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クラミジア感染症の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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クラミジア感染症とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 性交渉や性的な接触によって感染する病気を性感染症(STD:Sexually Transmitted Diseases)といいます。そのなかで、現在もっとも多くみられるのがクラミジア感染症です。とくに若い女性の間で増加しており問題になっています。

 感染の初期には女性の場合はおりものが増える、下腹部が痛むという症状がでることもありますが、一般的には、男性も女性もほとんど症状がなく、感染に気づかないまま放置されがちです。

 女性の場合、子宮や卵管などに感染が広がり、子宮頸管炎や骨盤内感染症をおこしたり、卵管がつまってしまう卵管性不妊症や子宮外妊娠につながる場合もあります。

 さらに、感染に気づかないまま出産した場合、産道感染によって新生児が喉頭炎や結膜炎、肺炎になる可能性もあるため、妊娠時には必ず検査が必要です。

 また、炎症が広がると肝臓皮膜の炎症(肝周囲炎)をおこすこともあり、右肋骨の下の痛みや発熱がおこります。これは「フィッツ・ヒュー・カーティス症候群」と呼ばれています。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 クラミジア・トラコマティスという微生物(Chlamydia trachomatis)が原因となります。男性は尿道に、女性は子宮の入口(子宮頸管)などにこの微生物が感染して炎症をおこします。最近ではオーラルセックスが増えたことから、性器だけでなく口の周りや口内、咽喉から原因となるクラミジアが見つかることもあります。男性は尿道炎の原因になります。適切な抗菌薬を用いれば完全に治癒しますが、放置される限り自然に治ることはありません。性交渉のパートナーも同時に感染の有無を確認し、感染している場合は治療しなければなりません。

病気の特徴

 圧倒的に女性の感染者が多く、男性の2倍以上を占めています。現在、とくに10歳~20歳代の若年層での感染の広がりが著しく、20歳~24歳の感染者が全体の約3分の1、15歳~19歳の感染者が約20パーセントを占め、この世代で全体の半分以上にのぼることが報告されています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
定期的な検査によって感染の有無を確認する ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によって、性的に活動的な女性が定期的にクラミジア感染の検査を受けることで、骨盤内感染症の発症率を下げることが確認されています。 根拠(1)
不特定多数との性交渉は避ける ★3 臨床研究によって、複数の性的パートナーがいることは、クラミジア感染に対する有意な危険因子となることが報告されています。 根拠(2)
原因微生物に有効な薬を用いる ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によって、原因となる微生物(クラミジア・トラコマティス)に対して、テトラサイクリン系やマクロライド系の抗菌薬が有効であることが確認されています。 根拠(3)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

クラミジアに有効な薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
テトラサイクリン系抗菌薬 ビブラマイシン(塩酸ドキシサイクリン) ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によって、クラミジア感染症に対するテトラサイクリン系抗菌薬の有効性が確認されています。 根拠(3)
ミノマイシン(塩酸ミノサイクリン) ★5
マクロライド系抗菌薬 ジスロマック(アジスロマイシン水和物) ★3 アジスロマイシン水和物やエリスロマイシンについては有効性を示す臨床研究があります。クラリスロマイシンについての臨床研究は見あたりませんが、ほぼ同じ構造の薬ですので、アジスロマイシン水和物やエリスロマイシンと同様の効果があると考えられます。 根拠(3)
エリスロシン(エリスロマイシン) ★3
クラリス/クラリシッド(クラリスロマイシン) ★2

卵管の感染に有効な薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ニューキノロン系抗菌薬 クラビット(レボフロキサシン) ★5 卵管まで感染が拡大した場合にはニューキノロン系抗菌薬が有効であることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(3)
スパラ(スパルフロキサシン) ★5

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

性交渉のときには、コンドームを使用する

 クラミジア感染症は性交渉時に、最初から最後までコンドームを使用すれば防ぐことのできる病気です。自分の体や相手の体を病気から守るために、コンドームの使用は心がけてほしいところです。予防策にまさる治療なし、といえるでしょう。

定期的に検査を受けて、早期に治療を始める

 性交渉の経験が一度でもあれば、感染の可能性があります。年間300万人の人がクラミジアに感染していると推計されているアメリカでは、思春期の女性10人に1人がクラミジア感染症であるともいわれています。そこで、CDC(疾病管理センター)では、女性に対し無症状でも検査を受けることを勧めています。

 日本でも10歳~20歳代の感染者の増加が懸念されています。定期的に検査を受けることで感染の発見はもちろん、感染の広がり(子宮・卵管から骨盤内・腹膜内まで)を防ぐことができます。骨盤内感染症が放置されると不妊や子宮外妊娠の原因ともなります。

 クラミジア感染症と診断された場合は、感染が子宮頸管にとどまっている早期に治療を始めることが大切です。感染したことがわかりさえすれば、非常に信頼性の高い臨床研究によって、テトラサイクリン系やマクロライド系の抗菌薬が、原因となる微生物の増殖を抑える効果があると確認されています。また、ニューキノロン系の抗菌薬についても、非常に信頼性の高い臨床研究によって有効性が確認されています。

完全に治るまで治療を続けることが大切

 これらの結果から、治療自体は難しくありませんが、自己判断で完全に治りきらないうちに服薬や受診を中断してしまうことが多く、問題になりがちです。完全に治癒されない場合、感染がさらに拡大していく原因になります。

 また、性的パートナーに潜在的な感染が認められることも多いので、お互いに検査して感染の有無を確認することが必要です。

妊婦の感染では、子どもへの感染の危険性も

 感染に気づかないまま出産した場合、産道感染がおき、新生児が喉頭炎や結膜炎、肺炎になる可能性があります。妊娠時には必ず検査を受けることが必要です。感染が認められた場合は抗菌薬による治療を受けます。

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根拠(参考文献)

  • (1) Scholes D, Stergachis A, Heidrich F, et al. Prevention of pelvic inflammatory disease by screening for chlamydial infection. N Engl J Med. 1996;334:1362-1366.
  • (2) Gaydos CA, Howell MR, Pare B, et al. Chlamydia trachomatis infections in female military recruits. N Engl J Med. 1998;339:739-344.
  • (3) Centers for Disease Control and Prevention. Sexually transmitted diseases treatment guidelines 2002. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2002;51:1-80.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行