急性腎炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
急性腎炎とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
おもにのどや鼻などの上気道の感染症に引きつづいておこる腎臓の糸球体の炎症を急性腎炎といいます。
血液の混じった尿が代表的な症状で、いつもより濁っていたり、赤褐色だったりと、明らかに目で見てわかる場合もあります。肉眼でわからない場合でも、顕微鏡で調べると必ず血尿が認められます。むくみ(浮腫)や高血圧、たんぱく尿がみられることもあります。
多くの場合、のどの痛み(咽頭炎)など、いわゆるかぜの症状がおさまったあとに、これらの症状が突然現れます。感染症以外の病気で同じような症状が引きおこされることもあります。
多くは子どもにみられますが、成人に発症することも少なくありません。一般的には経過がよく、子どもは80~90パーセントが完全に治癒します。ただし、成人では50パーセントが慢性化します。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
ほとんどの患者さんでは、溶血性連鎖球菌という菌による上気道感染症がきっかけとなります。いまのところ、免疫反応が関係していると考えられています。溶血性連鎖球菌に感染すると、それに対する抗体がつくりだされ、それに補体という物質がついて免疫複合体という物質ができます。この免疫複合体が腎臓に運ばれ、ろ過作用をしている糸球体の網の目にひっかかってしまうために炎症がおきるのではないかと推測されています。糸球体のろ過作用が低下するため赤血球やたんぱく質が尿に漏れだし、腎臓全体の機能が低下して老廃物や余分な水分が体内にたまるようになります。
上気道感染症がきっかけになったことが明らかでない場合は、腎臓の細胞を取って調べる検査(腎生検)などのくわしい検査をして、ほかの原因となっている病気を見つける必要があります。
病気の特徴
まれな病気で10万人に4人の割合で発生するといわれています。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
安静を保つ | ★2 | 急性腎炎の患者さんに対して、腎臓への血流を保つために、とくに急性期には安静にすることが一般的に勧められています。しかし、自覚症状がほとんどなく、高血圧や肺浮腫もない状態なら、厳格な安静は必要としないというのが、最近の多くの専門家の考え方です。 根拠(1) | |
食塩を制限する | ★2 | 尿の出が少なく(乏尿)、むくみがあり、体内に水分がたまっているときは塩分排泄が低下しているので、塩分制限が専門家の意見や経験から一般的に勧められています。 根拠(1) | |
腎機能が低下しているときは、たんぱく質摂取の制限を行う | ★2 | 尿の出が少ないため、たんぱく質摂取を制限するべきというのは、現在のところこの病気がおこるしくみからいって正しいと考えられており、専門家の間で十分なコンセンサス(認知)が得られています。 根拠(1) | |
利尿薬を用いる | ★3 | 溶血性連鎖球菌感染後の急性腎炎の患者さんで、尿の出が少なく、むくみがある場合、利尿薬の使用で排尿が促され、むくみを軽減できることが臨床研究によって確認されています。 根拠(2)(3) | |
降圧薬を用いる | ★3 | 溶血性連鎖球菌感染後の急性腎炎でおこった子どもの高血圧に対する降圧薬の効果が臨床研究によって示されています。 根拠(4) | |
溶血性連鎖球菌が原因の場合は抗菌薬を用いる | ★2 | 溶血性連鎖球菌による咽頭炎に抗菌薬を用いることで、急性腎炎の発症を減らす予防効果は臨床研究によって確認されています。しかし、急性腎炎をすでに発症した患者さんへの治療効果は明らかになっていないようです。 根拠(5)(6) |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
排尿を促す
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
利尿薬 | ラシックス(フロセミド) | ★3 | 急性腎炎の患者さんに対して利尿効果のあることが臨床研究によって示されています。 根拠(7) |
フルイトラン(トリクロルメチアジド) | ★2 | トリクロルメチアジドの急性腎炎自体に対する効果は、専門家の意見や経験から支持されています。 |
腎臓を保護しながら血圧を下げる
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
カルシウム拮抗薬 | アダラートCR(ニフェジピン徐放剤) | ★2 | ニフェジピン徐放剤の効果については確認されていませんが、動物実験レベルで、カルシウム拮抗薬のニトレンジピンには腎機能を改善させる効果のあることが示唆されています。 根拠(8) |
ACE阻害薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
エースコール(塩酸テモカプリル) | ★3 | ACE阻害薬は急性腎炎の高血圧と腎機能の改善に効果があることが臨床研究によって確認されています。 根拠(9) | |
