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下肢静脈瘤の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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下肢静脈瘤とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 下肢、とくに下腿の体表面近くの静脈が拡張し、不規則に蛇行し、曲がりくねってこぶのようになった状態を下肢静脈瘤といいます。長時間立ち続けたあとなどに、足のだるさ、疲れ、焼けるような不快感、痛み、むくみなどがみられます。こむら返りなどもしばしばおこります。進行性の病気で、突然悪化することはあまりありませんが、重症の場合、血管の内部に血栓ができ、血栓性静脈炎を併発することもあります。静脈瘤がもっとも目立つ付近の皮膚が炎症をおこして赤く腫れたり、湿疹、色素沈着、潰瘍が生じたり、押すと痛む圧痛が生じたりします。

 ただし、静脈瘤の大きさと症状はあまり関係ありません。こぶがかなり大きくても症状のない人もいます。とくに症状がない人は、美容上の問題だけですみます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 生まれつき静脈の壁や弁が弱いとこの病気になりやすいと考えられています。仕事などで長時間立っていると、重力の働きで足に血液がたまりやすく、静脈の壁に大きな圧力がかかります。壁が弱いと大きな圧力のために静脈壁が膨らんでしまいます。

 静脈には重力に逆らって血液を心臓に戻すために逆流を防止する静脈弁がついていますが、静脈が膨らむと弁がうまく閉じることができず、一部血液が逆流して静脈内に血液が滞り(うっ滞)、さらに血管が拡張して静脈瘤が発生することになります。

病気の特徴

 30歳~40歳以上の女性に比較的多い病気です。

 立ち仕事の人がなりやすいほか、妊娠や高齢が原因となって発症することもあります。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
弾性包帯や弾性ストッキングで圧迫療法を行う ★3 圧迫により静脈還流(心臓へ戻る血液量)を増加させることで循環不全が改善すると考えられています。ほとんどの患者さんでは膝までの圧迫が効果的で、足首に20~30mm/Hgの圧力が加わり、膝に近づくほど圧が減るストッキングが理想的です。これらのことは臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(1)
硬化療法を行う ★3 静脈内に直接薬剤を注入して、血管をつぶす硬化療法で効果が得られることが、臨床研究によって示されています。 根拠(2)
硬化療法に加えて、結紮術併用硬化療法を行う ★3 血液の逆流がおこっている部分をしばって閉じてしまうのが静脈結紮術です。逆流の強い患者さんで行われます。弾性ストッキングとの組み合わせで効果があったという臨床研究があります。 根拠(3)
静脈抜去術を行う ★3 こぶができている静脈を抜き取るのが静脈抜去術です。患者さんにとってはかなりの苦痛を伴う方法です。硬化療法や結紮術よりも良好な結果が得られた臨床研究がいくつかありますが、表在静脈(皮膚表面に近い静脈)に限局した静脈瘤に対して有効であると考えられています。 根拠(4)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

慢性的に経過する病気

 下肢の静脈が拡張し、曲がりくねってこぶのようになった状態が下肢静脈瘤です。足のだるさ、痛み、むくみなどがみられ、こむら返りなどもしばしばおこります。だんだん進行していく病気であり、突然悪化することはあまりありませんが、慢性的に経過します。

 完全に治すことは難しい病気ですが、それ以上の進行をくい止めたり、症状を取り除くことが治療の目標となります。

症状の重さによって治療法を選択する

 下肢静脈瘤の症状がどれくらい重いのかにより、圧迫療法から硬化療法、結紮術併用硬化療法、静脈抜去術などが、順次選択されます。

 症状が軽度から中等度の場合は、弾性ストッキングによる圧迫療法だけで軽快することもあります。ただし、完全に治すことは期待できません。色素沈着がひどく皮膚炎や潰瘍などをおこしている重症の場合は外科的手術が必要となります。

信頼性の高い臨床研究はなく、専門家の経験則から最善の治療を選択

 しかし、これらの治療法については、治療後に再発しやすい静脈潰瘍の予防や症状の軽減などを指標にした、非常に信頼性の高い臨床研究が行われているわけではありません。

 そのため現実的には、負担(身体的、精神的、経済的)のもっとも少ないものから試してみる、といった専門家による経験則にしたがった治療法が選択される場合もあります。

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根拠(参考文献)

  • (1) Partsch H. Compression therapy of the legs. A review. J Dermatol Surg Oncol. 1991;17:799-805.
  • (2) Goldman MP. Treatment of varicose and telangiectatic leg veins: double-blind prospective comparative trial between aethoxyskerol and sotradecol. Dermatol Surg. 2002;28:52-55.
  • (3) Stacey MC, Burnand KG, Layer GT, et al. Calf pump function in patients with healed venous ulcers is not improved by surgery to the communicating veins or by elastic stockings. Br J Surg. 1988;75:436-439.
  • (4) Rutgers PH, Kitslaar PJ. Randomized trial of stripping versus high ligation combined with sclerotherapy in the treatment of the incompetent greater saphenous vein. Am J Surg. 1994;168:311-315.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行