2003年初版 2016年改訂版を見る

変形性膝関節症の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

つぶやく いいね! はてなブックマーク

変形性膝関節症とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 変形性膝関節症とは、膝の関節の軟骨が変性したり、磨耗したり、あるいは増殖性の変化をおこしたりする病気です。朝起きて歩き始めたときに、膝に違和感を感じるのが最初の症状です。

 病気が少し進むと、安静時には痛みませんが、歩いたり階段を昇り降りしたとき、あるいは和式トイレ、正座など膝を深く曲げる動作が必要なときに痛みがでるようになります。痛みを感じるのはおもに関節の内側です。

 さらに病気が進んでくると関節が十分に動かなくなり、膝の曲げ伸ばしができなくなります。炎症がおきて膝の周辺が腫れたり、熱感を伴ったり、むくんだりすることもあります。

 また、膝に水がたまって腫れる関節水腫(関節水症)もしばしばみられます。水が多くたまると安静時にも痛みがでます。膝の内側の軟骨が磨耗すると、体重が膝の内側にかかってO脚になります。日本人はこのタイプが多いのですが、なかには外側の軟骨がすり減ってX脚になることもあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 多くは加齢によるものと思われますが、必ずしも原因が明らかになっていないタイプの特発性変形性関節症の一種です。軟骨の磨耗は、筋肉の衰えや肥満、無理な動作、膝に負担のかかるスポーツなど多くの要因が絡みあっておこると考えられています。関節水腫は関節の内部を覆う組織である滑膜が増殖したり、厚くなることによって発症します。

 一方、背景に病気があっておこるものを続発性変形性関節症といいます。膝半月板損傷、靱帯損傷、関節内骨折などの外傷性、関節リウマチ、化膿性関節炎などによる炎症性、痛風などの代謝に関係するもの、内分泌性のものなどです。

病気の特徴

 中高年に多い病気ですが、とりわけ肥満の女性に多く、50歳を超えるととくにこの病気に悩む人が増えてきます。

続きを読む

治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
減量する ★5 減量することで膝にかかる負担が減り、変形性膝関節症の症状が軽減することが、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(1)
大腿四頭筋を鍛える ★5 大腿四頭筋という太ももの筋肉が衰えると、膝関節の安定性と衝撃をやわらげる効果が弱まり、変形性膝関節症の原因になるといわれています。大腿四頭筋を鍛えることが治療に有効なことは、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(2)(3)
消炎鎮痛薬を用いる ★5 消炎鎮痛薬が変形性膝関節症の痛みを軽減させることは非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。消炎鎮痛薬の種類による効果の差は、それほどないといわれています。ただし、胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの副作用に十分注意しながら使用する必要があります。 根拠(4)
消炎鎮痛薬の入った湿布や、塗り薬を用いる ★5 患部に消炎鎮痛薬の入った湿布を貼ったり、塗り薬を塗ったりすることで、変形性膝関節症の症状がやわらぎます。これは非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(5)
関節内にヒアルロン酸ナトリウム製剤を注射する ★2 ヒアルロン酸ナトリウムは関節液などに含まれる粘りけのある物質です。ヒアルロン酸ナトリウム製剤を関節内に注射で注入する治療は、いくつかの臨床研究で効果が確認されていますが、最近になって、それに反対する意見もでており、評価は定まっていません。 根拠(6)~(8)
関節内に副腎皮質ステロイド薬を注射する ★2 短期的に症状を改善させる効果は、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。長期的に使用すると軟骨変性を促進する場合もあり、痛みの強いときに短期間の使用が勧められます。長期的な使用についての臨床研究はまだ報告されていません。 根拠(9)(10)
温熱療法をする ★3 患部を温める温熱療法が変形性膝関節症の症状を緩和したと、日本で行われた臨床研究で報告されています。 根拠(11)(12)
足底板を利用する ★4 膝の内側の軟骨がすり減ると、重心が内側に偏ってO脚になりがちです。そこで足底板と呼ばれる靴の中敷きのような装具を利用して、重心の偏りを矯正します。この方法は日本で行われた信頼性の高い臨床研究で有効であると報告されています。 根拠(13)~(15)
滑膜切除術 ★3 慢性の変形性膝関節症に対し、滑膜切除術が有効であることが臨床研究によって報告されています。関節内で異常増殖した滑膜は、膝に水がたまる原因となります。最近は、関節鏡で行う手術が発達しており、従来の手術に比べ、皮膚の切開が少なくてすむ、リハビリテーションを術後早期から行える、入院期間が短くなる(あるいは入院の必要がない)、術後の関節を動かす範囲の制限がわずかである、などの利点があります。 根拠(16)~(19)
高位脛骨骨切り術を行う ★3 高位脛骨骨切り術が変形性膝関節症の症状緩和と関節機能の回復に有効であることが臨床研究によって確認されています。これは、脛の骨の上部を切り取ることで、膝の内側の軟骨にかかる負担を軽減する手術です。半分以上の患者さんは手術後10年以上たっても効果が持続しています。 根拠(20)
人工膝関節置換術を行う ★2 人工膝関節置換術が変形性膝関節症の症状緩和と関節機能の回復に有効であることが臨床研究によって確認されています。すり減った関節軟骨の部分に人工膝関節をはめ込む手術です。ただし、どのような状態の患者さんにこの手術を行うべきかについては、いまだ意見が分かれています。 根拠(21)(22)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

