出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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内頸動脈狭窄症
ないけいどうみゃくきょうさくしょう

内頸動脈狭窄症とは?

どんな病気か

 頸動脈(左右2本あります)は、あごの下の高さで大脳に血流を送る内頸動脈と頭皮などに血流を送る外頸動脈に分かれます。前者が動脈硬化により細くなるのが内頸動脈狭窄症です。

原因は何か

 従来から日本では頭蓋内の脳血管が細くなったり詰まったりする人が多かったのですが、最近は食生活の欧米化(たとえば日本人の血清コレステロール値は米国人と同じレベルに増加しました)等により頭蓋外の内頸動脈の狭窄や閉塞が増えています。

症状の現れ方

 内頸動脈が細くなり狭窄部に血栓が形成されると、血栓がはがれて脳に飛び、脳梗塞一過性脳虚血発作(1日以内で症状が消失するもの)を引き起こします。また内頸動脈がある程度以上細くなると大脳への血流が不足し、このために症状が出ることもあります。主な症状は、左右どちらかの半身の運動障害や知覚障害、言語障害、顔面下半分の麻痺です。

 また、内頸動脈から分かれ網膜に血流を送る眼動脈に血栓が飛ぶと、一過性黒内障といわれる患部側と同じ片方の眼の視力低下(視野がカーテンが下がるように欠ける)を来します。

検査と診断

 診断はCTやMRI像で脳梗塞の有無、あるいは頸動脈の狭窄を調べることにより行われます。脳血管造影や脳血流測定も行われます。狭窄が高度であれば聴診器で頸部の血管雑音が聴き取れます。

治療の方法

 治療法は抗血小板薬の投与が基本ですが、狭窄が高度な場合には血栓内膜剥離術や、血管を広げるステント留置術が選択されます。また動脈硬化の進行を防ぐために高血圧糖尿病脂質異常症など生活習慣病のコントロールも重要です。

病気に気づいたらどうする

 急性期には症状の進行や脳梗塞の再発が多いため、前述の症状に気づいた場合にはすぐに専門医(神経内科、脳神経外科)を受診することが重要です。

 最近では脳ドックや他疾患の検査などの際に、症状が出る前に内頸動脈狭窄が発見されることも多くなりました(無症候性狭窄)。無症候性狭窄の場合には生活習慣病のコントロールが基本になりますが、抗血小板薬が使用されることも多く、また狭窄が高度の場合には血栓内膜剥離術やステント留置術が行われることもあります。

(執筆者:長崎大学医学部脳神経外科学教授 永田 泉)

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コラム血栓溶解薬t-PAはどんな時に有効か

国家公務員共済組合連合会立川病院院長 篠原幸人

 2005年10月、厚生労働省は、欧米などで認可されているt-PAという薬が日本でも使える許可を出しました。

 しかし、この薬の効果は、一部マスコミのとり上げ方の影響もあり、過大評価されている面もあります。

 t-PAは軟らかい脳の血栓や塞栓を溶かし、途絶えていた血流を回復してくれる作用があります。適切な方法で適応のある患者さんに使えばすばらしい効果を発揮します。しかし、血栓をすべて溶かすわけではありません。また梗塞ができてから3時間以上経過した場合は(欧米では4時間半ともいわれていますが)、血流が再開して壊死に陥った脳組織に再び血液が急激に流れ込む結果、脳に出血(出血性梗塞や血腫)を起こし、かえって症状が悪化したり患者さんが死亡してしまうこともあります。また、その他の場合でも出血が合併する危険があります。

 t-PAが使える条件は、①発症3時間以内で、かつ専門の医師がt-PAの効果が十分に期待できると考えた患者さんで、②血圧が非常に高くはなく、血液検査の結果もこの治療に耐えられる状態で、③画像診断でも梗塞が進んでいないことが確認でき、④最近3カ月以内に脳卒中の発症がなく、⑤最近2~3週間以内に大手術や脳以外の部位にも大出血がなく、⑥大動脈解離などがないことです。

 他にも高齢の方で重篤な場合は気をつけて使用する必要があります。いずれにしても主治医と患者さん本人ないしはご家族がよく相談して決めるべき治療法です。

 発症3時間以内でもt-PAを使用しなくてよい場合もありますし、逆に3時間を過ぎてt-PAは使用できない患者さんでも、他にもいろいろ治療法があります。いずれにしても、脳卒中のことがよくわかる医師のいる病院に救急隊の方とよく相談して1分でも早く患者さんを搬送することが最も大切です。t-PAが使えないから患者さんは助からないというのは誤った考えであることも、よく認識してください。

