10月24日「NMOSDの日」に合わせ視神経脊髄炎のイベントを開催
[特集] 2022/11/30[水]
「生活の中心は“病気”ではなく“私”」
NPO法人日本視神経脊髄炎患者会(代表:坂井田真実子さん)は2022年10月24日の「NMOSDの日」に合わせ、「第1回 HOME COMING DAY2022~愛でつながる視神経脊髄炎~」をテーマにイベントを開きました。イベントは10月22日、都内会場・オンライン会場のハイブリッド形式で、製薬会社との共催セミナーや、視神経脊髄炎(NMOSD)当事者同士で語り合う「しゃべり場!」を開催しました。
NMOSDは、視神経や脊髄、脳に炎症が起こり、目の見えにくさやしびれをはじめとする感覚障害、強い疲労など、多岐にわたる症状が現れる、女性に多い病気です。
国内の患者数は約6,500人1)と少なく、国の指定難病に定められています。
中外製薬との共催セミナー「NMOSDにおけるチーム医療」では、さっぽろ神経内科病院で看護師として長年NMOSDの当事者に寄り添っている宿南澄恵さんが講演しました。宿南さんはNMOSDとの向き合い方について、「自院では症状が強く、再発の不安を感じるときはすぐに病院に連絡するよう伝えている」と説明。宿南さんは、主治医がいない日かもしれない、忙しいかもしれないなど遠慮してしまう患者さんがいることを踏まえ、「連絡を迷っている間に不安が大きくなってしまう」として、不安を感じたら医療機関に連絡するよう呼びかけました。「連絡を受けた場合、主治医の指示があれば、受診をしてもらう。再発でなければ、患者さんも、私たちも安心できる」(宿南さん)
宿南澄恵さん(日本視神経脊髄炎患者会提供)
宿南さんは、疲労や症状の波を考えて、生活を工夫することが大切だと指摘。具体的な工夫として、「買い物をするスーパーは1軒と決め、ベンチやトイレの位置をあらかじめ確認し、休めるようにしておく」「キッチンに椅子を置くなどして、休み休み家事を行う」と例を挙げました。
宿南さんはまた、「再発を防ぎ、よい状態を保つために通院し続けることが重要だ」として、主治医や看護師の異動、患者さんの転居など、環境が変化していくことを見越したサポート体制の必要性を指摘しました。その上で「多くのスタッフが協力して、時間軸を意識して患者さんと一緒に進んでいけたらよい」と話しました。
宿南さんは講演で、治療の目的を考えるときに「病気の再発を防ぐ」など“病気”を主語に置くのではなく、「私が仕事を続けたいから」「できるだけ私が健康で子どもと過ごしたいから」など、“私”を主語に置くことを心がけるよう強調。「みなさんの毎日の生活の中心が“病気”ではなく“私”でありますように」(宿南さん)
患者さんと医療従事者で治療の目標を共有し、治療方針を決める
田辺三菱製薬との共催セミナーでは、脳神経内科医の深浦彦彰先生(埼玉医科大学総合医療センター)が登壇し、治療の目的について「再発の心配がなく、患者さんが病気を気にせずに日常生活を過ごせるようにすることだ」と話しました。
NMOSDを巡っては、近年、新しい治療法が続々と登場していることなどから、患者さんと医療従事者が治療の目標などを共有しながら治療方針を決める協働的意思決定(Shared decision making:SDM)を実施することが主流となってきています。深浦先生は、「患者さんに丸投げするのではなく、また主治医だけで決めるのではなく、治療に関する情報や、目標を共有しながら、患者さんの希望・価値観に沿った治療を実施することが大切」と説明。時間も手間もかかることやコミュニケーションの難しさから、「1回ではうまくいかないこともある」とし、繰り返し話し合うよう求めました。
深浦先生は、「NMOSDを抱え、大変なことがたくさんあると思う」と前置きした上で、「人生は長いようで短いので、自分のできることややりたいこと、そうでないことを見極めて、自分の人生をデザインしてほしい」と話しました。
同セミナーでは、NMOSDの当事者である中野尚子さんも登壇し、「車を運転していたら目が見えづらくなった。発症は突然だった」と発症当時のことを語りました。当事者家族として登壇した尚子さんの娘の瑠璃子さんは、発症前の尚子さんについて「ご飯を座って食べている記憶がないくらい、年中無休のスーパーお母さんだった」と振り返りました。「母はNMOSDにより目が悪くなり外出の頻度は減ったが、社会とのかかわりを前向きに持っており、心の強さは発症前から変わっていない」(瑠璃子さん)
公認心理師の関根洋子さんは、落ち込んでいるとき、つらいときの対処法として、自分を支えてくれている「サポートネットワーク」を書き出しておくことを提案しました。関根さんは、「周囲の人だけでなく、いつも抱いているぬいぐるみやお気に入りのポーチなど、書き出して可視化すると、いろいろなものに支えられていると実感し、幸せな気持ちが増えるのではないか」と話しました。
