出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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育児と歯みがき
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育児と歯みがきとは?

乳歯とむし歯

 乳歯は生後7~8カ月くらいから生え始め、3歳くらいで20本全部が生えそろいます。生まれてすぐの赤ちゃんの口のなかはとてもきれいなのですが、少しずつ菌がすみついて、バランスを保ちながら成長していきます。このなかにミュータンス菌のようなむし歯の原因菌が仲間入りすると、歯に付着し、汚れを栄養にして増え始め、むし歯をつくります。

 現在、むし歯を予防する効果的な手段として用いられているのは、フッ化物塗布や甘味制限、歯みがきなどです。フッ化物を歯に塗布することによって歯質を強化し、むし歯になりにくい状態にすることができます。また、甘味制限をすることにより、口のなかにいるむし歯菌が増えないようにすることができます。

子どもの歯みがき

 それでは、歯みがきにはどんなはたらきがあるのでしょうか?

 歯みがきには、汚れをとるというはたらきと、食事によって酸性に傾いた口のなかの状態を元にもどすというはたらきがあります。

 むし歯菌は、口のなかの汚れを分解して歯垢をつくり、歯の表面で増えていき、口のなかを酸性にします。この時、口のなかに糖分がなければ酸性になった歯垢に唾液がしみ込んで、数十分後には中和されるのですが、だらだら食べていると、口のなかが酸性のままになり、唾液の作用が追いつかなくってしまいます。

 ですから、甘味制限をし、規則正しい食生活をするとともに、歯みがきすることによって、むし歯になりにくくすることができるのです。

 3歳ごろになると自分で歯みがきができるようになるので、上手にみがけるように、手や顔を洗うことと同じように毎日トレーニングしましょう。口に物を入れるようになったら、のどの奥までいかないストッパー付きの歯ブラシなどを、おもちゃの代わりに持たせてみることからスタートするとよいでしょう。この時、お母さんは目を離さないように気をつけてください。

歯みがきはスキンシップ

 育児のなかで歯みがきを考える時に、忘れてはならないことがあります。それは、歯みがきタイムが親子のスキンシップタイムになるということです。ですから、赤ちゃんのころから歯みがきタイムを楽しい習慣にすることはとても大切です。

 歯みがきのために、子どもを膝の上にあお向けに寝かせて口のなかがよく見える状態にすることには、歯みがきをしやすい体位にするという意味と、さらに親子がより近く触れ合うことができるという2つの意味があるのです。

 お母さんがにこにこ笑い、楽しい話をしながら歯みがきをしてあげれば、子どもは歯みがきタイムを待ち望むようになるでしょう。

 1日1回は、楽しい歯みがきタイムをつくりましょう。また、みがき残しをなくすため、小学校に入学するまでは仕上げみがきを忘れないようにしましょう。

(執筆者:岩手医科大学歯学部口腔保健育成学講座口腔保健学分野教授 米満 正美)

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コラム口臭の予防

岩手医科大学歯学部口腔保健育成学講座口腔保健学分野教授 米満正美

 口臭の原因としては、歯周病、舌苔(舌表面の苔)、大きなむし歯、糖尿病など多数のものがあげられます。このうち、歯周病と舌苔が口臭の原因として多く認められます。

 歯周病は、歯の清掃状態が不良であると発生し、また進行しやすいので、歯の表面に付着した歯垢を取り除くことが歯周病による口臭を予防することにつながります。ですから、家庭での適切なブラッシング、歯科医院での歯石除去と専門的な歯の清掃が大切です。

 一方、舌苔は健康な人でもついていますが、多量に付着していると口臭が強くなるので、これを取り除くことが舌苔による口臭を予防することになります。

 舌苔を除去するためには、舌表面の粘膜を傷つけないように優しく舌みがき(軟らかい歯ブラシや舌専用ブラシで取り除くこと)を行います。また舌苔は、体調不良、ストレス、不安、悩みとも密接に関係しているので、日常の身体的・心理的な健康状態にも注意しなければなりません。

