことが多いものです。

 したがって、有機溶剤・覚せい剤などを乱用している疑いがあれば、早期に児童相談所、教育相談所、地元警察署少年課、精神保健福祉センター、薬物依存専門の精神科病院に相談することが、重症化を防ぐことにつながります。

 なお、麻薬に指定されているアヘン類、コカイン、LSD、MDMAなどのほか、大麻による依存を診断した医師には、「麻薬および向精神薬取締法」によって、本人の住所地のある都道府県の業務主管課に届け出の義務が課せられています。

薬物依存と関連する症状・病気

(執筆者:医療法人せのがわKONUMA記念広島薬物依存研究所所長 小沼 杏坪)

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コラム離脱症状とは

医療法人せのがわKONUMA記念広島薬物依存研究所所長 小沼杏坪

 中枢神経系を抑制する作用のあるアルコール、ベンゾジアゼピン類、アヘン類などで認められる身体依存の徴候です(表7表7 乱用される薬物の種類と特徴(平成10年度厚生省医薬安全対策総合研究事業和田班編))。薬物を使用し始めのころは、体内から薬物が消失していくと、急性効果が消失するだけですが、反復使用していくうちに、身体依存が形成されて、当初はなかった薬物特有の身体・精神症状が現れます。

 連用している薬物を完全に断った時に現れる症状を禁断症状といい、薬物の血中濃度が急速に低下する時にも、これと類似の症状が現れます。それを「離脱症状(退薬症状)」といいます。

 アヘン類では、あくびが盛んに出て、瞳孔の散大のほか、涙・鼻水がだらだら出る、皮膚に虫がはい回るような異常感、腹痛・嘔吐・下痢・食欲不振、不眠、アヘン類を使用する動機となった脊椎骨折などの疼痛が再現するなど、自律神経嵐と呼ばれる激しい症状が出て大変な苦痛を伴います。その苦痛から逃れようとして、さらにアヘン類を求めるために、自分で止めようとしてもなかなか止めることができないのです。

 通常、これらの離脱症状は、類似の作用をもつ医薬品に置き換え、それを漸減することによって、おおむね1週間以内におさまりますが、激しい時には生命の危険さえあります。

コラムこころの病気の治療薬の副作用@(表8)@img:041242C05_08:/dictionary/img/dictionary/04/041242C05_08.jpg@

メンタルクリニックおぎくぼ院長/東京医科歯科大学名誉教授 融道男

 統合失調症の治療に抗精神病薬が使われ始めたのは1950年代で、クロルプロマジンの登場でした。その後、ハロペリドールなどが開発されて、とくに陽性症状に有効となりました。これらは定型抗精神病薬(定型)であり、脳のドーパミン受容体の遮断によって回復した陽性症状は脳ドーパミンの過剰な作用が関与しています。

 1996年にリスペリドンを使うようになり、現在は非定型抗精神病薬(非定型)の時代になっています。非定型はセロトニンとドーパミン受容体などを拮抗し、陰性症状に対して回復するようになりました。

①パーキンソン病様の症状(錐体外路症状)

〈急性〉

 定型の副作用で起こる場合があります。

 まず、パーキンソニズムと呼ばれる症状があります。身体が硬くなり、動きが鈍くなり、手指、上肢、頭部、舌などに震えが出て、小股で歩くようになります。顔も仮面のようになり、よだれを流し、発語はゆっくりで、単調となり、字を書くと小さい字になります。

 急性ジストニアは、若い人では1週間以内に、筋肉の緊張異常として、顔や首など身体の筋肉群が収縮し、ひねり運動が出て、首が斜めにねじれたり、舌が突出したりします。

 急性アカシジアは、落ち着いて座っていることができずに、立ったり座ったり歩き回ったりします。焦りや不安、不眠などを伴うこともあります。

 以上のような副作用が出た時には、すみやかに対処すべきです。定型を減らし、非定型の薬に替えたり、抗パーキンソン薬を加えたりして治療することがよいでしょう。

〈遅発性〉

 遅発性ジスキネジアは、定型を長い間服用したのち、あるいは服用を中断すると現れます。入院患者の15~20%と高頻度です。症状は、口のまわりと顔面の異常運動がよくあります。口をもぐもぐさせ、舌を突き出したり、唇をとがらせたり、舌を動かす時もあります。治療は、クロニジン(カタプレス、降圧薬)が有効です。

 遅発性ジストニアは、急性ジストニアと同じく、突然、筋肉群が意思とは関係なく収縮し、斜頸の症状を生じます。反復的に運動あるいは異常姿勢を起こし、歩行も難しいこともあります。持続的な筋収縮を起こす症候群であり、痛みを伴います。発生頻度は1・5~2%ですが、治療は困難です。クエチアピン(セロクエル)を使います。

 ピサ症候群は強直したまま屈曲する姿勢が特徴的です。身体の片側のみにジストニアが現れて、その独特な姿勢から命名されました。

 遅発性アカシジアの症状は急性と同様です。治療はクロナゼパム(リボトリール)を使います。

②乳汁分泌

 定型の服用時、出産していないのに乳汁分泌を生じたり、生理不調、無月経になるのは、血中プロラクチンというホルモン濃度が高値になるためです。脳の下垂体前葉という場所で作られるプロラクチン細胞はドーパミンによって、その分泌を抑制されています。定型ではドーパミンを拮抗し、その抑制が外されたために過剰のプロラクチンが血中に放出されます。

