2016年改訂版 2003年初版を見る

大腿骨近位部骨折の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

つぶやく いいね! はてなブックマーク GooglePlus

大腿骨近位部骨折とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 大腿骨近位部とは、足の付け根の関節部分のことです。骨がもろくなる骨粗しょう症を基礎疾患にもつ人が、転倒したりした際にこの場所の骨折をよくおこします。

 関節は骨と骨の連結部で関節包という袋に包まれています。大腿骨近位部骨折は、この袋の内側でおこった骨折(大腿骨頸部骨折)と袋の外側でおこった骨折(大腿骨転子部骨折)に大きく分けることができます。大腿骨頸部骨折はとくに治療の難しい骨折です。

 大腿骨近位部骨折をおこすと、股関節に強い痛みを感じ、立って歩くことはできません。股関節の曲げ伸ばしもできません。お年寄りに多いため、治療がうまくいかずに寝たきりになる場合も多く、その際は肺炎、尿路感染、床ずれ、認知症などに注意する必要があります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 高齢になると筋力や反射神経が低下して、しばしば手をつくこともできないままに転倒してしまいます。こうしたときに大腿骨近位部骨折をおこしやすく、高齢者の骨折では、ほとんどの人が骨がもろくなって骨折しやすい骨粗しょう症を基礎疾患にもっています。運動能力が低くなって小さな段差につまずくことも多いので、外出先だけでなく、風呂場など自宅内や自宅玄関付近で転倒して大腿骨頸部骨折をおこすことも珍しくありません。

 また、骨粗しょう症が進んで骨量がいちじるしく低下している場合は、転倒などの目立った外傷がなくても骨折してしまうことがあり、これを脆弱性骨折といいます。

病気の特徴

 男女とも70歳以上になると急増するのが特徴です。年間約15万人がこの骨折をおこしていると推定されており、近年、その数が増えています。

 わが国では、西日本における発症率が東日本より高いのも一つの特徴です。これはビタミンKを豊富に含む納豆の食習慣による差ではないかと考えられています。西日本では東日本ほど納豆が食べられていませんが、納豆に含まれているビタミンKには骨の材料となるたんぱく質の形成を助ける働きがあるからです。

続きを読む

治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
大腿骨頸部骨折(非転位型)の場合、骨接合術を行う ★3 骨接合術については、臨床研究によって効果が確認されています。大腿骨頸部骨折で、骨は折れているものの位置がずれていない場合は、この手術の適応となります。折れた骨をネジや釘、プレートなどで固定してくっつけ、できるだけ早く座ったり歩いたりできるようにする必要があります。通常、手術の翌日から歩行練習を開始します。 根拠(1)
大腿骨頸部骨折(転位型)の場合、人工骨頭挿入術を行う ★3 大腿骨頸部骨折において、折れた骨の位置が完全にずれてしまっているものはこの手術の適応となります。人工骨頭挿入術については、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。大腿骨頸部骨折のうち位置がずれてしまっているものは、折れた骨どうしがくっつきにくく、またくっついたとしても大腿骨頭(大腿骨付け根の頭の部分)が腐ったりすることがあります。そこで骨折の程度がひどいときには、折れた骨の代わりに人工の骨頭をはめ込む人工骨頭挿入術を行います。 根拠(2)
大腿骨転子部骨折の場合、CHS法による骨折観血的手術を行う ★3 大腿骨転子部骨折で、コンプレッション・ヒップ・スクリュー(CHS)と呼ばれる方法で内固定を行うことは、臨床研究によって効果が報告されています。専門家の経験によって支持されています。CHSは骨頭・頸部の骨髄内を突き刺すネジ部分と、骨幹でそれを支えるプレート部分からなっています。頸部の部分は滑るように工夫されており、骨折部に圧迫力が働くようになっています。 根拠(3)~(5)
大腿骨転子部骨折の場合、γネイル法による骨折観血的手術を行う ★3 できるだけ早期のリハビリテーションを行うため、大腿骨転子部骨折の骨折観血的手術として、最近、好んで用いられるようになった手法で、その効果は臨床研究によって確認されています。CHS法などの固定法と比較して手術時間が短く、手術中の出血が少なくてすみます。 根拠(6)
筋力を鍛える ★3 加齢などにより筋肉や関節などの機能が低下すると、ささいなことで転倒しやすくなり、骨折へとつながります。適度な運動は筋肉や関節の衰えを防ぎ、転倒の危険性を低下させます。このことは臨床研究で確認されています。 根拠(7)(8)
住居をバリアフリーにする ★4 住居をバリアフリーにすることによって、大腿骨頸部骨折が減少することは信頼性の高い臨床研究によって確認されています。お年寄りの転倒の半分から3分の2は家のなかか、あるいはその周辺でおこるというデータがあります。骨がもろくなる骨粗しょう症などがあると、「ちょっと廊下で滑った」とか「布団につまずいた」といったような家庭内のささいな事故が、骨折の原因となります。床の段差をなくしてバリアフリーにするのみでなく、手すりや取っ手をつけたり、照明をつけたり、風呂場に滑りにくいマットを敷いたり、通路にある障害物を片づけたりすることなども、転倒・骨折防止には大切です。 根拠(9)(10)

