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慢性化膿性中耳炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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慢性化膿性中耳炎とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 慢性化膿性中耳炎は、中耳におきた炎症が長引いて慢性化したもので、急性の化膿性中耳炎の治療が遅れたり、完全に治っていなかったりした場合におこります。

 中耳のなかで感染の範囲は広がっていきますが、激しい痛みの訴えはさほどなくなります。耳漏(膿の混じった耳だれ)がくり返しみられるのがおもな症状となり、鼓膜に穿孔(穴が開くこと)ができるため低音が聞き取りにくいタイプの難聴が現れ、これがゆっくりと進行していきます。

 治りきらないまま炎症が数週間にわたって続いているため、その間にかぜをひいたり、細菌感染が重なったりすると炎症が再び激しくなり、症状が悪化するといった状態をくり返すことが少なくありません。このような状態が続けば、いずれは鼓膜から内耳に音を伝える耳小骨まで侵されることになりかねません。

 抗菌薬で感染を抑えますが、症状が軽減したら、手術によって鼓膜の穴を修復することが勧められます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 細菌感染による中耳炎で適切な処置が遅れたり、痛みや耳漏が少なくなったことで患者さん(あるいはその家族)が治ったと思って治療を放置した場合など、治療が不完全であることがおもな原因となります。また耳のけがによって鼓膜に穴が開いた場合にもおこります。少量であっても耳漏がくり返しでるということは、炎症が完全におさまっていないことを示しています。完治するまできちんと治療を続けることが大切です。鼓膜の穿孔は少しずつであっても拡大し、それによる難聴も進行することになります。

病気の特徴

 子どものころ(就学前)にこのような慢性化する中耳炎が治りきらずに、両側の耳で難聴をおこしてしまうと、言葉の障害がおこってくることもあるので注意が必要です。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
原因となっている菌を特定し、適切な抗菌薬を用いる ★2 慢性化膿性中耳炎の基本的な治療は手術療法です。これまでの臨床研究では、慢性化膿性中耳炎における経口および全身的な抗菌薬治療の有効性は疑問視されています。点耳の抗菌薬の効果については意見が分かれています。 根拠(1)
鼓室を洗浄する ★2 鼓室の洗浄が有効であることを示す信頼性の高い臨床研究は見あたりません。しかし、原因となっている細菌の量を減らす目的のために行われることもあり、専門家の意見や経験から支持されています。
感染した場所(感染巣)を手術によって除去する ★4 手術的に行う感染巣の除去が有効であることが、信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(2)
症状が軽くなったら、鼓膜形成術を行う ★4 感染巣が除去されたのちに、聴力障害が残った場合には、鼓膜形成術が行われます。この手術が有効であることは信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(3)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗菌薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
点耳用 タリビッド(オフロキサシン) ★2 これまでの臨床研究では、慢性化膿性中耳炎における経口および全身的な抗菌薬治療の有効性は疑問視されています。また、点耳の抗菌薬の効果については意見が分かれています。
ロメフロン(塩酸ロメフロキサシン) ★2
ホスミシンS(ホスホマイシンナトリウム) ★2

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

急性中耳炎の治療が中途半端である場合におこる

 慢性化膿性中耳炎は、急性の化膿性中耳炎を治療しないで放置したり、途中で治ったと患者さんや保護者が勝手な判断で治療を中断してしまったりすることが原因でおこります。

 いったんは弱まるものの、炎症は数週間にわたって続きます。その間に、かぜをひいたり、細菌感染があると、炎症はさらに悪化していくことになります。

耳漏が少量でもあれば治療を継続する

 炎症が慢性化することで、むしろ痛みは軽減し、自覚症状がなくなるので、患者さんや保護者は治ったと勘違いしやすいのですが、耳漏が少量でもあり、それをくり返しているのであれば炎症は継続しています。鼓膜穿孔が拡大し、徐々にではあっても難聴も進行することになり、とくに、幼児で両耳にこれがおこると、言葉の障害にもつながる可能性があります。化膿性中耳炎は急性のうちにきちんと治すのが大切です。

手術療法が基本

 慢性化膿性中耳炎の基本的な治療は手術療法です。炎症が続き、悪化をくり返して難治化した感染巣を取り除きます。炎症が完全に取り除かれたのち、聴力障害が残った場合には、鼓膜形成術が有効です。

副作用の少ない抗菌薬を限られた期間使う

 これまでの臨床研究では、慢性化膿性中耳炎における抗菌薬の有効性は疑問視されています。しかし、放置した場合に聴力障害などの重い後遺症を残す可能性を考えると、副作用の少ない抗菌薬を限定期間で使うのであれば、正当化される場合も少なからずあると思われます。

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根拠(参考文献)

  • (1) Dagan R, Fliss DM, Einhorn M, et al. Outpatient management of chronic suppurative otitis media without cholesteatoma in children. Pediatr Infect Dis J. 1992;11:542-546.
  • (2) Lancaster JL, Makura ZG, Porter G, et al. Paediatric tympanoplasty. J Laryngol Otol. 1999;113:628-632.
  • (3) Acuin J. Extracts from "Concise clinical evidence": Chronic suppurative otitis media. BMJ. 2002;325:1159.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行