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花粉症の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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花粉症とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 花粉に対するアレルギー反応によって、鼻の粘膜や目の結膜に炎症反応がおこる病気です。おもな症状として、くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの鼻の症状(アレルギー性鼻炎)、目のかゆみ、流涙などの目の症状(アレルギー性結膜炎)が現れます。鼻の粘膜や目の結膜の感覚神経は、咽頭や耳の粘膜からの感覚神経と共通の経路を通って大脳に達するため、飛散する花粉の量が最盛期を迎える時期には、鼻や目の症状だけではなく、口の奥の軟口蓋や耳のかゆみさえおこることがあります。

 アレルゲン(抗原、原因となる物質)となる花粉が飛散していない時期には症状がおこりません。季節に関係なく、これと同じような症状がでる病気が通年性のアレルギー性鼻炎で、これはダニやハウスダスト、ペットの毛、フケなどがアレルゲンとなっています。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 花粉症は花粉という異物を体外に排除しようとしておこる、過剰な免疫反応です。アレルゲンとなる植物には多くの種類がありますが、わが国では、2月から4月にかけて飛散するスギ花粉によることがもっとも多くなっています。そのほか、ヒノキ、初夏のカモガヤ、オオアワガエリ、秋のブタクサ、ヨモギなどがあります。北海道ではスギは少なく、シラカンバが多くみられます。

病気の特徴

 花粉がどの植物のものなのか、また、いつ、どれくらいの量が飛ぶのかによって、患者さんの数は異なってきます。

 したがって、国によってこの病気で悩む患者さんの数や割合は大きく異なります。

 わが国では、現在、全人口の15.6パーセント程度もの人がこの病気に悩んでいると推定されています。(1)

 全国の森林の18パーセントを占める杉林がアレルゲンとしてもっとも頻度の高いスギ花粉の飛散量を増やしていること、都市部での空気の汚染などが考えられています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
抗原の回避を行う ★2 花粉症と同じしくみで病気がおこる通年性のアレルギー性鼻炎についての抗原回避に関する臨床研究があります。アレルギー性鼻炎の抗原には家庭内のハウスダストやペットの毛があります。抗原の一つであるダニについて、ダニ駆除剤を用いた場合と用いなかった場合を比べたところ、ダニ駆除剤を用いた場合のほうが症状が改善することが示されています。異物に対する免疫反応によって病気がおこるということから考えれば、花粉症においても抗原を避けることは治療の基本と考えられます。 根拠(2)
鼻の症状に対してステロイド点鼻薬を用いる ★4 鼻閉や鼻汁などの鼻の症状に対しては、副腎皮質ステロイド薬の点鼻が内服薬よりも最も効果的であるとされています。 根拠(3)(4)
抗ヒスタミン薬を内服する ★3 抗ヒスタミン薬は、かゆみや鼻水、くしゃみに効果があります。抗ヒスタミン薬は第一世代と第二世代に分けられます。第一世代は鎮静作用が強く、眠気などの副作用がでることがあります。自動車や機械の運転をする場合は注意が必要です。一方、第二世代は鎮静作用が少ないため現在ではよく使用されます。 根拠(5)
抗ヒスタミン薬点鼻薬を用いる ★2 抗ヒスタミン薬点鼻薬は、ステロイド点鼻薬に比べて即効性があります。 根拠(6)
目の症状に対して点眼薬を用いる ★2 目の症状に対して、抗アレルギー薬の内服が有効であり、経口薬のみで効果がない場合、補助的に抗アレルギー薬の点眼薬を用いることが専門家によって推奨されています。
花粉(抗原)に対する反応を弱めていく免疫療法を行う ★2 免疫療法は、原因となっている抗原を少量ずつ、徐々に増量して体内に吸収させていく治療法で、花粉症の症状を減らす可能性が示唆されています。免疫療法には、皮下免疫療法(注射で抗原を投与する)と舌下免疫療法(薬を服用して抗原を投与する)の二つの治療法があります。しかし、適応に関しては注意が必要です。 根拠(7)(8)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

副腎皮質ステロイド点鼻薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
リノコート(ベクロメタゾンプロピオン酸エステル) ★4 鼻づまりがかなりひどい場合には、短期間に限って副腎皮質ステロイド薬を配合する点鼻薬の点鼻が有効であるという信頼性の高い、もしくは非常に信頼性の高い臨床研究があります。内服の副腎皮質ステロイド薬とは異なり、全身の副作用が現れることはありませんが、出血しやすくなるなどの症状がみられることはあります。長期の使用はよくありませんが、必要な量が患部に届いていなければなりませんから、使用量、使用回数などの注意については、十分主治医の説明を受けましょう。 根拠(10)(9)
フルナーゼ点鼻液(フルチカゾンプロピオン酸エステル) ★5

