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過換気症候群の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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過換気症候群とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 とくに身体的な病気がないのに、突然、息が苦しくなって、動悸、頻脈、めまい、顔面や手足のしびれなどを引きおこす過換気発作をなんどもくり返す状態を過換気症候群といいます。

 発作の時間は30~60分間程度で、自然におさまります。ただし、息をしても空気が入ってこないような感じがするために「このまま死ぬのではないか」という強い不安に襲われ、救急車で病院に運ばれることも少なくありません。

 全身がけいれんして意識を失うこともありますが、病院に着いたころには発作がおさまっているのがふつうです。

 なんども発作をくり返す慢性型になると、息が苦しいなどの呼吸症状よりも、顔面や手足のしびれ、めまい、頭痛、疲れやすさ、腰痛、不安感といった症状を強く感じるようになります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 精神的・身体的なストレスが元になって、はあはあと浅い呼吸を過度にくり返すと、血液中の二酸化炭素が呼気中に多く排出され、血液のpH(ペーハー)がアルカリ性に傾きます。これを呼吸性アルカローシスといいます。

 この状態が元になって、さまざまな症状が現れ、発作につながるのが過換気症候群です。また、発作がおこると不安や恐怖が増して、いっそう過度な呼吸をするようになり、悪循環に陥ります。

 血液中の酸素・二酸化炭素の量の変化に敏感な体質の人が過換気症候群になりやすいと考えられています。また、過換気症候群はパニック発作によるものもあるため、抗不安薬や抗うつ薬などの治療を行うことになります。

病気の特徴

 若い女性に多く、男性の2倍以上です。ただし、最近は若い男性も増える傾向にあります。20歳代が発症の中心ですが、30歳代、40歳代の人も珍しくはありません。発作は月に2回以上ある場合や、年2回程度にとどまる場合など、患者さんによってさまざまです。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
紙袋再呼吸法で発作をしずめる ★3 紙袋で鼻と口を覆って呼吸すると、呼気中の二酸化炭素を再び吸い込むことができます。この紙袋再呼吸法は日常的に行われ、その効果は明らかと思われますが、信頼性の高い臨床研究によって確認されているわけではありません。 根拠(1)
抗不安薬を用いて発作をしずめる ★2 不安発作(過換気症候群)をしずめる目的で、抗不安薬の静脈注射が一般に行われています。不安症(恐怖症)に対する抗不安薬の長期的な効果は信頼性の高い研究で示唆されていますが、過換気症候群の不安発作をしずめる効果については、臨床研究による根拠が明らかではありません。 根拠(2)
精神療法を行う ★5 パニック発作に対する精神療法の有効性は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(3)
腹式呼吸法を行う ★2 過換気症候群に対する腹式呼吸法の効果については根拠は明確ではなく、必ずしも多くの専門家が支持するわけではありません。
自律訓練法を行う ★2 瞑想などにより交感神経の働きをしずめる方法です。自律訓練法に関する根拠は明確ではなく、必ずしも多くの専門家から支持されているわけではありません。
抗不安薬で発作を予防する ★5 パニック発作に対する抗不安薬の予防効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(4)
抗うつ薬で発作を予防する ★5 SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬には、パニック発作への予防効果について非常に信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(5)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗不安薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ソラナックス/コンスタン(アルプラゾラム) ★5 パニック発作に対するアルプラゾラムの予防効果は認められていますが、現時点ではSSRIのほうが効果が高いことが非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(4)(5)

抗うつ薬(SSRI)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
デプロメール/ルボックス(マレイン酸フルボキサミン) ★5 SSRIであるマレイン酸フルボキサミンのパニック発作に対する予防効果は、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(5)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

ほかの病気でないことを確認し、この病気を理解する

 突然息が苦しくなったり、動悸がしたり脈が速くなったりしますので、はじめて過換気発作を経験した患者さんは非常に強い不安感をもちます。このまま死んでしまうのではないか、生命にかかわる深刻な病気なのではないか、そして、またあのような発作に襲われるのではないかと思うと、不安が強まり、それがストレスになって、さらに次の発作を誘いかねません。

 このような不安と発作の悪循環を招かないように、病気を理解し、受け入れることが大切です。もちろん、循環器など体の病気がないことも確認する必要があります。

発作がおきたら、口に紙袋を

 過換気発作がおきたら、まずは紙袋を鼻と口にあてて呼吸をするとよいでしょう。紙袋のなかに吐きだされた二酸化炭素を再度吸い込むことによって、体内から失われた二酸化炭素が補われ、さまざまな症状を消失させることができます。

抗不安薬や抗うつ薬の使用も

 必要に応じて、抗不安薬を静脈注射か内服で用います。過換気発作の背後にうつ病や不安神経症があって発作をくり返す患者さんでは、抗不安薬や抗うつ薬(SSRI)をしばらく用いることもあります。

 信頼できる医師に定期的に受診しながら、生活上のストレスや誘因となるできごとへの対処を徐々に行うことも勧められます。

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根拠(参考文献)

  • (1) Morgan WP. Hyperventilation syndrome: a review. Am Ind Hyg Assoc J. 1983;44:685-689.
  • (2) Versiani M. A review of 19 double-blind placebo-controlled studies in social anxiety disorder (social phobia). World J Biol Psychiatry. 2000;1:27-33.
  • (3) Barlow DH, Gorman JM, Shear MK, et al. Cognitive-behavioral therapy, imipramine, or their combination for panic disorder: A randomized controlled trial. JAMA. 2000;283:2529-2536.
  • (4) Lydiard RB, Lesser IM, Ballenger JC, et al. A fixed-dose study of alprazolam 2 mg, alprazolam 6 mg, and placebo in panic disorder. J Clin Psychopharmacol. 1992;12:96-103.
  • (5) Boyer W. Serotonin uptake inhibitors are superior to imipramine and alprazolam in alleviating panic attacks: a meta-analysis. Int Clin Psychopharmacol. 1995;10:45-49.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行