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更年期障害の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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更年期障害とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 女性が閉経を迎える前後数年間を更年期といいます。この時期、さまざまな心身の異常や不快な症状に悩まされることが多く、それを総称して更年期障害と呼んでいます。

 その症状は実に多様で、“ホットフラッシュ”といわれる、ほてり、のぼせ、動悸、発汗などを中心に、頻尿、尿失禁、肩こり、倦怠感、腰痛、関節痛などがおもにみられます。さらに不安、不眠、いらいら、物忘れ、うつ状態などの精神症状が加わる場合も少なくありません。

 訴えにくい症状として重要なのが、外陰部、膣の乾燥、萎縮症状で、性交時痛として訴える人もいます。

 更年期障害の診断は、月経の異常と関係しているかが重要となるため、月経周期、月経量、出血パターンの変化について、いつもより気にしてみてください。

 更年期になると月経周期が短くなったり長くなったりして不順になり、やがて無月経となります。月経量は少なくなることも多くなることもあり、出血パターンとしては、前半に多くなったり、だらだら続く月経を経験したりします。この時期は、年齢的に子宮頸がんだけでなく子宮体がんのリスクが増える時期でもあるため、体がん検診(子宮内膜診)を含めた子宮がん検診を受けることが勧められます。

 本人はこれら複数の症状に悩まされ不調を訴えますが、状態が不安定であることや症状の現れ方が断続的であることなどから、ほとんど原因となる病気がわからないまま不定愁訴として扱われることが多いようです。

 女性の体は、閉経と前後して卵巣の機能が徐々に衰え、女性ホルモン(とくに卵胞ホルモン・エストロゲン)の分泌が低下していきます。女性ホルモンは月経をおこしたり、女性生殖器の発育や骨量の維持、肌のはりをよくしたりするなど、女性の体に欠かせない役目を担っています。更年期の女性に骨粗しょう症が多いのは、必要な骨量がエストロゲンの減少によって維持できなくなるからです。

このようにホルモンバランスが崩れることで心身にいろいろな不調が現れますが、エストロゲンの分泌が止まり、卵巣機能が停止した状態に体が慣れれば、症状は自然に消えていきます。

 子宮摘出後の女性では月経異常がわかりにくいため、閉経の診断に、日本ではFSH値(40ミリ・インターナショナルユニット/ミリリットル以上)とエストラジール(E2)値(20ピコグラム/ミリリットル以下)が使われることがありますが、欧米では「FSHの上昇は閉経の予兆であるが、閉経の年齢を予想するにはあまり役立たない」と明記されており、FSHとE2の値だけから閉経時期の予測を行うことは難しいといえます。(1)(2)

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 更年期障害の一番の原因は、卵巣の機能が急激に低下しエストロゲンの分泌が減るためです。それに加え、この時期には子どもの成長に伴い、子どもが進学、結婚を機に独立することによる孤独感や疎外感(空の巣症候群)、夫の定年といった人生への不安感、女性性喪失や老化への恐怖、あせりなど、精神的にもいろいろな変化に見舞われます。このようなライフサイクルの変化をきっかけにいろいろな症状が引きおこされます。

