関節リウマチの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
関節リウマチとは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
関節リウマチは、おもに関節のなかにある軟骨の滑膜部分が炎症をおこす自己免疫疾患です。全身の倦怠感や筋肉の痛み、発熱などで発病し、その後、関節の痛み、こわばる感じ、腫れなどの症状がみられます。
とくに、関節リウマチで特徴的なのは、左右対称に複数の関節で炎症がおこることで、ある一つの関節から始まっても、いずれは複数の関節に広がっていきます。最初は手の指の関節からおこることが多く、手首、ひじ、足の指、膝などにも徐々に炎症がおよびます。
当初は関節を動かすときにだけ痛みますが、病状が進むと動かさなくても痛みを感じるようになります。また、朝起きてから何時間か関節のこわばりが感じられるのも、関節リウマチに特徴的な症状の一つです。
長期間にわたって炎症が続くと、痛みだけでなく、関節が変形したり破壊されたりして動きが制限されるようになり、歩行ができなくなったり、荷物を持つことができなくなったりします。原因は現在も不明で診断の決め手もないため、いくつかの症状がそろえば関節リウマチと判断します。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
多くの患者さんの血液中からリウマトイド因子と呼ばれる自己抗体が検出されています。そのことから、関節リウマチの患者さんの免疫システムにはなんらかの異常がおきていて、本来は外敵を攻撃するはずの免疫システムが、関節のなかの正常な自分自身の組織を攻撃しているため炎症がおこることがわかっています。
関節のなかで炎症が続くと、関節全体を包み込んでいる関節包の内側にある滑膜に血管や細胞が増え、滑膜表面の滑らかさが失われてしまいます。このようになると関節の動きがぎくしゃくしたり、こわばったりし始め、さらに炎症が進行すると骨の軟骨部分や靭帯、やがては骨そのものを破壊することになります。
病気の特徴
わが国では、現在、人口の0.4~0.5パーセント、30歳以上の人口の1パーセントにあたる人がこの病気にかかっています。7対3の割合で女性に多く、大部分の患者さんは30~60歳代で発病します。
関節リウマチの診断基準
1987年に発表されたアメリカリウマチ協会の診断基準によれば、次の7項目のうち4項目にあてはまれば関節リウマチと診断します。
1.1時間以上持続する朝のこわばり
2.3カ所以上の関節炎
3.手関節、MCP関節(近位指節間関節)、PIP関節(左右対称の中手指節関節)の少なくとも1カ所の関節炎
4.対称性関節炎
5.皮下結節(リウマトイド結節)の存在
6.リウマトイド因子陽性
7.手・指関節のX線変化
1~4は少なくとも6週間継続していなければいけない。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
| 治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| 非ステロイド抗炎症薬を用いる | ★2 | 関節リウマチが疑われる場合は関節の痛みや炎症を抑えるために非ステロイド抗炎症薬を用います。 | |
| 抗リウマチ薬を用いる | ★5 | 関節リウマチと診断されたら、抗リウマチ薬を用います。抗リウマチ薬の有効性を示す非常に信頼性の高い臨床研究があります。抗リウマチ薬にはいくつかの薬剤がありますが、単独あるいはいくつかの組み合わせにより病気そのものの進展が抑えられます。 根拠(1)(2) | |
| 副腎皮質ステロイド薬を用いる | ★2 | 炎症が非常に強い場合は、非ステロイド抗炎症薬、抗リウマチ薬に加えて副腎皮質ステロイド薬を用います。少量の副腎皮質ステロイド薬が症状を軽減し病気の進行を抑えることを示す非常に信頼性の高い臨床研究が複数あります。しかし、長期間にわたって副腎皮質ステロイド薬を使用することによって、かえって副作用による死亡率が上がる可能性があります。使用方法、使用期間などは慎重に検討すべきでしょう。 根拠(3) | |
| 免疫抑制薬を用いる | ★5 | 免疫抑制薬の有効性を示す非常に信頼性の高い臨床研究があります。免疫抑制薬にはいくつかの薬剤がありますが、一般的に抗リウマチ薬とされるメトトレキサートにより、症状を抑え、同時に病気そのものの進展も抑制することがわかっています。 根拠(4) | |
| 手術によって人工関節を装着する | ★2 | 一般的に、外科的な治療法は薬物治療を中心とした保存的治療が無効であり、激しい痛みや生命にかかわる頸椎病変がある場合に選択されています。 | |
| リハビリテーションを行う | ★5 | リハビリテーションによって筋力をはじめ、自立した日常生活を営むための身体の機能が維持されることを示す非常に信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(5) | |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
非ステロイド抗炎症薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| ロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム) | ★2 | 明らかな消炎鎮痛効果は専門家によって認められています。また、非ステロイド抗炎症薬の種類によって消炎鎮痛効果に差がないことを示す臨床研究があります。 根拠(6) | |
| ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム) | ★2 | ||
| レリフェン(ナブメトン) | ★2 | ||
