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肺炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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肺炎とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 肺のなかで微生物(病原体)が増殖しておこる肺炎は、発熱、せき、痰、胸痛(胸の痛み)、呼吸困難(息苦しさ)などの症状を引きおこします。

 重症になると、脱水症状や敗血症をおこすこともあります。胸部のレントゲン写真を撮影して診断をつけます。

 血液検査ではCRP(C反応性たんぱく。炎症があると数値が上昇するので、炎症がおきているかどうかを判断する指標となる)が陽性となり、白血球数が増加します。

 治療は抗菌薬によって行いますが、そのためには肺炎の原因となっている微生物を見極める(同定する)必要があります。細菌などの病原微生物によって用いられる抗菌薬が変わってくるからです。

 ただし、きちんと同定するには痰のなかの細菌を培養する必要があり、数日間必要なため、それを待たずに有効な可能性の高い抗菌薬を決めるために痰を顕微鏡で観察します。

 細菌以外にもウイルスやマイコプラズマ、クラミジアなどが原因となる肺炎もあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 細菌の増殖が主として、肺胞上皮と肺胞腔でおこる肺胞性肺炎は細菌によって発症することが多くあります。細菌に対する免疫反応によって好中球(白血球のなかの顆粒球で、体内に侵入した異物を追跡し、破壊する)が集まり、水分が滲出するためレントゲン写真では白っぽい影となります。細菌以外のウイルス、マイコプラズマ、クラミジアなどにより発症した肺炎では、肺胞と肺胞の間(間質)の炎症が主となり、間質性肺炎と呼ばれ、レントゲン写真では筋ばった影や網目状の影として認められます。

病気の特徴

 一般的にかぜをこじらせることによって発症する「市中肺炎」が多いのですが、入院中に免疫力の低下に伴って発症する「院内肺炎」もあります。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
安静を保ち、脱水症状の予防のために十分な水分を摂取する ★2 高熱のため脱水症状をおこしやすい場合、十分な水分摂取が適当と思われます。とくにお年寄りの場合は脱水症状をおこしやすいので注意が必要です。この方法は、専門家の意見や経験から支持されています。
病原微生物に有効な抗菌薬を用いる ★4 アメリカ胸部学会の定めたガイドラインによると、抗菌薬を用いるアプローチとして、適切な使用開始時間と、原因と思われる病原微生物に効果を認める抗菌薬を選ぶべきとしています。お年寄りを対象とした臨床研究によると、病院の外来受診から8時間以内に適切な抗菌薬を用いると、1カ月後に死亡する割合が少なかったと報告しています。 根拠(1)(2)
解熱薬は発熱による体力消耗を抑える程度に使用する ★2 解熱薬は副作用(胃腸障害、腎機能障害など)もあり、専門家の意見や経験から、必要以上には用いないほうがよいとされています。
食欲低下により栄養状態が悪くなりがちなので、点滴でカロリーを補給する ★2 患者さんの全身状態を観察しながら点滴することが、専門家の意見や経験から支持されています。

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

かぜをこじらせて肺炎になった場合

主に使われる薬 評価 評価のポイント
痰が透明もしくは白色(予測病原体:ウイルス、マイコプラズマ、クラミジア) クラリス/クラリシッド(クラリスロマイシン) ★5 クラリスロマイシンは、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(3)
膿性痰で黄色から緑色(予測病原体:インフルエンザ菌、肺炎球菌、モラクセラ、黄色ブドウ球菌) クラリス/クラリシッド(クラリスロマイシン) ★5 いずれの薬も、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(3)(4)(5)(6)
ジスロマック(アジスロマイシン水和物) ★5
メイアクト(セフジトレンピボキシル) ★5
クラビット(レボフロキサシン) ★5
膿性痰でさび色(予測病原体:肺炎球菌、肺炎桿菌、黄色ブドウ球菌) メイアクト(セフジトレンピボキシル) ★5 いずれの薬も、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(5)(6)
クラビット(レボフロキサシン) ★5
予測病原体が不明 オゼックス/トスキサシン(トシル酸トスフロキサシン) ★3 トシル酸トスフロキサシンは、臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(7)

入院を要する肺炎(重症度は中等度)(予測病原体:肺炎球菌、肺炎桿菌、黄色ブドウ球菌)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ビクシリン(アンピシリン) ★5 アメリカ胸部学会の定めたガイドラインでは、入院を要する肺炎に対して、βラクタム系抗菌薬に加えてマクロライド系抗菌薬を加えるべきとしています。βラクタム系抗菌薬には、ペニシリン系抗菌薬やセフェム系抗菌薬などがふくまれます。このガイドラインでは通常より量の多いアンピシリン(ペニシリン系抗菌薬)を使うとよいとしています。また、塩酸セフォチアムはこのガイドラインでは取りあげられていませんが、βラクタム系であることから同様の効果が期待され、専門家によって支持されています。 根拠(1)
パンスポリン(塩酸セフォチアム) ★2

