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子宮筋腫の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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子宮筋腫とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 子宮筋腫は子宮の壁をつくっている筋肉組織が異常に増殖して、こぶのようなかたまり(腫瘍)ができる病気です。大きさはさまざまで、あずき程度から大人の頭くらいのものまでみられます。腫瘍とはいっても子宮筋腫の場合は良性で、非常に多い病気の一つです。

 症状は個人差が大きく、子宮のどこに筋腫ができるかによっても異なります。たとえば、まったく症状のない場合もあれば、月経時にのみ腹痛や腰痛がある場合、月経過多(月経の出血量が多い)によって貧血をおこす場合、不正性器出血がおきる場合などです。

 筋腫が大きくなると、周囲の臓器や骨盤を圧迫するようになるので、下腹部の痛み、腰痛、便秘、頻尿をおこします。大きさや場所によっては、おなかを触るとしこりにふれることもあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 初潮前に子宮筋腫になる患者さんはほとんどいないことや、女性ホルモンの分泌が活発な30歳~40歳代の人に多くみられ、閉経以降には、自然に筋腫が小さくなることなどから、女性ホルモン(エストロゲン)が関係していることは確実です。

 良性の腫瘍ですので、がんに移行する心配はありません。ただし、卵巣がんや子宮体がん・子宮頸がんと区別するために正確な検査が必要です。

 子宮筋腫はできる場所によって4種類に大別されます。子宮頸部の場合は、「頸部筋腫」、子宮体部の場合は、子宮の外側に大きくなるものを「漿膜下筋腫」、内側に大きくなるものを「粘膜下筋腫」「筋層内筋腫」と呼びます。そのうち、一番頻度が高いのは、「筋層内筋腫」で、子宮内膜の表面積が大きくなるので、月経時の出血量が多くなり、貧血、動悸、息切れを伴います。

病気の特徴

 婦人科のなかでも頻度の高い病気で、とくに35歳以上では20~40パーセントの人にみられるといわれています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
ホルモン薬により、筋腫を小さくする ★5 GnRHアゴニストは、女性ホルモン(エストロゲン)を抑制する目的で用いられ、いわば閉経状態をつくる薬です。非常に信頼性の高いいくつかの臨床研究によって、この薬によって、子宮筋腫の大きさが35~60パーセントも縮小することが確認されています。 根拠(1)(2)
手術によって筋腫だけを摘出する ★5 筋腫だけを摘出する「筋腫核出術」は、妊娠を希望する女性や子宮を残すことを希望する女性にとって、有効な治療法です。非常に信頼性の高い臨床研究によって、この手術方法は子宮ごと摘出する「子宮全摘術」と比べて、手術時間や入院期間が短くなり、出血量も少ない点がすぐれていることがわかっています。また、筋腫核出術を腹腔鏡下で行った場合は、術後の痛みや発熱が少なく、回復も早いということも臨床研究で確認されています。 根拠(3)~(7)
子宮を摘出する ★5 子宮全摘術は、子宮筋腫の症状や再発を取り除くことができるため、もっとも信頼できる治療方法です。非常に信頼性の高い臨床研究によって、子宮全摘術を受けた場合、身体症状、精神状態、生活の質(QOL)が改善したということが確認されています。子宮全摘術には、「腹式子宮全摘術」(開腹して子宮を全摘する方法)、「膣式子宮全摘術」(膣からメスを入れて、子宮を摘出する方法)、「腹腔鏡下全摘術」(おなかに小さな穴を開けて、そこから腹腔鏡という手術器具を挿入し、モニターで腹部の画像を見ながら、手術をする)の3種類があります。このうち、「腹腔鏡下全摘術」は、「腹式子宮全摘術」に比べて、回復が早く、術後の痛みも少なかったということが、非常に信頼性の高い研究によって証明されています。 根拠(8)(9)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

筋腫を小さくする薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
GnRHアゴニスト スプレキュア(酢酸ブセレリン) ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によって、これらの薬は筋腫を小さくする効果があると確認されています。 根拠(1)(2)
ナサニール(酢酸ナファレリン) ★5
リュープリン(酢酸リュープロレリン) ★5