| オステラック/ハイペン(エトドラク) | ★2 | ||
| モービック(メロキシカム) | ★2 | ||
抗リウマチ薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| アザルフィジン/サラゾピリン(サラゾスルファピリジン) | ★5 | 効果を示す非常に信頼性の高い臨床研究があります。しかし、アメリカでは用いられておらず、したがって、アメリカでの臨床研究はありません。 根拠(1)(7) | |
| リマチル(ブシラミン) | ★5 | ||
| メタルカプターゼ(D-ペニシラミン) | ★5 | リウマチの進行を抑える効果を示す非常に信頼性の高い臨床研究がありますが、副作用が多く、ほかの抗リウマチ薬に比べて有利なところはありません。 根拠(8) | |
| シオゾール(金チオリンゴ酸ナトリウム) | ★5 | リウマチの進行を抑える効果を示す非常に信頼性の高い臨床研究がありますが、副作用が多く、注射薬であるために使用が限定されます。 根拠(9) | |
| リドーラ(オーラノフィン) | ★5 | リウマチの進行を抑える効果を示す非常に信頼性の高い臨床研究があり、副作用は少ないものの、効果もそれほどは大きくないようです。 根拠(10) | |
| ブレディニン(ミゾリビン) | ★2 | 免疫異常に働きかけ、病気の進行自体を抑える効果については、専門家の意見や経験から支持されています。 | |
| カルフェニール(ロベンザリット二ナトリウム) | ★5 | リウマチの進行を抑える効果を認める非常に信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(11) | |
| オークル/モーバー(アクタリット) | ★3 | リウマチの進行を抑える効果を認める臨床研究があります。 根拠(12) | |
免疫抑制薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| リウマトレックス(メトトレキサート) | ★5 | いずれの薬も効果を示す非常に信頼性の高い臨床研究がありますが、強い副作用がでることがあります。 根拠(1)(13)(14) | |
| エンドキサンP(シクロホスファミド) | ★5 | ||
| イムラン/アザニン(アザチオプリン) | ★5 | ||
副腎皮質ステロイド薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| プレドニン(プレドニゾロン) | ★2 | 痛み、炎症を抑える効果については非常に信頼性の高い臨床研究があります。ただし、リウマチそのものを改善する効果はなく、長期にわたって用いると深刻な副作用が現れたり、逆に病状を悪化させる場合もあるので、使用量や使用期間について十分に注意を払わなければなりません。 根拠(3) | |
軟骨保護薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| スベニール/アルツ(ヒアルロン酸ナトリウム) | ★2 | 軟骨を保護し、患者さんの苦痛をやわらげる効果は専門家の意見や経験によって認められています。 | |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
薬、手術、リハビリが治療の3本柱
関節リウマチの治療には、薬物療法、手術療法、リハビリテーションの三つの柱があります。それぞれの治療の有効性は非常に信頼性の高い臨床研究で確認されており、病気の進行具合や日常生活を過ごすうえでの不便さを考慮しながら治療法が選択されます。
薬は効果と副作用のバランスを考え、切り替えながら選択する
関節リウマチに対する薬物療法には、痛みと炎症を抑える非ステロイド抗炎症薬、関節の破壊を阻止し、病気そのものの進行を抑える抗リウマチ薬や免疫抑制薬、非常に炎症が激しい場合などに厳密な条件を設けて使う副腎皮質ステロイド薬などがあります。
基本となる抗リウマチ薬は数種類ありますが、人それぞれによって効果に違いがみられたり、副作用の現れ方も違ってきますので、一定の期間使いながら、必要な場合にはほかの薬に切り替えます。
また、抗リウマチ薬は効果が現れるまでに1カ月から半年ほどかかるので、関節リウマチと診断されたら早期から使用します。
病気そのものの進行をくい止める効果はありませんが、非常に苦痛となる痛みを抑えるために、非ステロイド抗炎症薬は長期間使われます。
この際、副作用として胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの胃腸障害がおこりやすいので、注意が必要です。
薬だけに頼らずリハビリを継続する
薬によって症状が抑えられても、痛みが完全にとれるわけではないため、どうしても関節を動かすのがおっくうになりがちです。動かさないでいると、ますます関節は固くなってこわばり、筋肉も衰えていきます。
その結果、いろいろな動作が困難になり、日常生活に支障をきたすようになってしまいますから、自立した生活を維持するために、積極的にリハビリテーションを継続するようにしましょう。
著しく運動の機能が損なわれる場合は手術を
手術療法については、薬やリハビリテーションではもはや痛みや炎症が抑えられない、関節の破壊が進んで日常生活に非常に不都合を生じる場合に選択することになります。破壊された関節を人工関節に置き換える手術が行われます。
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根拠(参考文献)
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- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行