大腸ポリープの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
大腸ポリープとは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
大腸の粘膜に発生し、いぼのように盛り上がって腸の内腔へ飛びだしたものを大腸ポリープといいます。さまざまな種類がありますが、もっとも多いのはがんになる危険性のある腺腫や早期のがんを含む腫瘍性ポリープです。ほかに過誤腫性ポリープ、炎症性ポリープ、過形成性ポリープなどがあります。これらは、がんになる危険性がほとんどないポリープです。
また、形の違いによってきのこ状で根元がくびれている有茎性、半球状でくびれのない無茎性、平盤状で平らな部分にくぼみのあるもの、ないものなどがあります。有茎性で1センチメートル以下のものはがんになる危険性が少ないのですが、それ以上の大きさでは危険性が高まります。そのほかの形状のポリープはがんになる危険性が高いものです。
腺腫の一部にはがんがまぎれ込んでいることもあり(腺腫内がん)、鉗子でポリープの一部を少し取っただけの生検ではがんを見落とすおそれがあります。正確な診断をつけるためにはポリープ全体を切除して組織の検査をする必要があります。そこで、完全生検と治療をかねて、内視鏡的ポリペクトミーまたは内視鏡的粘膜切除術が行われます。
ポリープが小さい場合、症状はとくにありません。ある程度の大きさになると、便がポリープに接触することで便に血が混じる(下血)ことがあります。目に見える下血がなくても、便潜血反応検査をすると陽性になることがあります。そのほか、おなかが張る、おなかが痛い、便がでにくいなどの症状が現れる場合もあります。ポリープの種類によっては、粘液の混じった水様便がでます。
ポリープは複数みつかることが多く、100個以上ある場合をポリポーシス(腺腫症)と呼んでいます。ポリポーシスの多くは遺伝が関係していて、家族性大腸ポリポーシスといいます。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
すべての大腸ポリープが大腸がんになるわけではありませんし、また、すべての大腸がんが大腸ポリープから変化したものでもありません。しかし、ポリープを切除することで大腸がんの発生を非常に高い確率で予防できることがわかっています。
わが国では大腸ポリープは大腸がんとともに、この20年間で大幅に増加しています。日本人の食生活が欧米化してきていることが関係していると考えられています。世界でもっとも多くの量の肉を食べるとされるニュージーランドでは、世界でもっとも大腸がんの発生率が高くなっており、大腸ポリープ、大腸がんの発生原因として肉食はもっとも重要であるといえます。肉以外にはお酒、とくにビールとの関連も深いと考えられています。
これらの飲食物に含まれるなんらかの有害な物質によって遺伝子が傷つくことで細胞が変化し、ポリープの発生やそのがん化がおこると考えられています。現在、ポリープの発生に関係している遺伝子、ポリープを大きくすることに関係している遺伝子、ポリープをがんに変化させることに関係している遺伝子の存在が明らかになっています。
病気の特徴
大腸ポリープは、40歳代から増えはじめ、年齢が高くなるほどできやすくなります。60歳代では2人に1人が大腸ポリープをもっているとされています。女性に比べて男性に多くみられることも特徴です。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
内視鏡的ポリペクトミーが第一選択
すべての大腸ポリープががんに変化するわけではありませんが、大腸ポリープは大腸がんの発生に深いかかわりがあることがわかっています。
大腸がんに変化する危険性が高いポリープはできるだけ切除すべきです。そこで、便の潜血反応などによってポリープの存在が疑われる場合は、内視鏡的ポリペクトミーを行います。これは内視鏡で拡大されたポリープを観察しながら、スネアと呼ばれる針金状の細いワイヤーをポリープの根元にひっかけ、高周波電流を流して焼き切る治療法です。ポリープの大きさ、形態、組織の種類にかかわらず、スネアがかかれば内視鏡による組織の摘出が可能です。内視鏡による検査でポリープが見つかった場合、専門医であれば、ポリープの形状、表面の模様や大きさなどでがんに変化する危険性を判断できますので、必要なときはその場でポリペクトミーによる治療ができます。
手術が必要なこともある
しかし、出血や穿孔などの合併症がおこりやすいと考えられる場合や、がんが疑われる場合には、組織学的に十分検査したうえで、内視鏡的粘膜切除術や開腹手術をすることになります。
内視鏡的粘膜切除術は、ポリープの発生している部分に生理食塩水を注入して周囲の粘膜ごと盛り上げて粘膜とともに切除するものです。盛り上げた以降の切除の手順はポリペクトミーと同様に行います。
100個以上のポリープがある家族性大腸ポリポーシスの患者さんでは、40歳ころまでにがんとなる確率が著しく高いため、早期に大腸切除術が行われます。
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根拠(参考文献)
- (1) Bond JH. Polyp guideline: diagnosis, treatment, and surveillance for patients with colorectal polyps. Practice Parameters Committee of the American College of Gastroenterology. Am J Gastroenterol. 2000;95:3053-3063.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行