消炎鎮痛薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
非ピリン系解熱鎮痛薬 ピリナジン/アンヒバ/アルピニー/カロナール(アセトアミノフェン) ★2 非ステロイド抗炎症薬のジクロフェナクナトリウムに比べ効果は劣るという臨床研究がありますが、副作用のおこりにくさから欧米の医師向け教科書などでは推奨されている薬です。症状の程度やその人の体質によっては第一選択となりうる薬でしょう。 根拠(23)
非ステロイド抗炎症薬 アスピリン(アスピリン) ★2 炎症や痛みをやわらげる非ステロイド抗炎症薬のなかでは、ジクロフェナクナトリウムとインドメタシンについて、非常に信頼性の高い臨床研究で変形性膝関節症への効果が確認されています。そのほかの薬も、専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(23)(24)
ポンタール(メフェナム酸) ★2
オパイリン(フルフェナム酸アルミニウム) ★2
クロタム(トルフェナム酸) ★2
ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム) ★5
クリノリル(スリンダク) ★2
ナパノール(フェンブフェン) ★2
インダシン/インテバン(インドメタシン) ★5

消化性潰瘍治療薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ロノック/アロカ(オルノプロスチル) ★2 これらの消化性潰瘍治療薬は消炎鎮痛薬を用いたときにおこる胃潰瘍・十二指腸潰瘍を予防するために用いられます。専門家の意見や経験から支持されています。
サイトテック(ミソプロストール) ★2
オメプラール/オメプラゾン(オメプラゾール) ★2
タケプロン(ランソプラゾール) ★2

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

太っている人はまず減量を

 姿勢を矯正したり、減量して肥満を改善させることで、膝への過剰な負担を軽減できます。また、大腿四頭筋などの関節周囲の筋肉を強化したり、温熱療法を試みるのもいいでしょう。

 これらの方法は、信頼性の高い臨床研究で有効性が証明されていますし、なにより簡便で、副作用もありません。まずは試みるべき治療法といえます。

消炎鎮痛薬は副作用に注意

 痛みを抑えるうえで消炎鎮痛薬が有効なことは、信頼性の高い臨床研究で明確に示されています。しかし、問題は胃潰瘍や腎障害などの重度な副作用がおこりうることです。

 そのため、まずは副作用がおこりにくい鎮痛薬のピリナジン/アンヒバ/アルピニー/カロナール(アセトアミノフェン)を選択したり、また消炎鎮痛薬を用いるときには、消化性潰瘍を予防する作用がある胃粘液産生・分泌促進薬のロノック/アロカ(オルノプロスチル)、サイトテック(ミソプロストール)などやプロトンポンプ阻害薬のオメプラール/オメプラゾン(オメプラゾール)、タケプロン(ランソプラゾール)などを同時に用いたりする必要があります。

 消炎鎮痛薬を長期間、大量に用いると副作用の発症率が高まることがわかっていますので、使用量を減らす工夫も必要です。毎日定時(たとえば1日3回、食後)に服用するのではなく、疼痛時にのみ1回限りの服用とするのが好ましいでしょう。

痛み止めが効かない場合はステロイド薬の注射も

 消炎鎮痛薬で痛みが軽減しない場合には、関節内に副腎皮質ステロイド薬を注射することもあります。短期的に症状を改善させる効果は、信頼性の高い臨床研究で認められています。しかし、長期的な予後がどうなるかについては、これからの研究結果を待たねばなりません。

重症の場合は手術を

 症状が進んで薬物療法が効かない場合は、整形外科的な手術が必要になります。滑膜切除術や高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術などが一般的に行われています。

 いずれも臨床研究で効果が確認されている治療ですが、手術を受ける際には主治医とよく話し合うことが大切です。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