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

治療は症状によって異なる

 子宮筋腫は、その大きさと合併する症状の程度によって、治療法を決定します。

 通常、筋腫が小さく、貧血や不妊のような体調の悪化や苦痛がない場合は、とくに治療をせず、定期的に経過を観察します。しかし、筋腫が大きくなり、周囲の臓器や骨盤を圧迫することで下腹部の痛みや腰痛、便秘、頻尿などを引きおこした場合、あるいは貧血になるほどの月経異常を引きおこしている場合には、ホルモン療法や手術が行われます。

ホルモン薬(薬物療法)は効果が確認されている

 GnRHアゴニストの使用によって、重症の月経時の出血が抑えられ、子宮筋腫を縮小させる効果があるということが、非常に信頼性の高いいくつかの臨床研究で確認されています。しかし、副作用として、骨粗しょう症、血圧の変動、膣炎、関節痛、筋肉痛、浮腫、吐き気、不眠なども報告されていることから、投与期間(通常は6カ月)に注意する必要があります。

 ただし、この治療は根治療法ではないため、薬の使用中は筋腫が小さくなりますが、使用をやめると大きくなったり、症状が再発したりします。

薬物治療が効果なければ、手術療法を

 ホルモン薬による治療の効果がでない場合、または副作用のために治療を継続できない場合は手術を行うことになります。可能であれば筋腫だけを摘出する「筋腫核出術」を選択しますが、筋腫が非常に大きくて、子宮を全部摘出せざるをえない場合には「子宮全摘術」を行います。

 筋腫核出術でも、子宮全摘術でも、開腹する手術よりも腹腔鏡下によるほうが体への負担が少なく、回復するのに短時間ですむという利点があります。

 しかし、腹腔鏡下手術は比較的新しい手術方法で、医療チームの熟練度によりさまざまな合併症の発症率が異なる可能性があるため、婦人科医とよく相談したうえで決めるとよいでしょう。

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根拠(参考文献)

  • (1) Friedman AJ, Barbieri RL, Doubilet PM, et al. A randomized, double-blind trial of a gonadotropin releasing-hormone agonist (leuprolide) with or without medroxyprogesterone acetate in the treatment of leiomyomata uteri. Fertil Steril. 1988;49:404-409.
  • (2) Carr BR, Marshburn PB, Weatherall PT, et al. An evaluation of the effect of gonadotropin-releasing hormone analogs and medroxyprogesterone acetate on uterine leiomyomata volume by magnetic resonance imaging: a prospective, randomized, double blind, placebo-controlled, crossover trial. J Clin Endocrinol Metab. 1993;76:1217-1223.
  • (3) Hillis SD, Marchbanks PA, Peterson HB. Uterine size and risk of complications among women undergoing abdominal hysterectomy for leiomyomas. Obstet Gynecol. 1996;87:539-543.
  • (4) Iverson RE Jr, Chelmow D, Strohbehn K, et al. Relative morbidity of abdominal hysterectomy and myomectomy for management of uterine leiomyomas. Obstet Gynecol. 1996;88:415-419.
  • (5) Stewart EA, Faur AV, Wise LA, et al. Predictors of subsequent surgery for uterine leiomyomata after abdominal myomectomy(1). Obstet Gynecol. 2002;99:426-432.
  • (6) Mais V, Ajossa S, Guerriero S, et al. Laparoscopic versus abdominal myomectomy: a prospective, randomized trial to evaluate benefits in early outcome. Am J Obstet Gynecol. 1996;174:654-658.
  • (7) Seracchioli R, Rossi S, Govoni F, et al. Fertility and obstetric outcome after laparoscopic myomectomy of large myomata: a randomized comparison with abdominal myomectomy. Hum Reprod. 2000;15:2663-2668.
  • (8) Kjerulff KH, Langenberg PW, Rhodes JC, et al. Effectiveness of hysterectomy. Obstet Gynecol. 2000;95:319-326.
  • (9) Ferrari MM, Berlanda N, Mezzopane R, et al. Identifying the indications for laparoscopically assisted vaginal hysterectomy: a prospective, randomised comparison with abdominal hysterectomy in patients with symptomatic uterine fibroids. BJOG. 2000;107:620-625.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行