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不整脈の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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不整脈とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 心臓は全身に血液を送りだすために一定のリズムで収縮と拡張をくり返していますが、そのリズムに合わせて健康な成人は1分間に約60~90回の脈を打っています。このリズムがなんらかの原因で乱れた状態を不整脈といいます。

 不整脈は脈がとぎれたり、急に速くなったりするもの(期外収縮)、リズムは保っているが異常に速くなるもの(頻脈)、逆に異常に遅くなるもの(徐脈)に分けられます。

 失神、めまい、動悸、疲れやすい、呼吸困難などが代表的な症状です。ただし、自覚症状がなく心電図上だけで異常が現れるものもあります。

 放置していても問題にならないものから、ただちに治療を開始しなければ生命にかかわるものまであり、不整脈では治療の要・不要を見極めることが非常に重要です。正確な診断のためには、24時間の心電図を記録できる携帯用ホルター心電計が役立ちます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 期外収縮は狭心症や心筋梗塞などの虚血性疾患によっておこることがあるほか、アルコールや喫煙量が多かったり、過労などが原因となることもあります。

 心臓の拍動のリズムが速くなる頻脈性不整脈には、心臓のリズムの伝達が、ふつうの人とは異なり、先天的に存在する別の経路でも伝わってしまうためにおこるものがあります(発作性上室性頻拍症)。また、心臓弁膜症や高血圧などによって心房に負荷がかかると、心房が細かくふるえて頻脈になるもの(心房細動)もあります。

 逆に心臓の拍動のリズムが遅くなる徐脈性不整脈には、心臓の右心房の一番上にある小さな組織、洞結節とその周辺の障害によっておこってくるもの(洞不全症候群)があります。また、心房と心室の間にある房室結節に障害があっておこってくるもの(房室ブロック)などがあります。

病気の特徴

 不整脈は近年増加しており、不整脈による死亡率も同じく増加の傾向にあります。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
治療の必要な不整脈かどうかを確定する ★2 不整脈にはさまざまな種類があり、種類によって治療が必要であるかどうかが異なります。したがって、どのような種類の不整脈であるのかを調べることは重要です。これは専門家の意見や経験から支持されています。
不整脈の種類に合わせて薬物治療を行う ★5 不整脈は薬による治療により、症状が改善することが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。しかし、心室性の不整脈の場合には、薬物を服用することにより逆に不整脈を誘発してしまうことがあるため、原因となっている不整脈の種類に合った薬を選ぶことが重要です。 根拠(1)(2)
電気ショックによって不整脈を停止させる ★2 心房細動や心室性の不整脈は、電気ショックにより安全に治療することができます。これは専門家の意見や経験から支持されています。ただし、すべての不整脈が治療の適応になるわけではないので、慎重に検討する必要があります。 根拠(1)(3)
外部から電気信号を送って不整脈を停止させたり、維持したりする ★5 徐脈性の不整脈については、外部から電気信号を送る体外ペーシングが有効であることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。ただし、あくまでも緊急避難的な治療であり、よりよい治療を行うことが可能になれば変更することが必要です。 根拠(4)
背景に心臓病がある場合はその治療を行う ★2 心臓の血管が狭くなり十分に血液が流れない場合は不整脈を生じることがあります。また、心臓の機能が低下して心房に負担がかかると、心房細動と呼ばれる不整脈を生じることがあります。このような場合には、原因となる心臓病を治療すると不整脈が改善することがあります。こうしたことは、専門家の意見や経験から支持されています。
ペースメーカー植え込み術を行う ★5 心臓の上下の部屋の情報伝達がうまくいかないことが、原因となって生じる不整脈があります。そのような場合には、ペースメーカーを皮下に植え込むことにより心臓の機能を保つことができます。これは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。ペースメーカーは、電気刺激を心筋に送り、脈拍のリズムをコントロールする装置です。 根拠(5)
電気焼灼術を行う ★4 脈が速くなる種類の不整脈の一部については、電気焼灼術の治療が有効であることが、信頼性の高い臨床研究によって確認されています。電気焼灼術とは心臓に電極のついたカテーテル(細い管)を挿入し、不整脈の根源となっている心臓組織にあて、電気を流して破壊もしくは修正する治療法です。 根拠(6)
植え込み型除細動器を用いる ★5 心臓の機能が著しく低下していて、心室性不整脈が頻繁に生じる場合には、植え込み型除細動器を用いることにより死亡率が低下することが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。植え込み型除細動器は、ペースメーカーのように皮下に植え込んで使われます。致死性の不整脈を感知すると、自動的に弱い電気刺激をだして、不整脈を取り除く装置です。 根拠(7)
過度の飲酒を避ける ★3 ある種の不整脈は、過度の飲酒を行うことで悪化するという臨床研究があります。ほかの健康上の理由からも、過度の飲酒は避けたほうがいいでしょう。 根拠(8)
禁煙する ★5 たばこを吸っている人は、禁煙することで不整脈による死亡が減少します。これは非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(9)
睡眠不足や過労を招かないように、規則正しい生活を送る ★2 睡眠不足や過労が原因となって生じる不整脈もあります。規則正しくストレスのない生活を送ることが重要です。これは臨床研究によって効果が確認されていませんが、専門家の意見や経験から支持されています。