AII受容体拮抗薬 | ニューロタン(ロサルタンカリウム) | ★2 | ロサルタンカリウムを含め、AII受容体拮抗薬の急性腎炎の患者さんに対する効果は、専門家の意見や経験から支持されています。 |
感染症を抑える
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
抗菌薬 | サワシリン/パセトシン(アモキシシリン) | ★2 | 溶血性連鎖球菌による咽頭炎の患者さんに対して、抗菌薬を使用することで、急性腎炎の発症を減らす予防効果は臨床研究によって確認されています。しかし、すでに急性腎炎を発症した場合に、治癒を促すかどうかは明らかになっていません。 根拠(5)(6) |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
乏尿期には食塩・水分の制限を
糸球体に炎症がおこる病気ですから、糸球体のろ過作用が低下します。赤血球やたんぱく質が尿に漏れだしたり、炎症の進行に伴って腎臓の排泄機能に障害がおきてきたりします。
初期の尿の出が悪い期間(乏尿期)では、食塩に含まれるナトリウムや水分の排泄がうまく行われないため、食塩や水分の制限は絶対に必要となります。一方、たんぱく質摂取の制限は症状が進行し、腎機能の低下が著しくなった場合にのみ行われます。
食塩と水分制限だけではコントロールできない急性腎炎の高血圧に対しては、ラシックス(フロセミド)などの経口利尿薬が使用されます。
抗菌薬は試みる価値がある
溶血性連鎖球菌感染による咽頭炎の患者さんに抗菌薬を用いることによって、急性腎炎の発症が減ることは、臨床研究によって確認されています。しかし、急性腎炎をすでに発症してしまった患者さんでの効果は明らかではありません。
ただし、腎炎を引きおこしている原因として、免疫複合体(抗原抗体複合体)の可能性が考えられていますから、その元となる抗原を減らすことによって、この病気を抑える効果は期待されます。したがって、溶血性連鎖球菌の感染症がまだ少しでも残っているとしたら、短期間、抗菌薬を試みる価値はあるかもしれません。
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根拠(参考文献)
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- (2) Powell HR, McCredie DA, Rotenberg E. Response to frusemide in acute renal failure: dissociation of renin and diuretic responses. Clin Nephrol. 1980;14:55-59.
- (3) Retan JW, Dillon HC Jr. Furosemide in the treatment of acute post-streptococcal glomerulonephritis. South Med J. 1969;62:157-160.
- (4) Morsi MR, Madina EH, Anglo AA, et al. Evaluation of captopril versus reserpine and frusemide in treating hypertensive children with acute post-streptococcal glomerulonephritis. Acta Paediatr. 1992;81:145-149.
- (5) Del Mar CB, Glasziou PP, Spinks AB. Antibiotics for sore throat. Cochrane Database Syst Rev. 2000;(2).
- (6) Hricik DE, Chung-Park M, Sedor JR. Glomerulonephritis. N Engl J Med. 1998;339:888-899.
- (7) Pruitt AW, Boles A. Diuretic effect of furosemide in acute glomerulonephritis. J Pediatr. 1976;89:306-309.
- (8) Sterzel RB, McKenzie DE. Effects of nitrendipine on the course of experimental immunologic glomerulonephritis. J Cardiovasc Pharmacol. 1987;9(Suppl 1):S60-S64.
- (9) Parra G, Rodriguez-Iturbe B, Colina-Chourio J, et al. Short-term treatment with captopril in hypertension due to acute glomerulonephritis. Clin Nephrol. 1988;29:58-62.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行