5~17歳の小児にも新型コロナワクチン接種が推奨される理由とは
[特集] 2022/11/15[火]
新型コロナウイルス感染症の拡大が続いています。特に2022年初頭のオミクロン株の流行以降は感染者数が急増し、専門家からは医療体制の逼迫(ひっぱく)を懸念する声も上がっています。オミクロン株の後遺症に関する調査では、倦怠感と頭痛を訴える人が多く、特に小児では、集中力の低下や元気が出ないことが登校を困難にする原因になるという意見もあります。
このような状況と、新型コロナワクチンが小児におけるCOVID-19の重症化予防に寄与することが確認されたことを受け、2021年6月から接種対象となっていた12歳以上に加え、2022年2月から5~11歳も新型コロナワクチンの接種対象となりました。
変異株の流行に伴い、小児の患者が増えています
感染者数の急増に伴い小児の患者数が増加し、以前は少数であった重症例と死亡例が報告されています。成人と比較して小児の呼吸不全例は比較的まれですが、オミクロン株流行以降は小児に特有の疾患であるクループ症候群、熱性けいれんが増加し、脳症、心筋炎などの重症例も報告されています1)。

オミクロン株に対してもワクチンによって重症化の予防が期待できます
オミクロン株流行下でのワクチンの有効性について、アメリカの疾病予防管理センター(CDC)の研究によると、ワクチン2回接種後の感染予防効果は、5~11歳では2回接種後14~82日後で31%、12~15歳では2回接種後14~149日後で59%と、一定の効果が確認されています2)。ちなみに、31%の効果というのは、ワクチンを打たない場合に比べ、感染する人の割合を31%減らすことができる、という意味です。アメリカの子ども病院の研究では、ワクチン2回接種完了後の入院予防効果は5~11歳で68%、12~18歳で40%であったと報告されています3)。また、重症合併症のひとつである小児多系統炎症性症候群(Multisystem Inflammatory Syndrome in Children: MIS-C)(注1)の発症予防効果も報告されています4)。
また、5~11歳用のワクチンも12歳以上用のワクチンと同様に、接種後の時間経過とともに効果が減衰することが確認されていることから、3回目の追加接種が推奨されています5)。

ワクチン接種のメリットはデメリットを上回ると考えられます
当初は新型コロナワクチンの安全性に関する国内のデータが乏しく、海外のデータに限定されていました。その後国内の安全性データが集積され、安全性に重大な懸念が認められていないことから、現在、日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会では、小児に対するワクチンについて、メリット(発症予防や重症化予防等)がデメリット(副反応等)を大きく上回ると判断し、5~17歳のすべての小児にワクチン接種を推奨する1)とともに、厚生労働省もワクチン接種の「努力義務」(注2)の対象を5~11歳にも広げています。


一方、頻度としてはまれなものですが、若年者で注意すべき副反応として、心筋炎・心膜炎が報告されています。特に男性で、1回目接種よりも2回目接種後に、よりリスクが高いとされています8)。ただし、新型コロナウイルス感染症により心筋炎や心膜炎を合併する確率は、ワクチン接種後に心筋炎や心膜炎を発症する確率と比較して高いと考えられています9)。
特に胸痛、息切れ(呼吸困難)、動悸、むくみなどの心筋炎・心膜炎を疑う症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診してください。また、年少の子どもは自ら症状を申し出ることが難しい場合もあるので、周囲が配慮するようにしてください。
- 1) 日本小児科学会. 日本小児科学会webサイト「5~17歳の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」<2022年10月18日閲覧>
- Fowlkes AL, et al. Effectiveness of 2-Dose BNT162b2 (Pfizer BioNTech) mRNA Vaccine in Preventing SARS-CoV-2 Infection Among Children Aged 5-11 Years and Adolescents Aged 12-15 Years – PROTECT Cohort, July 2021-February 2022. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022;71(11):422-428
- Price AM, et al. BNT162b2 Protection against the Omicron Variant in Children and Adolescents. N Engl J Med 2022; 386(20): 1899-1909
- Zambrano LD, et al. Effectiveness of BNT162b2 (Pfizer-BioNTech) mRNA Vaccination Against Multisystem Inflammatory Syndrome in Children Among Persons Aged 12-18 Years – United States, July-December 2021, MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2022; 71(2): 52-58
- 厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A「なぜ、小児(5~11歳)の追加(3回目)接種が必要なのですか。」
[https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0113.html](2022年10月18日閲覧) - 厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A「5~11歳の子どもへの新型コロナワクチンの効果・副反応と接種の考え方」
[https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/column/0012.html](2022年10月18日閲覧) - Walter EB, et al. Evaluation of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Children 5 to 11 Years of Age. N Engl J Med 2022; 386(1): 35-46
- 第82回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和4年度第8回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(令和4年8月5日)資料
- 厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A「ワクチンを接種すると心筋炎や心膜炎になる人がいるというのは本当ですか。」
[https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0079.html](2022年10月18日閲覧) - 厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A「従来ワクチン(1価)による追加(3回目)接種は、どのような人が対象になりますか。」
[https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0098.html](2022年10月18日閲覧) - 厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A「1・2回目の接種後、3回目の接種前に12歳の誕生日を迎えました。どうしたらよいでしょうか。」
[https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0120.html](2022年10月18日閲覧) - Stamatatos L, et al. mRNA vaccination boosts cross-variant neutralizing antibodies elicited by SARS-CoV-2 infection. Science 2021; 25; 372(6549): 1413-1418
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