  • (1) Toda Y, Toda T, Takemura S, et al. Change in body fat, but not body weight or metabolic correlates of obesity, is related to symptomatic relief of obese patients with knee osteoarthritis after a weight control program. J Rheumatol. 1998;25:2181-2186.
  • (2) Hurley MV. The role of muscle weakness in the pathogenesis of osteoarthritis. Rheum Dis Clin North Am. 1999;25:283-298.
  • (3) Ettinger WH Jr, Bums R, Messier SP, et al. A randomized trial comparing aerobic exercise and resistance exercise with a health education program in older adults with knee osteoarthritis: the Fitness Arthritis and Seniors Trial (FAST). JAMA. 1997;277:25-31.
  • (4) Watson MC, Brookes ST, Kirwan JR, et al. Non-aspirin, non-steroidal anti-inflammatory drugs for osteoarthritis of the knee. Cochrane Database Syst Rev 2000;(2):CD000142.
  • (5) Moore RA, Tramer MR, Carroll D, et al. Quantitative systematic review of topically applied non-steroidal anti-inflammatory drugs. BMJ 1998;316:333-338.
  • (6) Altman RD, Moskowitz RW, and the Hyalgan Study Group. Intra-articular sodium hyaluronate (Hyalgan) in the treatment of patients with osteoarthritis of the knee: a randomized clinical trial. J Rheumatol. 1998;25:2203-2212.
  • (7) Adams ME, Atkinson MH, Lussier AJ, et al. The role of vi scosupplementation with hylan G-F 20 (Synvisc) in the treatment of osteoarthritis of the knee: a Canadian multicenter trial comparing hylan G-F 20 alone, hylan G-F 20 with non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) and NSAIDs alone. Osteoarthritis Cartilage. 1995;3:213-225.
  • (8) Felson DT, Anderson JJ. Hyaluronate sodium injections for osteoarthritis: hope, hype, and hard truths. Arch Intern Med. 2002;162:245-247.
  • (9) Stein A, Yassouridis A, Szopko C, et al. Intraarticular morphine versus dexamethasone in chronic arthritis. Pain. 1999;83:525-532.
  • (10) Pelletier JP, Mineau F, Raynauld JP, et al. Intraarticular injections with methylprednisolone acetate reduce osteoarthritic lesions in parallel with chondrocyte stromelysin synthesis in experimental osteoarthritis. Arthritis Rheum. 1994;37:414-423.
  • (11) 和田千秋, 村松哲雄, 佐藤公治, 他. 変形性膝関節症に伴う痛みに対する各種温熱治療法の効果の比較. 理療. 1993;26:18-22.
  • (12) 鈴木和彦, 金子 毅. HP-37の使用経験. 基礎と臨床(The Clinical Report). 1989;23:7121-7125.
  • (13) 戸田佳孝. 変形性膝関節症患者に対する距骨下関節弾性固定付き外側楔状足底板の臨床的評価. リウマチ. 2001;41:646-652.
  • (14) 戸田佳孝. 変形性膝関節症患者に対する足関節8の字型弾性固定バンド付き足底板と靴中敷き型足底板との効果比較. 中部日本整形外科災害外科学会雑誌. 2000;43:1341-1345.
  • (15) 山田昌登嗣, 緒方公介, 原 道也, 他. 変形性膝関節症に対する足底板の臨床効果に及ぼす因子の検討. 整形外科と災害外科. 1997;46:211-214.
  • (16) Paus AC, Forre O, Pahle JA, et al. A prospective clinical five year follow up study after open synovectomy of the knee joint in patients with chronic inflammatory joint disease. The prognostic power of clinical, arthroscopic, histologic and immunohistologic variables. Scand J Rheumatol. 1992;21:248-253.
  • (17) Arnold WJ. Office-based arthroscopy. Bull Rheum Dis. 1992;41:3-6.
  • (18) Arnold WJ, Kalunian K. Arthroscopic synovectomy by rheumatologists: time for a new look. Arthritis Rheum. 1989;32:109-111.
  • (19) Klein W, Jensen KU. Arthroscopic synovectomy of the knee joint: indication, technique, and follow-up results. Arthroscopy. 1988;4:63-71.
  • (20) Majima T, Yasuda K, Katsuragi R, et al. Progression of joint arthrosis 10 to 15 years after high tibial osteotomy. Clin Orthop. 2000;(381):177-184.
  • (21) Kirwan JR, Currey HL, Freeman MA, et al. Overall long-term impact of total hip and knee joint replacement surgery on patients with osteoarthritis and rheumatoid arthritis. Br J Rheumatol. 1994;33:357-360.
  • (22) Dieppe P, Basler HD, Chard J, et al. Knee replacement surgery for osteoarthritis: effectiveness, practice variations, indications and possible determinants of utilization. Rheumatology (Oxford). 1999;38:73-83.
  • (23) Pincus T, Koch GG, Sokka T, et al. A randomized, double-blind, crossover clinical trial of diclofenac plus misoprostol versus acetaminophen in patients with osteoarthritis of the hip or knee. Arthritis Rheum. 2001;44:1587-1598.
  • (24) Huskisson EC, Berry H, Gishen P, et al. Effects of antiinflammatory drugs on the progression of osteoarthritis of the knee. LINK Study Group. Longitudinal Investigation of Nonsteroidal Antiinflammatory Drugs in Knee Osteoarthritis. J Rheumatol. 1995;22:1941-1946.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行