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不安神経症(全般性不安障害)の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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不安神経症(全般性不安障害)とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 ふつうの人なら心配しないようなことに対して、漠然とした強い不安を長期間抱くのが不安神経症です。不安のほか、焦燥感にさいなまれたり、緊張や混乱をきたしたり、抑うつなどの精神症状がみられます。

 また、自律神経の働きがうまくいかず、動悸、頻脈、息切れ、胸痛、呼吸困難、めまい、腹痛、下痢、不眠、手足のしびれといった身体症状が前面にでる場合もあります。

 最初は内科的にいろいろな検査をするのですが、データとしてはまったく異常がないことから、ようやく不安神経症と診断されるケースもしばしばみられます。

 不安神経症の人は、ささいなことにも過敏に反応し、ものごとになかなか集中できず、また、精神症状や身体症状を自分でコントロールすることもできません。このような症状が6カ月以上続き、社会生活が障害されるときは治療が必要です。

 近年、不安神経症はパニック障害と全般性不安障害の二つに分けて考えられるようになりました。パニック障害では、動悸や呼吸困難などの身体症状が突然発作として現れますが、全般性不安障害の場合は、なんらかの身体症状に常に悩まされます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 はっきりとした原因はまだわかっていませんが、無意識の葛藤があることによっておこるのではないかという説があります。また、脳内の神経伝達物質の調節がうまくいかなかったり、大脳基底核の代謝が低下したりしていることが発病に関係していると考えられています。

 漠然とした不安を感じること自体は誰にでもあることですが、ささいなことにこだわり、それが長期にわたる点で、健康な人との違いがみられます。さらに、職場や学校に行けなくなるなど、社会生活を営むうえで支障がでることもあります。

病気の特徴

 女性に多く、人口の約5パーセントがかかるといわれています。うつ病、アルコール依存症など、ほかの心の病気と合併することがしばしばあります。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
抗不安薬による薬物療法を行う ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。しかし、長期に使用する場合は、依存などの副作用に注意が必要です。 根拠(1)
抗うつ薬による薬物療法を行う ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(2)
支持的精神療法を行う ★2 患者さんの症状や悩みを十分聞き、それらを理解、受容しながらカウンセリングを進めていくのが支持的精神療法です。専門家の意見や経験から支持されています。患者さんに元気づけと安心を提供するとの報告もあり、患者さんの状況によっては試みるのも一つの方法です。
認知・行動療法を行う ★4 ものの見方を再検討し、それに基づいて行動を変える認知・行動療法は、約半数の患者さんに効果が認められることが、信頼性の高い臨床研究によって確認されています。しかし、長期間での効果や薬剤と比較しての効果は、まだはっきりしていません。 根拠(3)
自律訓練法を行う ★4 瞑想などにより交感神経の働きを鎮める自律訓練法の効果は、信頼性の高い臨床研究によって確認されています。効果は約半数の患者さんに認められ、それは認知療法と同等であると報告されています。 根拠(4)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗うつ薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
トリプタノール(塩酸アミトリプチリン) ★5 塩酸アミトリプチリンは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。とくに、うつ傾向を示す患者さんには効果が高いと考えられます。 根拠(12)
パキシル(塩酸パロキセチン水和物) ★5 塩酸パロキセチン水和物は非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と呼ばれる抗うつ薬の一種です。 根拠(10)

抗精神病薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ドグマチール/アビリット/ミラドール(スルピリド) ★3 スルピリドは不安症状に対しての効果が、臨床研究によって確認されています。 根拠(11)

抗不安薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
リーゼ(クロチアゼパム) ★4 クロチアゼパムは信頼性の高い臨床研究によって不安症状に対しての効果が確認されています。 根拠(5)
セルシン/ホリゾン/ソナコン(ジアゼパム) ★5 ジアゼパムは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(6)
ソラナックス/コンスタン(アルプラゾラム) ★5 アルプラゾラムは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(7)
デパス(エチゾラム) ★5 エチゾラムはとくにうつ症状を合併しているときの不安症状に関する効果が、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(8)
レキソタン(ブロマゼパム) ★5 ブロマゼパムは不安症状に対しての効果が、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(9)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

不安を意識せず、身体症状が前面にでる場合も

 不安や焦燥感、抑うつなどの精神症状とともに、さまざまな身体症状を伴うのが不安神経症の特徴です。動悸、頻脈、息切れ、胸痛、呼吸困難、めまい、腹痛、下痢、不眠、手足のしびれなどの身体症状をおもに訴え、不安感自体をはっきりとは意識しない場合も少なくありません。最初は内科的にいろいろな検査をするのですが、データとしてはまったく異常がないことから、ようやく不安神経症と診断されるケースも少なくありません。

抗不安薬を中心にSSRIも用いる

 全般性不安障害については、ソラナックス/コンスタン(アルプラゾラム)、デパス(エチゾラム)、レキソタン(ブロマゼパム)といったベンゾジアゼピン系抗不安薬やパキシル(塩酸パロキセチン水和物)などのSSRI系抗うつ薬などが、さまざまな症状の軽減に有効なことが信頼性の高い研究で証明されています。うつ症状を合併するときは、SSRIなどの抗うつ薬が第一選択薬になります。

自分に合った薬を見つける

 抗不安薬にも抗うつ薬にも、眠気などの副作用があります。副作用の現れ方には個人差がありますので、自分にとってもっとも安全で有効な薬を見つけることが大切です。

 また、精神療法でも不安障害を改善する効果が認められています。薬物治療を行いながら、症状によっては、精神療法を勧められる患者さんもいます。

 患者さんにとっては、信頼できる精神科医を見つけることが大切となります。

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根拠(参考文献)

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  • (12) Laakman G, Faltermaier-Temizel M, Bossert-Zaudig S, et al. Treatment of depressive outpatients with lorazepam, alprazolam, amytriptyline and placebo. Psychopharmacology (Berl). 1995;120:109-115.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行