もやもや病の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
もやもや病とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
ウイリス動脈輪閉塞症ともいいます。頸動脈が頭蓋内に入った最初の部分の、左右両側に狭窄や閉塞がみられる脳血管障害の一種です。脳深部の血流不足を解消するため、無数の網目状の異常血管が新しくつくられます。脳血管撮影をすると、異常な血管がもやもやと映ることから、この名前がつけられました。
子どもの場合は、大声で泣いたり、熱い食べ物に息を吹きかけたりして、過呼吸になったときに、言語障害や手足に力が入らない脱力発作、けいれん、視力障害、頭痛、意識障害などがおきます。成人の場合は、脳内出血をおこして片麻痺や意識障害がみられます。また、くも膜下出血をおこすこともあります。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
原因不明の病気で厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されています。子どもの発症は、脳の血液量が足りなくなっておこる脳虚血発作の一つです。発作をくり返すうちに運動障害、言語障害、知能障害などの後遺症が残ることがあります。成人の場合は、突然の頭痛、嘔吐に襲われ、脳内出血、くも膜下出血をおこします。
病気の特徴
日本人に多い病気で、日本で発見されました。欧米ではほとんどみられません。10歳以下にピークがある小児発症例と、30歳代にピークがある成人発症例があります。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
出血した場合 | 開頭血腫除去術を行う | ★2 | もやもや病の患者さんに対して、大脳の血腫を取り除く開頭血腫除去術を行った場合、手術の有効性が手術による有害性を上回るという確定的な結果を示した臨床研究は、現在までのところありません。開頭血腫除去術は、救命あるいは脳機能障害を軽減することを目的として行われます。 根拠(1) |
出血のない虚血発作の場合 | 抗血小板薬を用いる | ★2 | 脳虚血発作に対する対症療法として、血液を固まりにくくする抗血小板薬が用いられますが、その効果を明確に示した臨床研究は見あたりません。専門家が経験的に用いています。 |
血管拡張薬を用いる | ★2 | 脳虚血発作に対する対症療法として血管拡張薬が用いられますが、その効果を明確に示した臨床研究は見あたりません。専門家が経験的に用いています。 | |
脳硬膜血管接着術(EDAS)を行う(子どもの場合) | ★2 | 脳の血液の流れが悪くなっている虚血部分の血流を確保し、虚血発作を予防するために、外科手術が行われます。よく行われている手術が、頭皮にある動脈を硬膜に接着させる脳硬膜血管接着術(EDAS)です。ただし、血流を受け取る脳内の動脈が未発達の場合には、側頭部の筋肉を脳表面に接着させる脳筋肉接着術(EMS)が行われます。いずれも臨床研究によって明確に効果が確認されているわけではありません。成人よりも子ども、とくに虚血発作を主症状とする子どもにおいて、手術がより有効であるといわれています。成人の場合は脳血管バイパス術を行います。 根拠(2) | |
脳筋肉接着術(EMS)を行う(子どもの場合) | ★2 | ||
脳血管バイパス術を行う(成人の場合) | ★2 |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
抗血小板薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
バファリン(アスピリン・ダイアルミネート配合剤) | ★2 | 動脈硬化性疾患としての脳梗塞や脳血栓を予防する効果があることは信頼性の高い臨床研究で確認されていますが、もやもや病を対象としたものではありません。 | |
パナルジン(塩酸チクロピジン) | ★2 |
カルシウム拮抗薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ペルジピンLA(塩酸ニカルジピン徐放剤) | ★3 | いずれの薬も脳虚血発作を予防する目的で用いられます。塩酸ニカルジピン徐放剤の効果については臨床研究によって確認されています。 根拠(3)(4) | |
アダラートL(ニフェジピン徐放剤) | ★2 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
出血した場合は手術で血腫を除去する
もやもや病では、現在までのところ、信頼性の高い臨床研究によって明確に有効性が示された治療はほとんどありません。しかし、脳内出血をおこした場合は、手術で開頭して血腫を除去することが妥当といえます。これは救命ないし脳機能障害を最小限に抑えるためで、現在の医学知識に基づくならば、当然の治療と考えられます。
出血がないときは抗血小板薬などで虚血発作を予防する
脳内の出血はないものの、血流量が低下したために虚血発作をおこすことがあります。この虚血発作を予防する目的で用いられているのが、抗血小板薬や血管拡張薬、カルシウム拮抗薬などです。これらの薬の有効性についてはいまのところ、信頼性の高い臨床研究は見あたりませんが、現在の医学知識に基づくならば、十分妥当な治療といえるでしょう。
脳血管バイパス術で足りない血流を補う
子どもでも成人でも、必要に応じて手術が実施されます。頭皮の動脈を硬膜に接着させる脳硬膜血管接着術、側頭部の筋肉を脳表面に接着させる脳筋肉接着術が、よく行われている手術です。これらの脳血管バイパス術は、血流豊富な組織を脳表面に接着させることで新しい血管がつくられるのを促し、それによって脳内の足りない血流を補おうとするものです。
いずれの手術を選択する場合にも、脳外科専門医の経験や技量が重要な決定要因となります。手術を受けるかどうか、どの手術を受けるかについては、十分な説明を受けたうえで最終判断をする必要があります。
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根拠(参考文献)
- (1) 葛西龍樹,他編集.クリニカル・エビデンス日本語版. 東京. 日経BP社, 2001, 122-131.
- (2) Ueki K, Meyer FB, Mellinger JF. Moyamoya disease: the disorder and surgical treatment. Mayo Clin Proc. 1994;69:749-757.
- (3) Spittler JF, Smektala K. Pharmacotherapy in moyamoya disease. Hokkaido Igaku Zasshi. 1990;65:235-240.
- (4) Hosain SA, Hughes JT, Forem SL, et al. Use of a calcium channel blocker (nicardipine HCl) in the treatment of childhood moyamoya disease. J Child Neurol. 1994 ;9:378-380.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行