シェーグレン症候群の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
シェーグレン症候群とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
涙腺や唾液腺が慢性的に炎症をおこし、目や口のなかの粘膜が乾燥する自己免疫性の病気です。
目の症状(ドライアイ)としては、目のなかになにか入っているような異物感、まぶしくてものが見えづらい羞明という状態や眼痛があります。口のなかの症状(ドライマウス)としては、唾液がでない、ビスケットやパンなどを水分なしでは食べられない、口の粘膜や舌が乾燥でひび割れるなどがおもな症状となります。
とくに免疫異常を引きおこす病気がなく、粘膜の乾燥症状だけのものを一次性シェーグレン症候群といい、関節リウマチや、そのほかの膠原病や慢性甲状腺炎(橋本病)などの自己免疫性の病気に伴うものを二次性シェーグレン症候群といいます。
さらに一次性シェーグレン症候群は、涙腺や唾液腺だけに炎症が現われる腺型と、関節炎や食道の蠕動低下、腎尿細管の機能異常、肺線維症、甲状腺炎など、多くの臓器に炎症がおよぶ腺外型に分類されます。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
ほかの膠原病と同じように原因は不明です。多くの患者さんの血液中に、細胞の核のなかの特別なたんぱくと反応する抗体(抗核抗体)が見つけられることから、免疫の異常がかかわっていると推測されていますが、くわしいメカニズムはわかっていません。
病気の特徴
男女比は1対14で圧倒的に女性に多く、40歳~60歳代に発症します。
ちなみに「シェーグレン症候群」という病名は、1930年にスウェーデンの眼科医シェーグレンが、慢性関節リウマチに乾燥性角膜炎を合併した患者さんの症例報告を行ったことから名づけられました。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
| 治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| ドライアイに対して点眼薬を用いる | ★2 | シェーグレン症候群の患者さんに対して、とくに副作用がない限り、こうした対症療法はしばしば行われます。 | |
| ドライアイに対して涙点の閉鎖を行う | ★2 | ||
| ドライアイに対して湿気を逃がさない保護メガネを使う | ★2 | ||
| ドライマウスに対して口腔内に水分を補う薬を用いる | ★2 | ||
| ドライマウスに対してシュガーレスガムをかむ | ★2 | ||
| ドライマウスに対して頻繁にうがいをする | ★2 | ||
| ドライマウスに塩酸セビメリン水和物を用いる | ★5 | シェーグレン症候群の患者さんのドライマウスに対する塩酸セビメリン水和物の効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(1)(2) | |
| ドライアイとドライマウスに塩酸ピロカルピン錠を用いる(本邦未発売) | ★5 | シェーグレン症候群の患者さんのドライアイ、ドライマウスに対する塩酸ピロカルピン錠の効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。しかし、残念ながらわが国では、塩酸ピロカルピンの点眼薬(サンピロ)は処方薬として入手可能ですが、錠剤は発売されていません。 根拠(3) | |
| 涙腺や唾液腺の炎症に対して非ステロイド抗炎症薬ないし副腎皮質ステロイド薬を用いる | ★1 | シェーグレン症候群の患者さんの涙腺や唾液腺の機能改善のみを目的とした副腎皮質ステロイド薬のプレドニゾロン、非ステロイド抗炎症薬のピロキシカムは、効果がなかったことが臨床研究によって確認されています。したがって、症状の軽重にかかわらずこれらの薬によって副作用がおこる可能性を考えれば、これらを用いることは適切とは考えられません。 根拠(4) | |
| 非常に症状の重い、腺外病変(多くの臓器に炎症がおよぶ場合)に対して、副腎皮質ステロイド薬あるいは免疫抑制薬を用いる | ★2 | シェーグレン症候群の患者さんに対して、免疫抑制薬のアザチオプリンは効果がないことが、信頼性の高い臨床研究によって確認されています。そのほかの研究でも、免疫抑制薬の使用を支持する結果は得られていません。副腎皮質ステロイド薬も同様です。しかし、ほかに治療法がない状況下では、副作用の可能性を十分考えたうえで、病状に応じてこれらの薬を用いることは正当化されると思われます。 根拠(5) | |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
水分を補う点眼薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| サンピロ(塩酸ピロカルピン) | ★5 | 塩酸ピロカルピンのシェーグレン症候群の患者さんに対する効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。またほかの薬については専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(3) | |
| ヒアレイン(ヒアルロン酸ナトリウム) | ★2 | ||
| 人工涙液マイティア(人工涙液) | ★2 | ||
ドライマウスに対する内服薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| エボザック/サリグレン(塩酸セビメリン水和物) | ★5 | シェーグレン症候群の患者さんのドライマウスに対する塩酸セビメリン水和物の効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(1)(2) | |