産後の再発を防ぐためにも治療の継続が重要
アレクシオンファーマとの共催セミナーでは、NMOSDの妊娠・出産への影響について清水優子先生(東京女子医科大学脳神経内科)が講演。妊娠の準備として「プレコンセプションケア」を紹介しました。これは、①女性やカップルに将来の妊娠のための健康管理を提供すること、②元気な赤ちゃんを授かるチャンスを増やすこと、③女性や将来の家族がより健康な生活を送ること――を目的としており、「病気の有無にかかわらず、取り組まなければいけないこと」(清水先生)
清水優子先生(日本視神経脊髄炎患者会提供)
清水先生は、「産後に再発しやすい傾向がある」と指摘し、「治療を継続して再発しないようにすることが大切だ」と強調しました。また、これから妊娠を希望する人に対しては、「妊娠前にMRIを撮り、新しい病巣がないかを確認するのもよいだろう」との考えを示しました。
清水先生はまた、「どんなに健康であっても、一定程度の割合で流産が起きてしまう」として、「悲しい結果であっても絶対に自分のせいにしないでほしい」と強調しました。一方で、未治療や不完全な治療は流産のリスクを高めてしまう可能性があるとして、しっかりと治療を受ける重要性を述べました。その上で、「妊娠中や授乳中に再発したときにも実施可能な治療法はあるため、安心してほしい」と話しました。
清水先生は、妊娠中の薬の影響について不安なことがあれば、厚生労働省の事業で国立成育医療研究センター内に設置されている「妊娠と薬情報センター」への相談も可能だと紹介しました。同センターでは全国47都道府県の拠点病院で相談外来を設けているため、「何かあれば活用してほしい」(清水先生)
公認心理師・関根さん「ストレスコーピングになることをたくさん見つけて」
イベントでは、日本視神経脊髄炎患者会が30人のNMOSD当事者を対象に実施したアンケート調査の結果も公開しました。
「現在の幸せ度は10点満点中何点か」という問いに対する回答の平均は7点でした。最も多かったのは8点(26.7%)。次いで5点(16.7%)が多く、3番目に7点、9点が同率で13.3%という結果になりました。
イベントに登壇したマーケティングプランナーの宮下陽介さん(Hakuhodo DY Matrix)はアンケート結果を踏まえ、「点数が高いからよかったと終わらせるのではなく、点数が高い人はなぜ幸せを感じているのか、点数が低い人はなぜ苦しんでいるのか、そこに目を向けて話していくことが大切だ」との認識を示しました。
アンケート結果では、楽しかったエピソードも寄せられました。一部を紹介します。
● 退院祝いで1番自分がお肉食べて、早く食べ終わり、デザートまで食べた。病人ではないくらいだった。
● 久しぶりに会った娘と近況報告。言葉がシンクロしたとき笑った。
● 一生無理だと思っていた『走ること』に挑戦したこと。
その一方で、「心から楽しかったことがなかった」との回答も。また、「いつもは家事を手伝ってくれるのに、家族とケンカし、手伝ってもらえないことがあった」「できないながらも一生懸命家事をしているが、夫から『もっと丁寧にするように』と言われ、傷ついた」というエピソードもありました。
こうしたエピソードについて、患者会代表の坂井田さんはうなずきながら、「私もわかってもらえないと感じることがある」と共感を表しました。
公認心理士の関根さんは自身を元気づける方法として、「ストレスコーピング(ストレスの上手な対処法)になることをたくさん見つけることが大切」とアドバイス。「コーヒーを飲む、散歩するなど、細かいことでよい。たくさん選択肢があると、1つのストレスコーピングに依存することなく、そのときにぴったりのことを自分で選ぶことができる」と説明しました。関根さんによると、無意識で行うことはストレスコーピングにはならないため、「今はこれをしちゃおう!」と意識的に実施するとよいそうです。
みなさんは、ストレスコーピングの選択肢をいくつ思い浮かべることができますか? 甘いものを食べる、いい香りの入浴剤を使う、好きな芸能人の動画をみる、音楽を聴く……。何をしているとストレスが和らぐかを考えるのも、素敵な時間ですね。
病気を抱えている人も、そうでない人も、解決の難しいさまざまな問題と上手に付き合いながら、自分らしい生活を送っていきたいものですね。(QLife編集部)
文献
難病情報センター:多発性硬化症/視神経脊髄炎(指定難病13)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/3806
リンク
・NPO法人日本視神経脊髄炎患者会
・特集 僕と私の難病情報
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。