アレルギー反応を抑える抗ヒスタミン薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
第一世代 ポララミン(d-クロルフェニラミンマレイン酸塩) ★4 花粉症を含むアレルギー性鼻炎に対する抗ヒスタミン薬は、それぞれ世代間での効果や副作用にあまり大きな違いはないといわれています。 根拠(11)(12)
第二世代 アレグラ(フェキソフェナジン塩酸塩) ★4
エバステル(エバスチン) ★4
アレジオン(エピナスチン塩酸塩) ★4

目の症状に対して

主に使われる薬 評価 評価のポイント
インタール点眼液(クロモグリク酸ナトリウム) ★3 花粉の飛散量が増え、症状が本格化し、抗アレルギー薬の内服だけでは症状のコントロールが難しい場合などに補助的に使用すると有効であるという非常に信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(13)(14)

鼻づまりに対して

主に使われる薬 評価 評価のポイント
抗アレルギー薬 オノン(プランルカスト水和物) ★2 鼻づまりには効果が現れにくい抗アレルギー薬がありますので、症状によって使い分けが必要になります。
ゼスラン/ニポラジン(メキタジン) ★2
アイピーディ(スプラタストトシル酸塩) ★2
血管収縮薬 トラマゾリン(トラマゾリン塩酸塩) ★2 アレルギー症状が進むと鼻の粘膜が腫れて、それによって鼻づまりがおこることがあります。その腫れを抑えるために、血管を収縮させる血管収縮薬の点鼻薬を用いることがありますが、これは長期的に用いると効きめが悪くなったり、逆に鼻づまりが悪化したりすることもあるので、使用は短期間にするか、1日に2~3回などのように回数を限って用いたほうがよいでしょう。

免疫療法に用いる薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
シダトレン(スギ花粉舌下液) ★3 ほかの薬でも治療効果がなかなか得られない場合に使用することが多い治療方法です。日本では注射薬と、舌下液の両方が使用できます。効果はすぐには出ませんので、花粉が多くなる時期の数カ月前から使用します。使用に関してはよく医師と相談が必要です。 根拠(8)
治療用アレルゲンエキス皮下注(各抗原ごと) ★3

非常に重症化した場合に用いる内服薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
副腎皮質ステロイド配合薬 セレスタミン(d-クロルフェニラミンマレイン酸塩/ベタメタゾン配合剤) ★1 鼻、目、そのほか患部の炎症が極度に悪化し、患部の副腎皮質ステロイド薬の使用だけでは症状がおさまらない場合には、副腎皮質ステロイド薬の内服が行われることがあります。この薬を使う場合は、副作用を考慮し、2週間程度を使用期間の目安とします。副腎皮質ステロイド薬では即効性が期待できますが、同時に副作用の出現にも注意が必要です。薬を用い始めたら、患者さん自身も体調に変化がないか気をつけ、なにか変わったことがあれば、すぐに主治医に伝えるようにしたほうがいいでしょう。 根拠(11)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

まずは、花粉を避ける

 非常に信頼性の高い臨床研究は見あたりませんが、病気の原因が異物(花粉)への免疫反応であることから考えれば、抗原となる花粉を避けることが治療の基本となるのは、十分理にかなっています。つまり、花粉情報を参考にして、①花粉の飛散量が多い日は外出を控える、②窓や扉を閉める、③外出時にはマスク・メガネ、帽子を着用する、④帰宅したら洗顔、うがい、鼻をかむ、などということになります。しかも、これらは日常生活上、やや不便な点を除けば、薬物療法などに伴うような副作用はありませんので、まず試みるべきことがらでしょう。

花粉が飛び始める約2週間前からシーズン終了まで抗アレルギー薬の継続を

 薬物療法としては、花粉が飛び始める予測日より約2週間前から抗アレルギー薬の服用を始めると、初期症状が抑えられます。また、抗アレルギー薬は花粉症の症状をコントロールするうえで基本となる薬ですから、シーズンが終わるまで服用を続けましょう。

鼻や目など症状のある場所に応じた薬を

 花粉症でおこってくる症状は人によってさまざまです。鼻炎など鼻の症状が強い場合には抗アレルギー作用のある点鼻薬を用いますし、結膜炎など目の症状が強い場合には同様の点眼薬をそれぞれ用います。

自分にもっとも合った薬を見つけることが必要

 鼻づまりが強い、結膜の炎症が激しいといった場合には、局所の副腎皮質ステロイド薬が用いられますが、それでも効果がみられない場合には副腎皮質ステロイド薬の内服薬を使用してもよいでしょう。

 いずれにしても、薬物療法では、副作用の有無との兼ね合いで、もっとも自分に合った薬を、医師と相談しながら見つけだすという作業が必要となります。

重症の場合には免疫療法の選択も

 症状が非常に重症な場合には、非常に長期にわたる治療になりますが、免疫療法も有効なことがあります。

 これは、症状をおこす抗原(花粉など)を非常に薄めた低濃度から少しずつ体内に投与し、時間をかけて徐々に濃度を上げながら体を慣らしていき、抵抗力を強くして免疫反応を弱めていく方法です。

 治療の期間は2~3年におよび、かなりの根気を要しますが、重症の場合は考慮する価値があるでしょう。

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根拠(参考文献)

出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)