| フェルビテン(アネトールトリチオン) | ★2 | いずれの薬も、専門家の意見や経験から支持されています。 | |
| ビソルボン(塩酸ブロムヘキシン) | ★2 | ||
口腔内に水分を補う薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| サリベート(塩化ナトリウム・塩化カリウム・塩化カルシウム等配合剤) | ★2 | とくに副作用がない限り、専門家の意見や経験からこうした対症療法はしばしば行われます。 | |
| イソジンガーグル(ポビドンヨード) | ★2 | ||
| シュガーレスガム | ★2 | ||
症状の重い腺外病変に対する内服薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| プレドニン(プレドニゾロン) | ★2 | 症状が重い場合は、炎症や痛みを抑制する作用を考慮し、専門家の臨床経験から判断して、しばしば用いられます。 | |
| ロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム) | ★2 | ||
| ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム) | ★2 | ||
| モービック(メロキシカム) | ★2 | ||
非常に症状の重い腺外病変に対する薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| アザニン/イムラン(アザチオプリン) | ★2 | シェーグレン症候群の患者さんに対して免疫抑制薬のアザチオプリンは効果がないことが信頼性の高い臨床研究によって確認されています。そのほかの研究でも免疫抑制薬の使用を支持する結果は得られていません。しかし、ほかに治療法がない状況下では、副作用の可能性を十分考えたうえで、病状に応じて用いることは正当化されると思われます。 根拠(5) | |
| プレドニン(プレドニゾロン) | ★2 | ||
| ソル・メドロール(コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム) | ★2 | ||
| エンドキサンP(シクロホスファミド) | ★2 | ||
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
腺型に対しては乾燥症状をやわらげる対策を
腺型シェーグレン症候群では、涙腺と唾液腺に症状が現れますから、それらの乾燥症状をやわらげる治療を行います。
ドライアイに対しては人工涙液(点眼薬)や保護メガネを用います。ドライマウスに対しては、頻繁にうがいをし、シュガーレスガムで唾液の分泌を刺激することなどに加えて、人工唾液を用いることはある程度の効果が期待できます。これらの治療は、副作用がほとんどないとされていますから、試みる価値は十分あると思います。
しかし、非ステロイド抗炎症薬や副腎皮質ステロイド薬をドライアイ、ドライマウスに対して用いることは、それらの副作用の可能性を考えると、望ましくないでしょう。
腺外型に対しては、副腎皮質ステロイド薬や非ステロイド抗炎症薬を
腺外の炎症症状については、その種類に応じて、副腎皮質ステロイド薬や非ステロイド抗炎症薬を用います。場合によっては、機能が低下した臓器(たとえば甲状腺機能低下症、腎性尿崩症)に特有の治療も必要になります。
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根拠(参考文献)
- (1) Petrone D, Condemi JJ, Fife R, et al. A double-blind, randomized, placebo-controlled study of cevimeline in Sjogren's syndrome patients with xerostomia and keratoconjunctivitis sicca. Arthritis Rheum. 2002;46:748-754.
- (2) Fife RS, Chase WF, Dore RK, et al. Cevimeline for the treatment of xerostomia in patients with Sjogren syndrome: a randomized trial. Arch Intern Med. 2002;162:1293-1300.
- (3) Vivino FB, Al-Hashimi I, Khan Z, et al. Pilocarpine tablets for the treatment of dry mouth and dry eye symptoms in patients with Sjogren syndrome: a randomized, placebo-controlled, fixed-dose, multicenter trial. P92-01 Study Group. Arch Intern Med. 1999;159:174-181.
- (4) Fox PC, Datiles M, Atkinson JC, et al. Prednisone and piroxicam for treatment of primary Sjogren's syndrome. Clin Exp Rheumatol. 1993;11:149-156.
- (5) Price EJ, Rigby SP, Clancy U, et al. A double blind placebo controlled trial of azathioprine in the treatment of primary Sjogren's syndrome. J Rheumatol. 1998;25:896-899.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行