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

ジギタリス製剤

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ジゴシン(ジゴキシン) ★5 ジゴキシンは、心房細動という脈が速くなる不整脈で、脈拍数のコントロールを行うのに効果的であることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(13)

カルシウム拮抗薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ヘルベッサー(塩酸ジルチアゼム) ★5 塩酸ジルチアゼムは、上室性(心臓の上部が原因で生じる)不整脈に効果的であることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(14)

抗不整脈薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
アミサリン(塩酸プロカインアミド) ★5 不整脈の種類により、治療効果が証明されている薬もありますが、薬を服用することにより逆に不整脈を誘発してしまうこともあります。不整脈と抗不整脈薬の組み合わせは非常に多いため、医師と相談して適切な治療薬を選んでください。適切な薬を選べば効果のあることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(10)~(12)
キシロカイン(塩酸リドカイン) ★5
シンビット(塩酸ニフェカラント) ★5
メキシチール(塩酸メキシレチン) ★5
タンボコール(酢酸フレカイニド) ★5
リスモダン(ジソピラミド) ★5
アスペノン(塩酸アプリンジン) ★5
サンリズム(塩酸ピルジカイニド) ★5

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

どの種類かを確認することが大切

 不整脈は心臓がドキッとする、脈がとぶ、突然動悸がし始め突然終わる、気が遠くなる、などさまざまな自覚症状を引きおこします。治療はその種類によって、放置しておいてよいものから、ペースメーカーを植え込んだり、植え込み型除細動器が必要となったりする場合まで、まさに千差万別です。

 したがって、不整脈が疑われたなら、どのような種類の不整脈なのか、心電図(場合によっては携帯型のホルター心電計で長時間記録する心電図)で正確に診断することが必要です。

誘因を減らす生活改善だけでよいことも

 もっとも頻度が高いのは単発性の心室性期外収縮で、健康な人でもほとんどの人で認められます。基礎に心臓の病気がない限り、喫煙や飲酒、寝不足、ストレスなどの誘因をできるだけ減らすよう努めるだけでよいでしょう。

薬の副作用に要注意

 心筋梗塞や心臓弁膜症などの心臓の病気に伴って、またそのような病気がなくても、年齢とともにおこる頻度が高くなる不整脈に心房細動があります。

 心房細動があると心臓内で血栓(血のかたまり)ができやすくなり、その血栓が脳内の血管に流れ込んで血管をつまらせると脳卒中(脳塞栓)になります。抗凝固薬のワーファリン(ワルファリンカリウム)や抗血小板薬(アスピリンや塩酸チクロピジン)を継続的に服用することで、脳卒中を予防することができます。

 一般的にいって、不整脈を抑える薬のなかには生命にかかわる副作用(かえって不整脈を引きおこす、心不全、突然死など)をもつものもありますので、専門医とよく相談しましょう。

症状によってはペースメーカーを使用

 完全房室ブロックや洞不全症候群などの徐脈性不整脈で、失神やその前兆と考えられる症状があるときには、人工ペースメーカーの挿入が必要になります。

 心筋梗塞後の人に多いのですが、心室性期外収縮が連続してでる心室頻拍や心室細動がおこりやすいタイプの人には、植え込み型除細動器を挿入します。または、心拍数があまりに多くなるタイプの心房細動では電気焼灼術を行ったりすることもあります。

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根拠(参考文献)

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  • (2) Effect of the antiarrhythmic agent moricizine on survival after myocardial infarction. The Cardiac Arrhythmia Suppression Trial II Investigators. N Engl J Med. 1992;327:227-233.
  • (3) Zoll, PM, Linentha, AJ. Termination of refractory tachycardia by external countershock. Circulation. 1962;25:596.
  • (4) Madsen JK, Meibom J, Videbak R, et al. Transcutaneous pacing: experience with the Zoll noninvasive temporary pacemaker. Am Heart J. 1988;116:7-10.
  • (5) Gregoratos G, Abrams J, Epstein AE, et al. ACC/AHA/NASPE 2002 Guideline Update for Implantation of Cardiac Pacemakers and Antiarrhythmia Devices--summary article: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines (ACC/AHA/NASPE Committee to Update the 1998 Pacemaker Guidelines). J Am Coll Cardiol. 2002;40:1703-1719.
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  • (13) Murgatroyd FD, Gibson SM, Baiyan X, et al. Double-blind placebo-controlled trial of digoxin in symptomatic paroxysmal atrial fibrillation. Circulation. 1999;99:2765-2770.
  • (14) Alboni P, Tomasi C, Menozzi C, et al. Efficacy and safety of out-of-hospital self-administered single-dose oral drug treatment in the management of infrequent, well-tolerated paroxysmal supraventricular tachycardia. J Am Coll Cardiol. 2001;37:548-553.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行