コラム誤嚥性肺炎を予防する口腔清掃

日本大学歯学部摂食機能療法学教授 植田耕一郎

 脳卒中などの病気で体力の弱った高齢者のかかりやすい病気に、肺炎があります。しかし、その肺炎は、大気に飛び交っている細菌だけが原因ではなく、自分自身の口腔内(口のなか)に存在する細菌を、呼吸している最中に肺に吸引することにより発病してしまう場合もあるのです。これは、誤って嚥下(飲み込むこと)することによる肺炎なので、誤嚥性肺炎と呼ばれるものです。日本人の死因の第4位に肺炎がありますが、事実、高齢者の肺炎のうち、30%以上は誤嚥性肺炎であるといわれています。

 普段からきちんと食事をし、よく会話をされているような方は、それ自体が口腔の自浄作用となり、また体に抵抗力もありますから、誤嚥性肺炎はほとんど心配ありません。しかし、ひとたび体力が落ちたり、口から食べることができずに、車椅子やベッド上で点滴の管理をされたりしているような場合には、誤嚥性肺炎にかかる率は高くなります。

 そのような方の口腔内は、舌には舌苔(舌に発生した苔のような汚物)、口蓋(上顎の粘膜)には新陳代謝の行われない粘膜の上皮がオブラート状に残った状態が観察されます(図63図63 舌苔の様子図64図64 口蓋に新陳代謝が行われない粘膜が残った状態)。これらは、まさに細菌の巣です。歯に付着している細菌数よりも、舌や口蓋に生息している細菌数のほうがむしろ多いのです。

 したがって、誤嚥性肺炎を予防するための口腔清掃は、通常の歯や歯肉の清掃に加えて、舌や口蓋の清掃(粘膜ケア)を欠かさずしていただきたいと思います(図65図65 舌や口蓋の清掃(粘膜ケア)の様子)。清掃にあたっては、スポンジブラシや、粘膜ケア専用の柔らかいナイロンブラシが市販されています。ブラッシングの刺激により唾液の分泌が促され、乾燥した口腔内は潤いを取り戻します。

 さらに、たとえ点滴管理であっても、医療的判断のもと1日1口だけでけっこうですから、ゼリーなどを咀嚼、嚥下してもらうと、口腔機能の自浄作用が活性化され、誤嚥性肺炎予防に大きな効果をもたらします。

コラム訪問歯科診療

日本大学歯学部摂食機能療法学教授 植田耕一郎

 2008年に介護保険を受けている高齢者(要介護高齢者)は450万人を超えました。そのうちの108万人は、要介護4あるいは5という重度な要介護高齢者です。車椅子やベッド上での生活を送り、ほとんど外出のできない方々です。このような高齢者の口腔内を拝見すると、数多くのむし歯が放置されていたり、入れ歯が何日も口から外されることなく装着されていたりといった状態に遭遇します。身のまわりの身体介護だけでも精一杯なのでしかたがないとは思います。

 このように歯科診療所などに通院するのは困難であるといった場合には、今までかかっていた先生の往診が患者さんにとって最も都合がよいと思いますが、訪問診療を担当する歯科医療機関は限られています。そこで、かかりつけの歯科医院や、市または区の歯科医師会の訪問歯科診療相談窓口に問い合わせをして紹介を受けてください。介護保険を受給されているのであれば、ケアマネジャーや訪問看護師さんに相談するのも方法です。

 治療内容は、義歯の作成や修理、歯痛の除去、抜歯などです。歯科医の診断により、歯を削合したり、歯根のなかの神経の治療など細かい処置が必要とされた場合には、何とか歯科医療機関まで搬送する手段をとって処置を受けることが望まれます。

 また、訪問診療が必要な患者さんは虚弱な方ですから、むし歯や歯周病のみならず誤嚥性肺炎予防のために口腔ケアは必須です。歯科衛生士が行う専門的口腔ケアは、要介護状態が重度であればあるほど、介護職や家族では難しい細かいケアを成し遂げることができます。

 さらに、むせやすい、咀嚼ができない、胃瘻(胃に直接チューブをつないで栄養補給をする方法)管理で口から食事ができないといったような場合には、摂食機能療法としてのアプローチがあります(図66図66 訪問歯科診療の場面)。これについても先述したような窓口に相談されるとよいと思います。

図66 訪問歯科診療の場面

育児と歯みがきに関する医師Q&A