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低血圧の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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低血圧とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 低血圧は、高血圧に比べて研究の進んでいない分野といえます。それは、重症の感染症や副腎の著しい機能低下といった病気が誘発する低血圧を除けば、長期的にも短期的にも命にかかわる可能性が低いからです。

 血圧は人によってばらつきがあるため、低血圧の定義は決まってはいませんが、おおむね収縮期血圧が90ミリメートルエイチジー以下のことを指します。先ほど挙げたような命にかかわる病気を合併した場合、めまいやふらつきなどの症状がある場合に、治療の対象となります。

 低血圧には、ほかの病気が原因でおこる症候性(二次性)低血圧と、原因のはっきりしない本態性低血圧、立ち上がったときに急に血圧が低下して気分不良やふらつきをおこす起立性低血圧、食事に伴って突然、血圧が下がる食後低血圧などがあります。

 低血圧の人のなかには、不眠や不安、緊張などがあって、朝起きるのが苦痛で、午前中はずっと気分がすぐれないという症状を訴える人もいます。ただ、これらは低血圧で必ずみられるものではなく、人によって症状が異なります。また、血圧値と症状が必ずしも関連しないこともあり、季節的な変動も見られるます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 重症の病気に合併する低血圧は、体を循環する血液量が減って臓器に対する血流が低下するために生じます。健康で単に血圧だけが低いという人は、その状況に慣れていることもあって、大きな健康被害に至らないことも少なくありません。

 起立性低血圧や食事低血圧は、自律神経の働きが悪く、血圧調節がうまく機能しないためにおこると考えられています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
低血圧の原因を知る ★2 血圧が低い原因を知ることは、治療を行うかどうかを決定する際に非常に重要です。重症の感染症や出血などの結果としておこっているのであれば、すぐに治療を始める必要があります。起立性低血圧はパーキンソン病や糖尿病、薬剤などが原因でおこっている可能性があります。
生活習慣を改善する ★3 ゆっくり起き上がる、水分をこまめに摂取する、頭をすこし上げて寝る、弾性ストッキングを着用するなど、生活習慣の改善によって起立性低血圧を改善させる試みが行われていますが、いずれも小規模な臨床研究で有効性が示されたにすぎず、大規模な臨床研究による検討はまだなされていません。 根拠(1)(2)
運動をする ★3 定期的な運動は、起立性低血圧の原因となっている自律神経の機能障害を改善させるという臨床研究があります。 根拠(3)
食事の調整を行う ★2 有効性を示す臨床研究は見あたりませんが、食事量を少なめにする、アルコールの摂取をできるだけ減らすといった方法が、食後低血圧を改善させると考えられています。
昇圧薬や副腎皮質ステロイド薬を用いる ★5 薬物療法以外の治療で症状が十分改善しない場合、血圧を上げる昇圧薬や副腎皮質ステロイド薬などの薬物療法が考慮されます。 根拠(4)~(6)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

昇圧薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
メトリジン(ミドドリン塩酸塩) ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によって、症状を改善することが確認されています。 根拠(4)

副腎皮質ステロイド薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
フロリネフ(酢酸フルドロコルチゾン) ★3 体内に水分を貯留させることによって血圧を上昇させる効果があるという臨床研究があります。フルドロコルチゾンは合成された鉱質コルチコイドですが、浮腫や心不全といった副作用も高頻度に認められるため、注意が必要です。 根拠(5)(6)
エリスロポエチン ★3 貧血を合併した起立性低血圧に使用され、効果があったという報告があります。 根拠(7)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

まずは低血圧の原因を探る

 病気や薬の服用が原因で低血圧がおこることもあります。そこで低血圧の診断では、感染症やパーキンソン病、糖尿病、心臓病、副腎皮質不全といった病気が隠れていないか、あるいは降圧薬や利尿薬などによっておこったものではないか、その原因を慎重に調べる必要があります。

 なんらかの病気がある場合には、その病気の治療をすることで低血圧も治癒する可能があります。低血圧の原因が見つからない場合は、低血圧によって起こる症状の改善が主体になります。

生活上の工夫も大切

 運動、塩分と水分の摂取を多めにすること、頭をやや高くして寝ることなどが勧められます。

昇圧薬などを投与することも

 生活改善などで症状が十分に改善しないときは、薬物療法が行われます。まずは昇圧薬のミドドリンを試し、それでも生活に支障があればフルドロコルチゾンを用います。

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根拠(参考文献)

  • (1)Wieling W, Raj SR, Thijs RD. Are small observational studies sufficient evidence for a recommendation of head-up sleeping in all patients with debilitating orthostatic hypotension? MacLean and Allen revisited after 70 years. ClinAuton Res. 2009;19:8-12.
  • (2)Podoleanu C, Maggi R, Brignole M, et al. Lower limb and abdominal compression bandages prevent progressive orthostatic hypotension in elderly persons: a randomized single-blind controlled study. Am CollCardiol. 2006;48:1425-1432.
  • (3)Carroll JF, Wood CE, Pollock ML, et al. Hormonal responses in elders experiencing pre-syncopal symptoms during head-up tilt before and after exercise training. J Gerontol A BiolSci Med Sci. 1995;50:M324-M329.
  • (4)Low PA, Gilden JL, Freeman R, et al. Efficacy of midodrine vs placebo in neurogenic orthostatic hypotension. A randomized, double-blind multicenter study. Midodrine Study Group. JAMA. 1997;277:1046.
  • (5)Campbell IW, Ewing DJ, Clarke BF. 9-Alpha-fluorohydrocortisone in the treatment of postural hypotension in diabetic autonomic neuropathy. Diabetes. 1975;24:381-384.
  • (6)Hussain RM, McIntosh SJ, Lawson J, et al. Fludrocortisone in the treatment of hypotensive disorders in the elderly. Heart. 1996;76:507-509.
  • (7)Hoeldtke RD, Streeten DH. Treatment of orthostatic hypotension with erythropoietin. N Engl J Med. 1993;329:611-615.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)