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パーキンソン病の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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パーキンソン病とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 手足のふるえ、筋肉のこわばり、動作が鈍くなり表情が乏しくなる寡動、姿勢反射障害(一定以上に姿勢が傾くと元に戻すことができなくなる)の四つをおもな症状とする脳の病気です。

 パーキンソン病は進行性の病気で、歩行障害から長い期間を経て、ついには寝たきりになります。便秘や異常な発汗、起立性低血圧などの自律神経障害の症状がみられることもあります。

 筋肉がこわばる、動作がゆっくりで鈍くなるといった症状から始まるといわれていますが、一般的には手足のふるえで気がつくことがほとんどです。こわばりやふるえは、最初体の片側におこり、病気が進行するにしたがって両側に現れるようになります。

 また、パーキンソン病のふるえは安静にしているときのほうが強くなり、なにかしようとするときには止まるという特徴があります。

 立った姿勢も特徴的で、やや前かがみでひじと膝が少し曲がった格好になります。

 病状が進んでくると、歩幅が小刻みになったり、歩き始めようとすると、最初の一歩がなかなか踏みだせないすくみ足などもみられるようになったりしります。簡単にバランスを崩しやすくなるので、転倒する危険が増し、とくに歩いているときには前のめりの姿勢から元に戻せなくなるため、小走り状態でなにかにつかまるか、転倒するまで止まれなくなってしまう突進状態となり非常に危険です。

 このような症状がでてくるまでには長い時間がかかります。転倒やけがなどには十分注意を必要としますが、できるだけこれまでの日常生活を続けるように努め、最終的に寝たきりにならないようにすることが肝心です。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 くわしい原因はわかっていませんが、パーキンソン病が発生するしくみについては、中脳(大脳の下に位置し、脊髄につながる脳幹部の一番上)にある黒質線条体という部分の神経細胞が変性し、神経伝達物質であるドパミンをつくる働きが損なわれるためであることはわかっています。しかし、なぜ黒質線条体の変性がおこるかについては不明です。

 パーキンソン病の進行はゆるやかですが、その重症度は次の5段階に分類されています。

 I.症状が一側性で障害はごく軽度

 II.症状は両側性であるが、歩行の障害はない

 III.方向転換が不安定、突進現象、歩行障害がある

 IV.歩行は介助なしでどうにか可能であるが、ほかの日常動作は部分介助

 V.日常動作に全面介護が必要、車いす、ベッドに寝たきり

 となっています

 現在では、メカニズムの違うさまざまな治療薬が登場し、外科的な治療の研究も進んできています。専門医による治療が必要な病気ですので、疑われる症状に気づいたらできるだけ早く受診し、正確な診断を受けるべきでしょう。

病気の特徴

 わが国では厚生労働省の指定難病に選定されています。人口10万人あたり100~150人程度の有病率ですが、50歳代から次第に増加し、60歳以上では10万人あたり1000人と、急速に増えています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
パーキンソン病治療薬によって、薬物療法を行う ★5 パーキンソン病に対する薬物療法の効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。パーキンソン病の治療薬には、変性がおきている黒質線条体の部分に働きかけるしくみの違いによって、さまざまな薬があります。まず、黒質線条体の①ドパミンを補う薬(L-ドーパ)、②ドパミン受容体を直接刺激する薬、③ドパミンを分解する酵素(モノアミンオキシダーゼB)を阻害する薬(MAO阻害薬)、④ドパミンの働きが低下すると、相対的に機能が亢進するコリン作動ニューロンの働きを抑制する薬(抗コリン薬)、⑤ドパミン放出を促進する薬、⑥ドパミン系とともに低下しているノルエピネフリン系を活性化する薬、などです。年齢や症状、病気の進行度に応じてこれらの薬を使い分けて治療します。ドパミンを直接補う薬の効果は劇的ですが、長期間使うことによって、薬の効いている時間が短くなったり、1日のうちで症状が突然悪化したり改善したりするなどの副作用がでてくることが知られています。日本神経学会のガイドラインでは、それらの副作用は若い人で多く認めるため、ドパミン受容体刺激薬から治療を開始することが勧められています。 根拠(1)(2)
外科的手術を検討する(高周波温熱度凝固術、脳深部刺激療法) ★4 十分な薬物治療によっても症状が抑えられない場合や、副作用のため治療薬の服用が困難になった場合には外科的な手術を行うかどうかを検討します。手術療法としては高周波温熱凝固(破壊術)、あるいは電極埋め込み(脳深部刺激療法)の2種類があります。手術を行う場所は視床VL核・Vim核、淡蒼球内節、視床下核の3カ所のうちいずれかであり、症状によって決められます。これらの手術効果は信頼性の高い臨床研究により確認されています。 根拠(2)~(4)
連続経頭蓋磁気刺激療法を行う ★3 高頻度刺激と低頻度刺激に分けられ、一次運動野への高頻度刺激で運動機能の改善が示唆されています。しかし、短期間での効果のみで、長期間での効果や安全性については不明です。 根拠(2)(5)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

ドパミン受容体刺激薬 根拠 (1)(2)(6)(7)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
麦角系 ペルマックス(メシル酸ペルゴリド) ★5 メシル酸ペルゴリドは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。メシル酸ブロモクリプチンを早期に単独で用いることに対しては、効果があるという臨床研究と効果がないという臨床研究があり、評価が定まっていません。しかし、L-ドーパ含有製剤との併用の効果や、L-ドーパ治療によって現れる運動についての副作用を軽減することは非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(1)(10)(2)(6)(7)(8)(9)
パーロデル(メシル酸ブロモクリプチン) ★5
非麦角系 ミラペックスLA(プラミペキソール塩酸塩水和物) ★5 いずれも非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。ただし、日中の仮眠や突発的睡眠を引きおこすおそれがあるため、自動車の運転や機械の操作、高所作業など、危険を伴う作業を行う人には推奨されていません。(2) 根拠(11)(12)
レキップ錠(ロピニロール塩酸塩) ★5