おすすめの記事

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

手術をして、寝たきりを防ぐ

 大腿骨近位部骨折の大部分は、お年寄りにおこります。内科的に骨折を治療するとなると、長期間、ベッド上で安静にしていなければなりませんから、お年寄りの場合は肺炎や尿路感染、床ずれ、深部静脈血栓症、肺塞栓症、認知症などが高率でおこってきます。実際、大腿骨近位部骨折がきっかけで、寝たきりになるお年寄りはたくさんいます。

 そこで、このような事態を防ぎ、早期の歩行が可能となるようにするためにも、全身麻酔下での手術に耐えうる患者さんについては、できるだけ外科的な治療を受けることが勧められます。

主治医とよく相談して、手術法を決める

 大腿骨頚部骨折には骨接合術ないし人工骨頭挿入術が、大腿骨転子部骨折にはコンプレッション・ヒップ・スクリュー(CHS)、γネイルなどの方法を用いた骨折観血的手術が行われます。どの手術方法が選択されるかは、整形外科医の経験や熟練度ともかかわりますので、十分な説明を受け、納得したうえで手術を受けるべきでしょう。

転倒を防ぐ工夫で骨折予防を

 毎日、最低30分程度の歩行や体操をして、筋力と体の柔軟性を維持し、運動能力を低下させないようにし、転倒を未然に防ぐことが大切です。また家のなかをバリアフリーにしたり、廊下や階段の壁に手すりや取っ手をつけたり、照明を明るくしたり、風呂場に滑りにくいマットを敷いたりすることなどにより、かなりの割合で転倒を予防できることが証明されています。予防に優る治療はありません。

根拠(参考文献)

  • (1)Hansen FF. Conservative vs surgical treatment of impacted, subcapital fractures of the femoral neck. Acta Orthopaedica Scandinavica. 1994;65(Suppl 256):9.
  • (2)Lu-Yao GL, Keller RB, Littenberg B, et al. Outcome after displaced fracture of the femoral neck. A meta-analysis of one hundred and six published reports. J Bone Joint Surg Am. 1994;76:15-25.
  • (3)Esser MP, Kassab JY, Jones DH. Trochanteric fractures of the femur. A randomised prospective trial comparing the Jewett nail-plate with the Dynamic hip screw. J Bone Joint Surg Br. 1986;68:557-560.
  • (4)Bannister GC, Gibson AG, Ackroyd CE, et al. The fixation and prognosis of trochanteric fractures: a randomised prospective controlled trial. Clin Orthop. 1990;254:242-246.
  • (5)Pitsaer E, Samuel AW. Functional outcomes after intertrochanteric fractures of the femur: does the implant matter? A prospective study of 100 consecutive cases. Injury. 1993;24:35-36.
  • (6)Parker MJ, Handoll HH, Bhonsle S, et al. Condylocephalic nails versus extramedullary implants for extracapsular hip fractures. Cochrane Database Syst Rev. 2000;(2):CD000338.
  • (7)Campbell AJ, Robertson MC, Gardner MM, et al. Falls prevention over 2 years: a randomized controlled trial in women 80 years and older. Age Ageing. 1999;28:513-518.
  • (8)Wolf SL, Barnhart HX, Kutner NG, et al. Reducing frailty and falls in older persons: an investigation of Tai Chi and computerized balance training. Atlanta FICSIT Group. Frailty and Injuries: Cooperative Studies of Intervention Techniques. J Am Geriatr Soc. 1996;44:489-497.
  • (9)Northridge ME, Nevitt MC, Kelsey JL, et al. Home hazards and falls in the elderly: the role of health and functional status. Am J Public Health. 1995;85:509-515.
  • (10)Gill TM, Williams CS, Robison JT, et al. A population-based study of environmental hazards in the homes of older persons. Am J Public Health. 1999;89:553-556.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)