病気の特徴

 個人差がありますが、平均的な閉経年齢は45~55歳の50±5歳くらいで、更年期はその前後数年間、40歳代前半から50歳代後半までに現れることが多いといえます。症状の程度も比較的軽度なものから、多様な症状に襲われる人までさまざまです。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
ほかの病気ではないことを確認し、原因を明らかにする ★2 症状の原因が内分泌の病気など、ほかのなんらかの病気によるものではないことを確認することは、専門家の意見や経験から支持されています。甲状腺機能異常は、月経異常を伴い、亢進症では動悸、低下症では抑鬱状態などを伴うことがあります。更年期女性は甲状腺疾患のおこりやすい年齢でもあるため、更年期症状がある際には甲状腺機能は必ず評価してもらいましょう。 根拠(3)
家族関係や本人の精神状態が原因と考えられる場合は、カウンセリングを行う ★2 エストロゲンの減少以外に、生活環境や精神的なものが引きがねとなって症状が引きおこされている場合は、婦人科や精神科の専門医によるカウンセリングが必要です。これは専門家の意見や経験から支持されています。
ホルモン補充療法(HRT)を検討する ★3 ホルモン補充療法は、結合型エストロゲンと酢酸メドロキシプロゲステロンを併用して服用するのが一般的です。子宮摘出後であればエストロゲンのみを、子宮がある女性はエストロゲンと、子宮内膜がん予防のためプロゲスチンを服用することが勧められています。 非常に信頼性の高い複数の臨床研究によると、エストロゲン製剤と黄体ホルモン(プロゲステロン)製剤の併用療法(EPT)は、更年期障害の症状であるほてり、うつ症状、尿路症状などを改善させ、骨粗しょう症を予防する一方、乳がんや血栓症を発症する危険性があるとしています。また、アメリカで最近発表された非常に信頼性の高い臨床研究によると、HRTによって増加する疾患としては、虚血性脳卒中(1.29倍)(出血性脳卒中は1.07倍で変化なし)、乳がん(1.26倍)、静脈塞栓症(2.06倍)があげられています。卵巣がんは、有意な上昇がないといわれていましたが、最近、上昇するとの報告がありました。また、肺がんの約80パーセントを占める非小細胞がんでは有意な増加は認められませんでしたが、肺がんによる死亡と悪化が進んだ転移性の腫瘍はともに1.87倍と増加しました。冠動脈疾患は、EPTにより1.23倍心筋梗塞が増えるとの報告もありますが、閉経後10年未満では増加はみられず、エストロゲン単独療法(ET)では上昇は認められていません。このため、ホルモン補充療法ガイドラインでは、閉経早期の健康女性へのHRTは心筋梗塞のリスクを増加させないとしています。HRTを慎重に行うべきとされる疾患に、片頭痛や胆嚢炎、胆石症があります。前兆のある片頭痛の女性では脳卒中が増加するリスクが報告され、EPT、ETともに胆のう疾患(1.67倍)、胆のう疾患による手術(1.59倍)のリスクを増加させました。また、閉経前後のHRTにより子宮筋腫が増大する可能性や、閉経後のHRTにより内膜症が再燃する可能性もあるとされています。HRTの効果とリスクは、年齢、閉経後の年数と健康状態、薬の種類や黄体ホルモン併用の有無、投与経路、投与期間により異なるので、医師と十分に相談する必要があります。 根拠(4)~(14)
漢方薬を用いる ★3 漢方薬の効果を認めた臨床研究が出始めています。専門家の意見や経験から、ホルモン補充療法が行えない患者さんには漢方薬を用いる場合があります。 根拠(15)~(18)
それぞれの症状を抑えるための薬を用いる ★2 自律神経調節薬や抗不安薬などをそれぞれの症状に応じて用いることは、専門家の意見や経験から支持されています。
抗うつ薬と認知療法(日本ではカウンセリング)の併用療法を行う ★3 更年期障害に対する抑うつ症状には、抗うつ薬であるSSRIと精神療法の併用療法が勧められています。また、認知行動療法の有効性が報告されています。ただし、日本では精神科医による認知行動療法は保険適用がありますが、臨床心理士によるカウンセリングは保険適用がありません。 根拠(19)(20)
本人が人生の転換点であることを認め、それを受け入れるための環境づくりを行う ★2 更年期は患者さんにとってライフサイクルの節目であり、新たなスタートなのだということを理解し、さまざまな不調からくるストレスを軽減できるよう環境を整えることは、更年期のつらさを少しでも軽減する一つの手段として、専門家の意見や経験から支持されています。

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

ホルモン補充療法(併用)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
エストロゲン(卵胞ホルモン)+プロゲステロン(黄体ホルモン) プレマリン(結合型エストロゲン)またはエストラーナ(エストラジオール:経皮)+プロベラ/ヒスロン(酢酸メドロキシプロゲステロン) ★2 結合型エストロゲンと酢酸メドロキシプロゲステロンを併用して服用するのがホルモン補充療法の一般的な方法です。非常に信頼性の高い複数の臨床研究によると、この併用療法はほてりの症状やうつ状態、尿路症状などを改善させ、骨粗しょう症を予防する一方、乳がんや虚血性脳卒中、血栓症、卵巣がんなどを発症する危険性があるとしています。また、別の非常に信頼性の高い臨床研究によると、虚血性脳卒中(1.29倍)、乳がん(1.26倍)、静脈塞栓症(EPT2.06倍、ET 1.47倍)が増加するとしています。以前は、骨粗しょう症予防に、HRTが勧められていましたが、今は勧められていません。ビスフォスフォネート剤など、ほかに有効な薬剤があり、そちらが勧められています。更年期症状が続き、骨粗しょう症の薬が飲めないなどの場合に、HRTを考慮するとよいでしょう。効果とリスクをあわせもつ治療法なので、医師と十分に相談する必要があります。 根拠(21)~(24)(25)(26)(27)(4)(5)
プレマリン(結合型エストロゲン)またはエストラーナ(エストラジオール:経皮)+デュファストン(ジドロゲステロン) ★2
メノエイドコンビパッチ(エストラジオール酢酸+ノルエチステロン:経皮) ★2