L-ドーパ含有製剤 根拠 (1)(2)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ドパストン/ドパゾール(レボドパ) ★5 L-ドーパ含有製剤は非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。ただし、長期間使用すると、さまざまな副作用がでてくるため、その場合は、ドパミン受容体刺激薬を併用することが勧められています。 根拠(1)(2)
メネシット/ネオドパストン(レボドパ:カルビドパ=10:1配合剤) ★5
マドパー/イーシー・ドパール/ネオドパゾール(レボドパ:塩酸ベンセラジド=4:1配合剤) ★4
スタレボ(レボドパ:カルビドパ:エンタカポン=10:1:10配合剤) ★4

補助的に用いる薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
抗コリン薬 アーテン(塩酸トリヘキシフェニジル) ★3 塩酸トリヘキシフェニジルは臨床研究によって効果が確認されています。早期のごく軽い症状の場合は単独で用いられることもあります。 根拠(1)(2)
ドパミン遊離促進薬 シンメトレル(塩酸アマンタジン) ★5 塩酸アマンタジンは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(1)(13)(2)
MAO阻害薬 エフピー(塩酸セレギリン) ★5 塩酸セレギリンは非常に信頼性の高い臨床研究によって早期治療効果が確認されています。ほかの薬に比べて副作用が少ないといわれています。 根拠(1)(14)(2)
ノルエピネフリンを補う薬 ドプス(ドロキシドパ) ★2 L-ドーパ使用中のすくみ足、姿勢反射障害、構音障害などの治療に有効であるとの信頼性の高い臨床研究がありますが、有効率は必ずしも高くありません。起立性低血圧について有効性が報告されていますが今後の検証が必要です。 根拠(1)(2)
カテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)阻害薬 コムタン(エンタカポン) ★3 L-ドーパを代謝する末梢のCOMT(カテコール-O-メチル基転移酵素)という酵素を選択的に阻害して、レボドパの血中半減期を延長し、レボドパの脳内移行が高まり、作用持続時間を長くするお薬です。L-ドーパが効いている時間が短くなったりする(ウェアリングオフ)場合に、効果時間を延長することが示されています。 根拠(1)(2)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

まずは、正確な診断を

 パーキンソン病には、筋肉のこわばり、緩慢な動作や無表情、ふるえ、歩行障害といった非常に特徴的な症状が認められます。

 一般的にはふるえで気づくことが多いとされますが、これらの症状が現れたら、できるだけ早く専門医を受診し、正確な診断を受けるようにします。わが国では厚生労働省の難病に指定されています。

 ゆるやかですが、確実に進行していく病気なので、なるべく進行を遅らせ、通常の日常生活をでき得る限り長い期間送れるようにすることが治療の目的となります。

損なわれたドパミン産生機能をさまざまな薬で補う

 パーキンソン病は中脳にある黒質線条体がなんらかの原因で変性し、神経伝達物質であるドパミンをつくる機能が損なわれるためにおこると考えられています。そこで、直接ドパミンを補う薬やドパミン放出を促進する薬を用いると、ほとんどの患者さんで、少なくとも当初は症状が劇的に改善します。

 しかし、問題は、これらの薬を長期間使用し続けると、薬の効いている時間が短くなったり、突然、症状が1日のうちで悪化したり軽快したりと変動するなど、さまざまな副作用のみ前面にでてくるようになることです。

 そのような副作用の問題を解決するために、最初は、直接ドパミンを補う薬を用いず、副作用の出現が少ないドパミン受容体を直接刺激する薬やドパミンを分解する酵素(モノアミンオキシダーゼB)を阻害する薬を利用する場合があります。しかし、ドパミン受容体を直接刺激する薬も高齢者などでは精神症状をきたすなどの副作用や、そのなかの麦角系では心臓弁膜症などの心疾患、非麦角系では突発的睡眠をおこす可能性があり、患者の年齢、認知能、社会的活動性(運転など)を考慮して薬剤を選択することが重要です。

 また、パーキンソン病の運動症状だけでなく、非運動症状として倦怠感、うつ病、認知障害、起立性低血圧、便秘、不眠などにも注意してコントロールすることで患者さんのQOL(生活の質)が改善するといわれています。

歩行や運動の障害にあわせて衣食住の工夫を

 病状が進行するにつれて、歩行などの運動が困難になります。

 薬物の服用の有無にかかわらず、なるべく日常生活に支障をきたさないような工夫や周囲の協力が必要になります。

 たとえば、脱ぎ着がしやすく動作の邪魔にならないような靴や衣服や使いやすい食器を選びます。

 また、いす、手すり、床に注意を払い、とくに転倒を予防することが大変重要になります。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

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  • (2)日本神経学会. パーキンソン病治療ガイドライン2011/2011追補版. 医学書院. (https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson.html / https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson_tuiho.html)
  • (3)Lyons MK. Deep brain stimulation: current and future clinical applications. Mayo Clin Proc. 2011 Jul;86(7):662-672.
  • (4)Okun MS Deep-barin stimultaion for Parkinson's disease. N Engl J MEd. 2012; 367 (16): 1529-1538
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出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)