 一方、非定型は、プロラクチンを一過性に上昇させても、乳汁分泌や生理不順を生じることは少ないのです。

 この副作用には、定型から非定型に替えるのがよいでしょう。

③水中毒

 こころの治療薬を服用している患者さんが、水分を極端に飲みすぎて1日に3L以上も飲むようになると、血液が薄められて血中のナトリウムの濃度(標準血清濃度128~130nmol/L)が低下します。血清ナトリウムが115くらいに異常に低下すると、水中毒といわれる症状が出現します。

 最初の症状は、ねむけ、食欲不振、悪心、嘔吐、頭痛、腹痛などで、さらに進行すると、全身けいれんと昏睡を来すこともあります。

 抗うつ薬として初めに使われたのは三環系抗うつ薬(三環系)で、これは脳のモノアミン(セロトニン、ノルアドレナリン)を増加させます。普通は、モノアミンが脳のシナプスで放出されたあとにシナプスに再び取り込まれますが、この抗うつ薬はモノアミンの取り込みを妨害しますから、放出されて残ったセロトニン分子がシナプスの間隙に増え、セロトニンの作用が強められて、うつ病症状が改善します。

 1981年ころになって、四環系抗うつ薬(四環系)が使われるようになり、ノルアドレナリンが作用するようになりました。1999年には、「セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」が、さらに2000年に「セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)」が用いられるようになり、うつ病に対して脳のモノアミンの微調整ができるようになりました。

①抗コリン作用

 三環系は、アセチルコリン受容体を妨げて、口や眼の粘膜が乾燥し、眼がかすんだり、便秘、尿閉、心臓の異常を生じます。四環系やSSRIへ替えるのがよいでしょう(四環系、SSRI、SNRIでは副作用は減少)。

②セロトニン症候群

 一般的にまれですが、発症に至る時は24時間内に70%の人に現れます。意識障害(失見当識、錯乱)、不安、焦燥、不眠、気分高揚などがみられ、腱反射亢進、ミオクローヌス、筋強剛、振戦、失調、けいれんなども生じ、さらに発熱、下痢、発汗、頻脈、血圧不安定、流涙、尿閉などが出現することもあります。

 SSRI、SNRI、三環系でも報告があります。治療は、シプロヘプタジン(ペリアクチン)などを使います。

 抗不安薬と睡眠薬(睡眠導入剤)は、ベンゾジアゼピン(BZ)系薬物でほぼ同じ機序です。BZ系薬物は、BZ受容体に結合しますが、GABA(ギャバ)受容体とBZ結合とで複合体を作っています。

 たとえば、抗不安薬のジアゼパムを飲んで、脳内のギャバ受容体の壁にあるBZ受容体に結合しますと、大きなギャバ受容体の全構造が精巧に影響を受けて、ギャバの作用を強めます。その結果、ジアゼパムの小さい刺激でギャバ受容体が活性化され、水路チャネルが口をあけて塩素イオンが細胞内へ流れ込みます。塩素イオンが神経細胞膜に作用して、ギャバ受容体に特有な抑制的信号を発します。ここで、患者さんの不安が抑制されるのです。

 BZ系薬物は、鎮静催眠・筋弛緩・抗けいれん作用をもつので、有害な副作用を生じます。

①鎮静作用

 ねむけ、ふらつき、めまい、注意・集中低下、倦怠感、脱力感などがあり、自動車の運転や機械の操作にミスが生じることがあるため、慎重な服用が望まれます。

②アルコール併飲

 アルコールと一緒に飲むと作用が強まりすぎて、意識が薄らいで、判断力が鈍くなり、物忘れが起こります。さらに、怒りや敵意の感情をもつこともあります。アルコールとBZ系薬物は共通受容体をもつので、健忘が進むことがあります。BZ系薬物の常用量の服用でも、依存するようになると、中止した時に離脱症状(コラム)を生じます。

 BZ(ベンゾジアゼピン)系の睡眠薬は抗不安薬と同じ機序です。現在使用されている睡眠薬のほとんどはBZ系で、その作用時間によって超短期作用型、短期作用型、中期作用型、長期作用型の4つのタイプがあります。

 近年、新しい睡眠薬として非BZ系のゾピクロンやゾルピデムが登場し使われるようになりました。この2つは超短期作用型です。ゾルピデム、ゾピクロンの特徴は、BZ系が完全アゴニスト(完全作用薬)であるのに対して部分アゴニスト(部分作用薬)であるため、BZ系より副作用が少なく、抗不安・筋弛緩・抗けいれん作用はほとんどありません。

①持ち越し効果

 睡眠薬は主に夜間にはたらきますが、超短期作用型以外の睡眠薬では翌日にも鎮静が残ります。鎮静作用により、ねむけ、頭重、頭痛、脱力、倦怠感、めまい、ふらつき、言葉も異常になります。注意・集中力が低くなって交通事故なども起こしうるので、注意が必要です。超短期作用型睡眠薬に替えたほうがよいでしょう。

②健忘と意識障害(せん妄)

 薬を服用する前の記憶は保たれますが、薬を飲んだあとから眠るまでのことや、寝入ってから途中で目覚めたあとの出来事などは覚えていません。機序としては、睡眠薬の服用によって出現する情報の記憶機能不全です。

 健忘は薬の作用が続く間は存在します。トリアゾラムなどによる健忘は、少し過量に飲むと、服用後すぐ入眠し、早朝2時から3時半の間、起きて食べたり、誰かと話したとしても、朝にはその内容を覚えていません。たとえば、トリアゾラムは0・125mg、ゾルピデムは5mg以内にすべきです。

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