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勃起障害(ED)の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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勃起障害(ED)とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 勃起が弱い、あるいは勃起を維持できないため満足な性交ができない状態を勃起障害(ED)といいます。以前、インポテンスという言葉が使われていましたが、この言葉は本来、勃起だけでなく、性欲、性交、射精、オーガズムなど性交渉にかかわる幅広い要素のどれか一つ以上に問題のある場合を指していました。現在では、こうした場合、インポテンスという言葉を使わず、性機能障害と呼んでいます。

 勃起障害は性機能障害のなかの一つという位置付けです。性欲はあるのに勃起に問題がある場合、勃起障害として治療の対象になります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 勃起は、性的な刺激によって自律神経が作動し、血液が陰茎海綿体と呼ばれるスポンジのような組織に流れ込むことによっておこります。このときに、なんらかの原因で十分な血液が流れ込まないと勃起がおこりません。

 EDの原因には機能性と器質性があります。機能性勃起障害は心因性勃起障害とも呼ばれる精神的なもので、新婚初夜に緊張のあまりEDとなる新婚EDが典型的な例です。

 以前、性交渉に失敗したことが気になって勃起がうまくいかなかったり、勃起はできても性交にまで至らなかったりすることもあります。これらの場合、自慰は可能なことが多く、睡眠中に自然におこる夜間勃起なども正常です。

 一方、器質性勃起障害には、陰茎に関係する血管に異常のある血管因性のもの、脳神経や末梢神経に障害のある神経因性のもの、下垂体や性腺からのホルモン分泌に異常がある内分泌因性のものなどがあります。

病気の特徴

 40歳代後半で20パーセント、60歳代以降では半数を超える人がこの病気で悩んでいるといわれています。また、糖尿病や高血圧の人はEDになりやすいとされています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
勃起不全治療薬を用いる ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によって、勃起不全治療薬バイアグラの効果が確認されています。ただし、副作用として、頭痛、ほてり、消化不良などがおこることがあります。また男性糖尿病患者の56パーセントで勃起の改善を認めたとの報告もあります。 根拠(1)~(3)
抗うつ薬を用いる ★3 セロトニン再取り込み阻害薬は憂うつな気分をやわらげるだけでなく、性欲や勃起障害も低下させる働きをもっていることが臨床研究によって確認されています。ただし、イミプラミンなどでは射精が遅れる「副作用」があるため、むしろ早漏の患者さんには有用かもしれません。 根拠(4)
男性ホルモン薬を「皮膚パッチ」または「筋肉内注射」で補う ★5 男性ホルモン薬の皮膚パッチの有効性が非常に信頼性の高い臨床研究で示されています。それから考えて筋肉内注射も有効と考えられます。 根拠(5)
陰圧式勃起補助具を用いる ★3 プラスチック製の筒のなかに陰茎を挿入し、ポンプを使って筒内を陰圧にする補助具を使用したとき、67パーセントに勃起がおこったことが臨床研究によって確認されています。また、満足度は80パーセント前後と報告されています。 根拠(6)
血管拡張薬を陰茎海綿体に注射する(陰茎注射療法) ★3 プロスタグランジンなどの血管拡張薬を用い、約85パーセントの患者さんに効果を認めたとの臨床研究報告があります。ただし研究期間内に脱落する患者さんが多く、正確な評価を行えば、この数字より低い可能性があります。 根拠(7)
プロステーシス挿入手術を行う ★2 プロステーシス挿入手術とは、陰茎海綿体のなかにプロステーシスというシリコンの棒を手術で入れて、持続的な勃起を可能にする方法です。バイアグラ使用、陰茎注射療法、勃起補助具などで効果がない男性に対して考慮すべき治療法として、専門家の意見や経験から支持されています。
カウンセリングを受ける ★2 勃起障害に対して不安を感じている男性には効果があるかもしれません。

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

勃起不全治療薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
バイアグラ(クエン酸シルデナフィル) ★5 クエン酸シルデナフィルは、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(1)~(3)

抗うつ薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
レスリン/デジレル(塩酸トラゾドン) ★3 おもにセロトニンの神経細胞への再取り込みを阻害する薬で、臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(4)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

バイアグラが第一選択

 EDの原因には機能性と器質性があるので、まず原因を明らかにすることが大切です。

 実際上は、効果の確実性、安全性、患者さんと医療者双方への負担のいずれを考えても、バイアグラ(クエン酸シルデナフィル)の服用がほとんどのケースでの第一選択薬となります。

一長一短だが多種の治療法がある

 カウンセリングや男性ホルモン薬の皮膚パッチ・筋肉内注射などはバイアグラに比べて効果はやや劣るようですし、陰圧式勃起補助具や血管拡張薬の陰茎海綿体への注射は比較的確実な効果をもたらしますが、患者さんの身体的ダメージ、医療側への負担は大変大きいものがあります。バイアグラの服用や陰茎注射療法、勃起補助具などすべて無効な場合にのみ、プロステーシス挿入手術を考慮するとよいでしょう。

心臓病の人は服用上の注意を厳守

 バイアグラの使用に際しては、狭心症や心筋梗塞といった病気のある人は、医師と相談のうえ、服用上の注意を厳格に守る必要があります。

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根拠(参考文献)

  • (1) Goldstein I, Lue TF, Padma-Nathan H, et al. Oral sildenafil in the treatment of erectile dysfunction. Sildenafil Study Group. N Engl J Med. 1998;338:1397-1404.
  • (2) Rendell MS, Rajfer J, Wicker PA, et al. Sildenafil for treatment of erectile dysfunction in men with diabetes: a randomized controlled trial. Sildenafil Diabetes Study Group. JAMA. 1999;281:421-426.
  • (3) Fink HA, Mac Donald R, Rutks IR, et al. Sildenafil for male erectile dysfunction: a systematic review and meta-analysis. Arch Intern Med. 2002;162:1349-1360.
  • (4) Herman JB, Brotman AW, Pollack MH, et al. Fluoxetine-induced sexual dysfunction. J Clin Psychiatry. 1990;51:25-27.
  • (5) Jain P, Rademaker AW, McVary KT. Testosterone supplementation for erectile dysfunction: results of a meta-analysis. J Urol. 2000;164:371-375.
  • (6) Tay KP, Lim PH. A prospective trial with vacuum-assisted erection devices. Ann Acad Med Singapore. 1995;24:705-707.
  • (7) Linet OI, Ogrinc FG. Efficacy and safety of intracavernosal alprostadil in men with erectile dysfunction. The Alprostadil Study Group. N Engl J Med. 1996;334:873-877.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行