入院を要する肺炎(重症度は中等度)(上記の治療で効果がみられないときに追加する)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
硫酸アミカシン/ビクリン(硫酸アミカシン) ★3 硫酸アミカシンはアメリカ胸部学会の定めたガイドラインでは、選択薬の一つとなっています。また、硫酸ミノサイクリンについては同じテトラサイクリン系の塩酸ドキシサイクリンが、いくつかの臨床研究で効果が示されているため、選択薬の一つとなると思われます。 根拠(8)
ミノマイシン(塩酸ミノサイクリン) ★2

入院中(院内感染)もしくは免疫力が低下している状態で肺炎に至った場合

主に使われる薬 評価 評価のポイント
メロペン(メロペネム三水和物) ★5 いずれの薬も、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(9)(10)(11)(12)
チエナム(イミペネム・シラスタチンナトリウム) ★5
塩酸バンコマイシン(塩酸バンコマイシン) ★5
シプロキサン(塩酸シプロフロキサン) ★5
抗菌薬以外に必要に応じて ステロイド・パルス療法 ★2 抗菌薬のみと抗菌薬に副腎皮質ステロイドを加えた治療を比べたところ、症状に変化がなかったとする臨床研究があります。ほかに選択肢のない場合に検討するべきでしょう。また、抗菌薬のみと抗菌薬にガンマグロブリンを加えた治療を比べたところ、効果は変わらなかったと報告されています。 根拠(13)(14)
ガンマグロブリン療法 ★1

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

原因は肺のなかでの微生物の増殖

 肺のなかで微生物が増殖しておこる肺炎は、発熱、せき、痰、胸痛などの症状を引きおこします。重症になると、脱水症状や呼吸困難、敗血症をおこすこともあります。

原因となる微生物を確かめるのが理想

 治療としては、痰の培養により原因となる微生物を明確にし、感受性試験で有効なことが確かめられた抗菌薬を用いることが理想的です。

 肺炎を引きおこす病原微生物は非常にたくさんの種類があり、その種類によって有効な抗菌薬が異なるからです。

有効と予測される抗菌薬をまず使う

 肺炎の病原微生物を見極める検査には何日間か必要となるため、患者さんの年齢や基礎疾患(もっている病気)、服用中の薬剤、院内肺炎なのか市中肺炎なのか、レントゲン写真の所見、痰の検査(グラム染色)などの臨床情報を総合して、もっとも可能性の高い原因となる微生物を予測して抗菌薬をとりあえず開始すること(経験的治療)になります。

1種類の抗菌薬で始めるのが原則

 この場合、患者さんの呼吸、全身状態が一刻の猶予も許さないといった場合を除けば、できるだけ1種類の抗菌薬を用いるべきです。痰の培養結果がでた時点で、経験的に始めた抗菌薬の効果がない場合は、感受性試験で有効とされる抗菌薬に変更されます。

解熱薬の使用は慎重に

 発熱時の解熱薬や水分補給、去痰薬を必要に応じて対症的に用いることは十分理にかなっていると思います。しかし、解熱薬はさまざまな副作用(胃腸障害、腎機能障害など)を引きおこすこともあり、必要以上に使用すべきではありません。

 最近では、日本呼吸器学会などの専門学会が、EBMの手順にのっとって肺炎治療のガイドラインを作成しており、できるだけそれに則した治療を行うよう勧められています。

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根拠(参考文献)

  • (1) Niederman MS, Mandell LA, Anzueto A, et al. Guidelines for the management of adults with community-acquired pneumonia. Diagnosis, assessment of severity, antimicrobial therapy, and prevention. Am J Respir Crit Care Med. 2001;163:1730-1754.
  • (2) Meehan TP, Fine MJ, Krumholz HM, et al. Quality of care, process, and outcomes in elderly patients with pneumonia. JAMA. 1997;278:2080-2084.
  • (3) Rovira E, Martinez-Moragon E, Belda A, et al. Treatment of community-acquired pneumonia in outpatients: randomized study of clarithromycin alone versus clarithromycin and cefuroxime. Respiration. 1999;66:413-418.
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  • (14) Lindquist L, Lundbergh P, Maasing R. Pepsin-treated human gamma globulin in bacterial infections. A randomized study in patients with septicaemia and pneumonia. Vox Sang. 1981;40:329-337.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行