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不整脈の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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不整脈とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 心臓は全身に血液を送りだすために、一定のリズムで収縮と拡張をくり返しています。このリズムがなんらかの原因で乱れた状態を不整脈といいます。

 不整脈は脈がとぎれたり急に速くなったりするもの(期外収縮)、リズムは保っているものの速くなるもの(頻脈)、遅くなるもの(徐脈)に分けられます。

 失神、めまい、動悸、疲れやすい、呼吸困難などが代表的な症状です。ただし、自覚症状がなく、心電図検査の異常でしかみつけることのできない不整脈もあります。治療しなくても大きな影響はないものから、ただちに治療を開始しなければ生命にかかわるものまであり、不整脈では治療の必要性を見極めることが非常に重要です。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 期外収縮は心筋梗塞などの虚血性疾患によっておこるもののほか、アルコールや喫煙、過労などが原因となることもあります。

 心臓の拍動のリズムが速くなる頻脈性不整脈には、拍動に必要な電気の伝導(心臓のリズムの伝達)が本来の経路だけでなく別の経路でも伝わるためにおこるもの(発作性上室性頻拍症)や、心臓弁膜症や高血圧などの病気が原因で心房に負荷がかかり、心房が細かくふるえて頻脈になるもの(心房細動や心房粗動など)があります。

 心臓の拍動のリズムが遅くなる徐脈性不整脈には、右心房と上大静脈のつなぎめにある洞結節という小さな組織とその周辺の障害によっておこるもの(洞不全症候群)があります。また、心房と心室の間にある房室結節の障害によっておこるもの(房室ブロック)などがあります。

病気の特徴

 不整脈は近年増加しており、不整脈による死亡率も同じく増加の傾向にあります。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
治療の必要な不整脈かどうかを確定する ★2 不整脈にはさまざまな種類があり、種類によって治療が必要であるかどうかが異なります。したがって、どのような種類の不整脈であるかを調べることは重要です。これは専門家の意見や経験から支持されています。検査には、12誘導心電図、ホルター心電図、負荷心電図、心臓電気生理検査などがあります。心臓電気生理検査はめまいや失神を伴う患者さんの場合にとくに推奨されています。
不整脈の種類に合わせて薬物治療を行う ★5 不整脈は薬物治療により症状が改善することが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。原因となっている不整脈の種類に合った薬を選ぶことが重要です。 根拠(1)
除細動器で不整脈を停止させる ★5 心室細動などの心室性の不整脈は、除細動器で停止させることができます。発作は突然死に直結し得るため、心電図で心室細動が確認されている場合、めまいや失神、血圧低下などの症状を呈する心室頻拍がある場合、拡張型心筋症などの基礎疾患があり心機能が著しく低下した患者さんで不整脈が原因と考えられる失神がある場合などは、埋め込み型除細動器が推奨されています。埋め込み型除細動器が、薬物治療より優っていることは、非常に信頼性の高い大規模な臨床研究で明らかになっています。 根拠(2)
ペースメーカーで脈の少ない状態をサポートする ★5 徐脈性不整脈ではペースメーカーが有効であることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。ここでいう徐脈性不整脈とは、症状のある房室ブロックや洞不全症候群、めまいなどの症状のある徐脈性心房細動を指します。 根拠(3)
左右の心室の拍動のずれをペースメーカーで補正する ★3 心臓の機能が著しく低下すると、拍動に必要な電気の伝導がうまくいかず、左右の心室の拍動のタイミングのずれが生じることがあります。このような患者さんには、心臓再同期療法といって拍動のタイミングのずれを補正するペースメーカーの埋め込みが推奨されます。このような患者さんでは危険な心室性不整脈を呈することがあるので、埋め込み型除細動器も兼ねた医療機器の埋め込みが推奨されます。中等度以上の慢性心不全を伴う患者さんの不整脈では、この治療が心不全の増悪を予防し、予後を改善することが臨床研究によって証明されています。 根拠(4)
背景に心臓病がある場合はその治療を行う ★2 心臓に酸素や栄養を供給する冠動脈という血管が狭くなり、十分に血液が流れない場合や、弁膜症などで心房に負担がかかっている場合に心房細動と呼ばれる不整脈を生じることがあります。このような患者さんでは、原因となる心臓病を治療すると不整脈の改善につながることがあります。こうした治療は、専門家の意見や経験から支持されています。
カテーテルアブレーションを行う ★2 不整脈を誘発する電気の伝導経路に関する研究は進んでおり、現在では多くの不整脈にその伝導回路を修正することを目的に、カテーテルアブレーション(カテーテルによる心筋焼灼術)が行われています。アブレーションは通常存在しない伝導経路を焼灼して、不整脈を改善しようとするものです。とくにWPW症候群(ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群:余分な伝導経路が存在する先天的な病気)や発作性上室性頻拍、通常型発作性心房粗動という種類の不整脈などでは根治率が高いといわれています。現在では多くの不整脈に行われていますが、行うかどうかについては専門家の判断が必要です。 根拠(5)(6)
過度の飲酒を避ける ★3 ある種の不整脈は、過度の飲酒によって悪化するという臨床研究があります。ほかの健康上の理由からも、過度の飲酒は避けたほうがいいでしょう。 根拠(7)
禁煙する ★5 喫煙者は禁煙することで不整脈による死亡リスクが減少します。これは非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(8)
睡眠不足や過労を招かないように、規則正しい生活を送る ★2 睡眠不足や過労が原因となって生じる不整脈もあります。規則正しくストレスのない生活を送ることが重要です。これは臨床研究によって効果が確認されていませんが、専門家の意見や経験から支持されています。

