急性腹膜炎
きゅうせいふくまくえん
急性腹膜炎とは?
どんな病気か
腹膜とは腹腔内をおおう膜です。本来腹腔内は無菌になっています。この腹膜に細菌感染や物理的・化学的刺激によって炎症が起こるものを腹膜炎といいます。腹膜炎は、その経過から急性腹膜炎と慢性腹膜炎に分類されます。
急性腹膜炎には、腹膜全体に炎症が広がる急性汎発性腹膜炎と腹膜の一部に膿瘍を形成する限局性腹膜炎があります。とくに急性汎発性腹膜炎では生命に関わる重症の状態に陥る可能性があり、緊急な医学的処置が必要です。
原因は何か
急性腹膜炎の多くは、さまざまな消化器疾患の合併症として起こります(表7)。その原因には、細菌因子と化学因子があげられます。
細菌因子とは、急性虫垂炎、急性胆嚢炎、急性膵炎などの腹腔内の臓器の炎症が腹膜へ波及することによって生じることであり、一般には急性虫垂炎が最も頻度が高くみられます。
化学因子では、外傷、消化管疾患や腸間膜の虚血による消化管穿孔が原因によって起こる胃液、胆汁などの腹膜への漏出があげられます。外傷には打撲・交通外傷があり、消化管疾患では胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃がんなどの悪性腫瘍に続発します。急性胆嚢炎に胆嚢穿孔が加わった場合や重症の急性膵炎では、胆汁・膵液の化学的刺激と細菌感染が重なり、重症の状態になることが多くみられます(表7)。
症状の現れ方
急性腹膜炎の症状として腹痛は必ずみられます。原因となる病気の前兆として腹部不快、軽い腹痛を示すことがまれにありますが、通常は急激な腹痛が突発的に起こります。痛みは持続し、初めは限られた部位だけですが、次第に腹部全体に及びます。
そのほかの症状として吐き気・嘔吐、発熱、頻脈がみられます。病気が進行している場合には、脱水・ショック状態に陥ることもあります。
検査と診断
医師の診察により、圧痛、筋性防御、ブルンベルグ徴候、腸雑音の有無を調べます。
圧痛は部位が限られているため鑑別診断に有用ですが、圧痛が腹部全体に及ぶ汎発性腹膜炎の時も原疾患の部位の圧痛がとくに強くみられます。
筋性防御は壁側腹膜の炎症を示唆する所見で、急性腹膜炎の診断に有用です。初期では軽い触診で腹壁の筋肉の緊張として触知されますが、病状が進行すると腹筋は硬く緊張し、腹壁反射は消えて板状硬と呼ばれる状態になります。
ブルンベルグ徴候は、腹部を圧迫した手を急に離すことで周囲に痛みが響く所見のことをいい、腹膜炎にみられる所見です。腸雑音は腸管の麻痺のために低下します。
急性腹膜炎の診断は原因疾患によって異なるので、検査はあくまで病歴、理学所見から鑑別診断を考慮して選択します。血液検査と画像検査が有用です。血液検査では、白血球が増えて、炎症反応を示すCRPが陽性になります。画像検査では、腹部単純X線、腹部超音波、腹部CTが有用です。
とくに、消化管穿孔の場合には、腹部単純X線で横隔膜下の空気遊離像(フリーエアー像)が診断の決め手になります。そのほか、急性胆嚢炎、急性膵炎などの原因になる疾患の区別には、腹部超音波、腹部CTが有用です。
治療の方法
消化管の穿孔がなく、腹膜炎の部位が限られている限局性腹膜炎の場合には、補液、抗生剤の投与により保存的に治療することで治ることもありますが、基本的には早期の緊急手術を必要とすることがほとんどです。
病気に気づいたらどうする
急性腹膜炎は、原因となる疾患にもよりますが、早期に治療すれば予後は良好です。夜間であっても、緊急に治療を受けるべきです。また、先に述べたような急性腹膜炎の原因となる疾患を治療することが必要になる場合がほとんどです。
腹膜炎に関連する可能性がある薬
医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、腹膜炎に関連する可能性がある薬を紹介しています。
処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。
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バクシダール錠100mg
合成抗菌剤
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グレースビット細粒10%
合成抗菌剤
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クラビット細粒10%
合成抗菌剤
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アミカシン硫酸塩注射液100mg「日医工」
主としてグラム陰性菌に作用するもの
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ピシリバクタ静注用1.5g
主としてグラム陽性・陰性菌に作用するもの
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タゾピペ配合静注用2.25「DSEP」 ジェネリック
主としてグラム陽性・陰性菌に作用するもの
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メロペネム点滴静注用0.5g「日医工」 ジェネリック
主としてグラム陽性・陰性菌に作用するもの
・掲載している情報は薬剤師が監修して作成したものですが、内容を完全に保証するものではありません。
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コラム腹膜とは
腹膜は腹腔の内面および腹腔内の臓器をおおうひとつのつながりをもった膜で、腹腔内面・骨盤腔・横隔膜下面をおおう壁側腹膜と、腹腔臓器をおおう臓側腹膜からなります(図26)。腹腔の前壁は腹壁と呼ばれ、皮膚や筋肉でできています。後壁は脊椎、肋骨、筋肉で形成されています。腹膜の背部と後壁の間は厚い脂肪の層になっており、これを後腹膜腔(図27)と呼んでいます。そのなかに十二指腸、膵臓、脾臓、腎臓などの臓器があり、これらは後腹膜臓器といわれています。
腹膜の主なはたらきとしては、水分・電解質・糖質などを腹腔から吸収したり、腹腔内に炎症が起きた場合に滲出液と呼ばれる食菌・抗菌作用を有する物質の分泌や毒性産物の吸収の抑制を行う生体防御能を担っています。一方で、腹膜に物理的・化学的あるいは感染などの刺激が加わり、炎症が及んだ時には癒着能がはたらき、炎症変化をすみやかに限局させて炎症が広がらないような作用をします。また、腹膜は腹腔内の圧力を一定に保つはたらきをしています。
腹腔内は通常無菌ですが、女性では卵管で外界と通じていて、とくに骨盤腹膜炎の原因になります。
腹膜炎に関する病院口コミ
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