エストロゲンホルモン補充療法

主に使われる薬 評価 評価のポイント
エストロゲン エストリール(エストリオール) ★2 子宮のない女性にのみ適応されます。経皮吸収剤のほうが血栓症のリスクが少ないといわれています。エストリオールは効きめが穏やかであるため、単独で使われます。いずれの薬も有効性を示す臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。
プレマリン錠(結合型エストロゲン) ★2
ジュリナ錠(エストラジオール) ★2
ディビゲル(エストラジオール:経皮) ★2
ルエストロジェル(エストラジオール:経皮) ★2

更年期障害にみられる自律神経失調症を改善する漢方薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
加味逍遙散 ★3 漢方薬の効果については専門家の意見や経験から支持されています。近年、更年期障害に対する漢方治療の有効性に関しては、HRTと加味逍遙散のランダム化比較試験を含めて報告がでてきています。そのほか、症状に応じて次のような漢方薬が用いられることもあります。温清飲、五積散、温経湯、三黄瀉心湯、温清飲、四物湯、三黄瀉心湯、川芎茶調散、桂枝茯苓丸加薏苡仁など。(17) 根拠(15)~(16)(17)(18)
桂枝茯苓丸 ★3
当帰芍薬散 ★3
女神散 ★2
通導散 ★2
黄連解毒湯 ★2
柴胡桂枝乾姜湯 ★2

自律神経失調症を抑える薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
自律神経調節薬 グランダキシン(トフィソパム) ★2 トフィソパムの効果については専門家の意見や経験から支持されていますが、根拠を示した臨床研究は見あたりません。

不安を抑える薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
抗不安薬 デパス(エチゾラム) ★2 エチゾラムの効果については専門家の意見や経験から支持されていますが、根拠を示した臨床研究は見あたりません。

うつ状態を抑える薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤) パキシル(パロキセチン塩酸塩水和物) ★5 SSRIやSNRIは抑うつ症状などの精神的症状のみならず、自律神経失調症状に対する有効性も、信頼性のある臨床研究によって確認されています。ただし、日本では更年期障害に対する保険適用はありません。 根拠(28)
ジェイゾロフト(塩酸セルトラリン) ★5
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤) サインバルタ(デュロキセチン塩酸塩) ★5

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

更年期障害の症状の多くはホルモン補充療法で改善できる

 エストロゲン(卵胞ホルモン)の減少が更年期障害の原因であることから、卵胞ホルモンの補充が有効であろうことは当然予測されます。実際、ほてり、のぼせ、動悸、発汗、不安、不眠、いらいらなど、更年期障害の症状の多くは、卵胞ホルモンの使用で驚くほどよくなります。

 そこで、更年期障害の症状を緩和するために、ホルモン補充療法が行われています。この治療法ではエストロゲンとともに子宮内膜がんの予防のためプロゲステロンを併用します。

ホルモン補充療法には継続性や不正出血などのわずらわしさも伴う

 しかし、欧米と比べてわが国では、このホルモン補充療法を受けている女性は著しく少ないのが現状です。ホルモン補充療法を受けるためには、婦人科医を受診しなくてはならず、さらに、周期的にホルモン補充を行うことで月経のような出血(不正出血)や、乳房痛、乳房が張る感じがおこるなどのわずらわしさがあるためかと思われます。

欧米ではホルモン補充療法の考え方に変化の可能性

 かつてホルモン補充療法では、更年期障害の症状以外に、心筋梗塞などの心臓病も予防でき、女性の認知症も予防できる可能性が高いと考えられていたのですが、これまでの研究(観察研究)よりも信頼性の高い研究(ランダム化比較試験)で心臓病についても認知症についても予防効果がないとされ、大きな話題になりました。

 毎年いろいろな報告が出てきており、今の時点でホルモン補充療法をはっきりと良い、悪いと判断するのは難しいといえます。今後の研究結果により、ホルモン補充療法に対する考え方が大きく変わってくる可能性もあります。

ホルモン補充療法は副作用もある

 また、ホルモン補充療法では乳がんや静脈血栓症、虚血性脳卒中などの発症率を増加させるとのデータがあります。乳がんほど実際の患者数は多くありませんが、卵巣がんも増加するとのデータもあります。絶対値としての確率はそれほど高くありませんが、それでも、ホルモン補充療法を多くの女性に思いとどまらせる事実ではあります。2~3年の短期間であればリスクも少ないといわれています。

 更年期障害のつらさと、このような副作用のおこる確率を考えあわせて判断するのは誰にとっても難しいものです。医師から十分な説明を受けて、自分自身納得がいくようによく考えて治療法を選ぶべきでしょう。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

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出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)