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

ジギタリス製剤

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ジゴシン(ジゴキシン) ★2 心房細動が頻脈を生じた場合に症状を改善する目的で使用されますが、予後の改善効果は確認できていません。

カルシウム拮抗薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ヘルベッサー(ジルチアゼム塩酸塩) ★3 ジルチアゼムは上室性不整脈の脈拍数を低下させることに効果的であることが、臨床研究によって確認されています。ベラパミル塩酸塩はジルチアゼム塩酸塩と同様の作用が認められているほか、頻拍の再発の予防効果も確認されています。 根拠(9)
ワソラン(ベラパミル塩酸塩) ★3

抗不整脈薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
 以下に日常的に用いられることの多い抗不整脈薬を記載します。代謝経路や効果は薬ごとに異なり、どの薬を選択するかについては、専門医が患者さんそれぞれの不整脈の種類、基礎にある病気の有無、合併している病気(腎臓の病気や肝臓の病気など)を十分に考慮して判断する必要があります。 キシロカイン(リドカイン塩酸塩) ★1 リドカインは即効性があるため、これまでよく臨床現場で使われてきましたが、心筋梗塞に付随しておこる心室細動の予防に関しては、発症は少なくなるものの死亡率は変わらない、もしくは増加するという研究結果がでており、使用される場は少なくなっています。 根拠(10)(11)
アンカロン(アミオダロン塩酸塩) ★2 心室性頻拍や心室細動に使用され、二次予防に関して有用性は臨床研究によって確認されています。ただし、肺の線維化や甲状腺機能に異常を来す可能性も報告されています。 根拠(12)
ベプリコール(ベプリジル塩酸塩) ★2 持続性心房細動の停止に対する有効性が確認されています。 根拠(13)
メキシチール(メキシレチン塩酸塩) ★2 リドカインに類似した薬ですが、心室頻拍や心室性期外収縮などに使用されています。有効性は70パーセント程度との報告があります。
リスモダン(ジソピラミド) ★2 上室性不整脈、心室性不整脈の双方に使用されることがあります。尿閉や低血糖などの副作用が報告されています。
アスペノン(アプリンジン塩酸塩) ★2 心房細動の停止や再発予防に使用されていることがあります。半減期が長く、1日1~2回の使用でよいこと、腎障害や心機能、呼吸機能が低下した患者さんにも使いやすいことが特徴です。
シンビット(ニフェカラント塩酸塩) ★2 持続性心室性頻拍の誘発を止める効果に関しては、アミオダロンに劣るとされていますが、難治性の心室細動や心室頻拍に対する効果が期待されています。 根拠(14)(15)
タンボコール(フレカイニド酢酸塩) ★2 上室性、心室性の頻脈性不整脈の双方に使用されています。心筋梗塞をおこした患者さんに使用すると、死亡率が高くなるという報告があります。 根拠(16)
サンリズム(ピルジカイニド塩酸塩) ★2 心房細動の停止や再発予防に使用されます。日本で開発された薬剤であり、日本でよく使用される抗不整脈薬の一つです。腎臓で代謝、排泄されるため腎臓の機能が低下している場合には使い方には注意が必要です。

