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てんかんの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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てんかんとは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 てんかんは、突然意識を失ったり、けいれんやこわばり、しびれなどによって転倒したり、動作が中断するといった発作をくり返しおこす慢性の脳の病気です。

 発作は、ほとんどの場合長く続くものではなく、1、2分で終わり、本人にその間の記憶はありません。これらの発作は脳の神経細胞が異常に興奮し、なんらかの電気的な変化が生ずることによっておこると考えられています。脳のどの部分に電気的変化が生じるのかによって、現れる発作は実にさまざまですが、大脳の一部で異常がおこっているものを部分発作、大脳全体に異常が広がっているものを全般発作といいます。

 さらに部分発作は、意識障害のない単純部分発作と意識障害を伴う複雑部分発作とに分類されます。

 全般発作には、数分間にわたる意識消失から呼吸停止、四肢の硬直、けいれんを伴う全般性強直間代発作のほか、瞬間的に意識を失い、一点を見つめる状態になる欠神発作、突然頭から倒れ込む転倒発作、筋肉のけいれんがみられるミオクローヌス発作などのさまざまなタイプがあります。

 通常は長くても5分程度で終わるのがてんかん発作の特徴ですが、しばしば発作が30分以上も続いたり、おさまったかと思うとまたすぐに発作がくり返される場合があります。これをてんかん重積といい、生命の危険もあるため、ただちに病院へ搬送しなければなりません。発作を止めるのが早ければ早いほど、脳に障害をおこしたり、生命にかかわる可能性が少なくなります。てんかん重積の多くは、患者さんが必要な薬をきちんと飲まないためにおこることがわかっています。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 てんかん発作は脳の神経細胞に異常な興奮がおこり、電気的な変化が生ずるために発生すると考えられています。その神経細胞の異常な興奮が、明らかに脳に病変があるためとわかっているものを症候性てんかん、原因がわからないものを特発性てんかんといいます。

 症候性てんかんの基礎になる病気には、頭部外傷、脳腫瘍、脳炎、髄膜炎、脳動脈硬化、急性アルコール中毒などがあります。

 遺伝的な要因が強い病気と考えられていた時期もありましたが、いまは遺伝性の低い病気であることがわかっています。

病気の特徴

 わが国のてんかんの患者数は、約100万人といわれています。

 子どもから成人まで発症する病気ですが、子どものてんかんは成人になると自然に消える場合もあります。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
症候性てんかんの場合は、背景にある病気の治療を行う ★2 低血糖や電解質の異常あるいは薬の副作用など脳の機能的な障害が原因の場合は、背景にある病気の状態を改善することで、てんかんの症状も消失させることが期待できます。しかし、脳腫瘍や脳出血など脳の構造的な障害が原因の場合は、元の病気を治療してもてんかんの症状が改善しない場合も少なくありません。
規則正しい服薬によって、発作を予防する ★5 抗てんかん薬を規則正しく用いることで、発作の回数を減らせることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって示されています。 根拠(1)(2)
車の運転や高いところでの作業、水泳、火気を扱う作業は避ける ★4 未治療のてんかんの人はそうでない人に比べて、発作のため交通事故をおこしやすいという信頼性の高い臨床研究があります。その研究ではうまく治療され、発作が抑えられているてんかんの患者さんであれば、危険性は少ないとしています。 根拠(3)~(5)
発作の引きがねとなりやすい睡眠不足、過労、飲酒、喫煙などは避ける ★3 量については明確に示されていませんが、アルコールが発作の危険を増すことが、臨床研究によって確認されています。そのほかにも、睡眠不足やストレスなどが、てんかん発作の引きがねになる場合があります。 根拠(6)(7)
発作がコントロールされにくい場合は、薬の選択、適量などを再度検討する ★2 一つの薬で発作がコントロールされにくい場合、使用量は適当であったか、薬の種類は適切であったか、薬をきちんと正確に服用していたか、診断は正しかったか、という4点をチェックすることが大切です。 根拠(8)
薬での発作予防が困難な場合は、外科治療を検討する ★5 発作の種類にもよりますが、薬で十分に効果が得られなかった場合に、外科治療が効果的であることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって示されています。手術の必要性については、主治医や専門医と十分に話し合うことが大切です。 根拠(9)~(11)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

発作を抑える薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
部分発作の場合 テグレトール(カルバマゼピン) ★5 これらの薬は非常に信頼性の高い臨床研究によっててんかん発作を抑える効果が確認されています。 根拠(12)(12)~(14)(15)(16)
デパケン(バルプロ酸ナトリウム) ★5
アレビアチン/ヒダントール/フェニトイン(フェニトイン) ★5
エクセグラン(ゾニサミド) ★5
セルシン/ソナコン/ホリゾン/ダイアップ(ジアゼパム) ★5
全般発作の場合 デパケン(バルプロ酸ナトリウム) ★3 クロバザムは信頼性の高い臨床研究によって発作を抑える効果が確認されています。そのほかの薬も臨床研究によって効果が確認されています。フェノバルビタールは、子どもに対してバルプロ酸ナトリウムと同等の効果があります。 根拠(17)(18)(19)(20)(21)(22)
マイスタン(クロバザム) ★4
フェノバール(フェノバルビタール) ★3

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

脳の神経が異常に興奮する病気

 てんかんの診断や発作の型を判断するには、発作のときのようすがどのようであったかが、非常に重要になります。患者さんの家族の人は、動転するかもしれませんが、できるだけ患者さんのようすをよく観察しておいたほうがよいでしょう。

発作が長く続くときはけいれんを抑える

 てんかんの治療は、発作時の救急治療と発作を予防するための薬物治療に分けられます。通常、発作は数分以内におさまります。

 しかし、ときに、発作が30分以上も続いたり、終わったかと思うと、すぐにくり返し発作が連続しておこる場合があります。

 これはてんかん重積と呼ばれるものですが、生命にかかわる場合もあるので、ただちに治療を開始する必要があります。

 てんかん重積の目安として、発作が5分以上続いたら要注意です。それ以上続く場合には、ダイアップ(ジアゼパム)を用いて(子どもでは坐薬、成人では医療施設へ搬入後静脈注射)、けいれんをできるだけ早期に抑える必要があります。

副作用に注意して薬物療法をする

 発作を予防するための薬はどれも有効性が示されています。しかし、一方では、さまざま副作用が現れることがあります。アレビアチン/ヒダントール/フェニトイン(フェニトイン)では皮疹、血液の異常、リンパ節腫脹などがみられます。

 また、テグレトール(カルバマゼピン)では皮疹、白血球減少症など、デパケン/バレリン/ハイセレニン(バルプロ酸ナトリウム)では食欲低下、肝障害、脱毛など)のおこる可能性があるため、注意深い経過観察が必要です。また、決められた量を決められた回数服用しなければ、てんかん重積をおこすことも知られています。薬の服用に際しては、十分な理解が重要です。

おすすめの記事

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出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行