コラム一過性全健忘症候群

国家公務員共済組合連合会立川病院院長 篠原幸人

時には健忘症だけが症状のこともある

 脳卒中には時に片麻痺や意識レベルの低下以外に、一般の人がみると脳卒中とは思えない症状の場合もあります。その例のひとつに「一過性全健忘」があります。

 これは必ずしも脳卒中にかぎらず、頭部外傷や何らかの精神的ショックがあった時や、てんかんのひとつの症状としても起こるのですが、一時的で、病院に行った時は治っていることが多いので、医師にすら診断できないこともあります。

 一過性全健忘の症状は、急に自分でも何かおかしく感じて、周囲の人などに「自分は今、何をしていたか、今は何時か、食事はしたか」などの質問をしますが、すぐに忘れてまったく同じ質問を何回も繰り返すので周囲の人もおかしいと気づきます。今までしていたこと、今したことや、今聞いたことをすぐ忘れてしまいますが、自分の名前や、よく知っている周囲の人々の名前、過去のことなどを間違えることは通常ありません。計算などや一般常識も保たれていますが、今から数日前あるいは数週間くらい前のことは完全に忘れていることが多いのです。

 だいたい1日以内にこの症状はよくなり、以前のことも少しずつ思い出しますが、時には発症直後のことだけは思い出せないままになってしまうこともあります。

 この症状は再発することは比較的少なく、これがきっかけで完全な健忘症や認知症になることはまれなので、あまり心配しなくてよいのですが、一度は専門家に原因をよく調べてもらうとよいでしょう。この原因が脳卒中であることもあるからです。

コラム脳卒中リハビリテーション

産業医科大学リハビリテーション医学教授 蜂須賀研二

1.急性期

 脳卒中を発症すると救急病院に搬送されますが、できるだけすぐにリハビリテーション訓練(リハ訓練)を始めることがすすめられます。急性期(発症から数日~数週間)にベッドに寝たきりでいると、下肢の筋力が弱くなり、関節が固くなり、体力も気力も衰えて、いわゆる廃用(使わない機能が衰えること)の状態になります。入院したその日あるいは翌日からリハ訓練を開始しましょう。

 意識が障害されていたり自分で体を動かすことができない場合は、床ずれ(褥瘡)を生じやすいので、体位交換を行うか、体圧を分散するマットレスを使用します。

 訓練ではまず、療法士は関節が固くならないようにベッド上で上下肢の関節を動かします。この訓練は患者さんには負担がないので、発症当日から実施することができます。患者さんの意識が清明で血圧が安定していれば、療法士の徒手的な抵抗に逆らって肘や膝の曲げ伸ばしをして、筋力を維持する訓練を行います。麻痺側の上下肢が自分では動かせない場合は療法士が介助をしながら行います。

 意識がある程度はっきりしていて麻痺の進行がなく危険な病態でなければ、ベッドの端に座る訓練、さらに可能であればベッドサイドで立つ訓練を行います。ラクナ梗塞など麻痺が軽い患者さんではその日から、中等度以上の場合でも麻痺が進行しなければ、発症後2~3日以内に座位訓練は可能になります。血圧や心拍数など全身状態に注意しながら、なるべく早く座位・立位訓練を開始するほうがより短期間でよい状態になります。次に、ベッドから車椅子へ、車椅子からトイレの便器へ、およびその逆方向への乗り移り訓練を行います。移乗ができれば病棟生活もより快適になり、自分の力で訓練室に出かけてリハ訓練が実施できます。

2.回復期

 急性期治療が終了すれば、リハ訓練専用施設である回復期リハビリテーション病棟に転床して、日常生活訓練、歩行訓練、言語訓練などを集中的に行います。麻痺側あるいは健康な側の手を用いて、自分で洗面、食事、着替え、入浴、トイレなどの身の回りの動作ができるように訓練を行い、杖、短下肢装具あるいは長下肢装具を用いた歩行訓練を実施します。

 食事や飲水でむせる場合は、のどを動かす訓練、飲み込む訓練を行います。一般に液体にはとろみを付けると誤嚥しにくくなります。言葉がわからないまたは言えない失語症、発話が不明瞭な構音障害に対しては、言語聴覚士が言語訓練を行います。

 訓練によって機能は改善しますが麻痺は残ることが多いので、自宅での生活が快適にできるように風呂やトイレに手すりを取り付け、段差をなくす改修をします。

 職場復帰を目指す場合は、障害内容を把握したうえで必要な指導や調整を行います。

3.維持期

 多くの患者さんは維持期を、自宅で生活します。麻痺の回復は期待できませんが、障害があっても活動的に過ごし、上手に機能を維持することが大切です。身の回りのことはできる限り自分で行うようにし、適度な散歩や手足のストレッチを行います。通院訓練やデイケア、デイサービスを利用する方法もあります。障害をなくすことが目標ではなく、生活を楽しむことが大切です。

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