抗凝固薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ワーファリン(ワルファリンカリウム) ★5 心房細動が慢性化すると、冠動脈にできた血のかたまり(血栓)が脳などの臓器に飛んで血栓症を引き起こします。これを予防するため、抗凝固薬を内服する必要があります。以前は、主としてワルファリンカリウムが使われてきましたが、現在では弁膜症の関連しない心房細動で使用できる抗凝固薬の選択肢は広がっています。 根拠(17)
プラザキサ(ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩) ★5
イグザレルト(リバーロキサバン) ★5
エリキュース(アピキサバン) ★5
リクシアナ(エドキサバントシル酸塩水和物) ★5

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

不整脈の種類を確認することが大切

 不整脈は心臓がドキッとする、脈が飛ぶ、突然動悸が始まり突然終わる、気が遠くなる、などと表現されるさまざまな自覚症状を引きおこします。治療は不整脈の種類によって放置しておいてよいものから、ペースメーカーを植え込んだり、植え込み型除細動器が必要となったりするものまで、まさに千差万別です。

 したがって、不整脈が疑われたなら、どのような種類の不整脈なのか、心電図や携帯型のホルター心電計(長時間記録する心電図)で正確に診断することが重要です。

誘因を減らす生活改善だけでよいことも

 不整脈のうちもっとも頻度が高いのは単発性の心室性期外収縮で、健康な人でもよく認められます。基礎に心臓の病気がない限り、喫煙や過度な飲酒、寝不足、ストレスなどの誘因をできるだけ減らしていくことが大切で、とくに治療を行う必要はありません。

抗凝固薬を継続的に服用することも

 心筋梗塞や心臓弁膜症などの心臓の病気に伴って、またそのような病気がなくても、加齢に伴い頻度が高くなる不整脈に心房細動があります。心房細動があると心臓内で血栓(血のかたまり)ができやすくなります。抗凝固薬を継続的に服用することで、血栓症を予防することができます。

薬の副作用に注意する

 不整脈を抑える薬のなかには命にかかわる副作用(さらに不整脈を引きおこす、心不全、突然死など)をもつものもあるので、専門医や薬剤師からの説明をしっかり聞き、何かあったときはすぐにかかりつけの医療機関を受診するようにしましょう。

症状によっては医療機器を埋め込む

 完全房室ブロックや洞不全症候群などの徐脈性不整脈で、失神やその前兆と考えられる症状があるときには、ペースメーカーの埋め込みが必要になります。心室頻拍や心室細動がおこりやすい患者さんでは、植え込み型除細動器を使います。不整脈のタイプによってはアブレーションが有効なものもあります。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

  • (1)循環器病ガイドシリーズ.不整脈薬物治療に関するガイドライン (2009年改訂版). http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_kodama_h.pdf
  • (2)The Antiarrhythmics Versus Implantable Defibrillators(AVID) Investigators. A comparison of antiarrhythmic-drugtherapy with implantable defibrillators in patients resuscitatedfrom near-fatal ventricular arrhythmias. N Engl J Med. 1997; 337: 1576-1583.
  • (3)循環器病ガイドシリーズ.不整脈の非薬物治療ガイドライン (2011年改訂版). http://web.pref.hyogo.jp/hw19/documents/guideline.pdf
  • (4)McAlister FA, Ezekowitz J, Hooton N, et al. Cardiac resynchronization therapy for patients with left ventricular systolic dysfunction: A systemic review. JAMA. 2007; 297:2502-2514.
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  • (17)循環器病ガイドシリーズ.心房細動治療 (薬物) ガイドライン (2013年改訂版). http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_inoue_h.pdf
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)