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白内障の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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白内障とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 白内障は、ものを見るときにカメラのレンズのような役目を果たしている水晶体が白く濁にごってくる病気です。濁りは水晶体を部分的に侵しはじめ、やがて水晶体全体を覆います。濁りの部分によって自覚症状はさまざまで、ときにはまったく自覚症状がない場合もあります。明るいところでまぶしさを感じたり、全体に白っぽくものがかすんで見えたりします。水晶体の中央が濁ってくると視力が低下します。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 多くの原因がありますが、もっとも多いのが加齢による老年性白内障です。程度の差はあってもお年寄りのほとんどにおこる病気であるため、60歳を過ぎたら予防的な意味からも定期的な目の検査が必要です。

 そのほか、生まれつきの白内障(先天性白内障)、目のけがによっておこる外傷性白内障、糖尿病やアトピー性皮膚炎に伴っておこる白内障などがあります。

病気の特徴

 老年性白内障がもっとも多く、60歳代の人の60~80パーセントになんらかの症状がみられます。濁った水晶体を取り除いて人工の眼内レンズを入れる手術は年間約120万件行われ、そのうちの約95パーセントの人は視力が0.5以上に回復しています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
初期の白内障であれば、点眼薬によって進行を抑える ★2 点眼薬が白内障の進行を抑えることを示す臨床研究はいくつかありますが、どれも信頼性の高い研究とはいえず、十分に有効性が確認されているとはいえません。効果を確認するには信頼性の高い新たな臨床研究が必要でしょう。使用にあたっては眼科専門医の説明を受けるべきでしょう。 根拠(1)~(5)
原因となっている病気を確認する ★4 視力の低下が気になりはじめたら検査を行い、原因となっている病気がないか確認します。糖尿病やアトピー性皮膚炎が原因となっている可能性もあります。白内障を引きおこしている病気そのものを治療することで白内障の進行を予防できることは、信頼性の高い臨床研究によって確認されています。とくに糖尿病は白内障になりやすく、60歳以下で発症しやすくなっています。その予防には血糖コントロールを行う必要があります。 根拠(6)~(8)
白内障と診断されたら、進行度を把握するために定期的に検査を受ける ★3 定期的な検査で白内障の進行度をチェックすることは、手術の時期など必要な処置を見極めるのに有効であることが、臨床研究で確認されています。喫煙や糖尿病は白内障の危険因子となります。 根拠(6)~(8)
人工水晶体(眼内レンズ)を埋め込む手術を行う ★3 一度白く濁った水晶体は元に戻ることはありません。日常生活に支障をきたすほど視力が低下してきたら、それを回復するには人工の水晶体を埋め込む手術が必要です。人工水晶体を埋め込む手術の効果はいくつかの臨床研究で確認されています。 根拠(6)(10)~(14)
心疾患や高血圧などがある場合、ほかに視神経の病気がある場合、手術は慎重に検討する ★3 白内障手術を受けた人のなかで、糖尿病や心臓血管病がある人は手術における死亡率が高いということが臨床研究によって確認されています。 根拠(6)(9)
手術後には、必要な眼鏡をつくり、使用する ★2 人工水晶体を埋め込む手術を行うと、目のレンズを入れ替えるわけですから、それまで使っていた眼鏡も合わなくなることがあります。そのため新しくつくり直すことが専門家の意見や経験から支持されています。
予防のためにビタミン製剤を用いる ★1 これまで白内障の予防薬としてビタミンC、ビタミンE、ベータカロチンが用いられることがあり、専門家の経験や意見から支持されてきました。しかし2003年、信頼性の高い臨床研究がないことから積極的には推奨できないとするガイドラインが示されました。 根拠(6)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

初期の白内障の進行を抑えるための点眼薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
カタリン/カリーユニ(ピレノキシン) ★2 いずれの薬も白内障の進行を抑えることを示す臨床研究がありますが、どの研究も信頼性の高いものとはいえず、決定的な効果は期待できません。これらの点眼薬は欧米ではあまり使用されていません。 根拠(1)~(3)(4)(5)
タチオン(グルタチオン) ★2

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総合的に見て現在もっとも確かな治療法

手術が唯一の確実な治療法

 白内障の唯一の確実な治療は、混濁した水晶体の手術的摘出と人工の眼内レンズの挿入です。

 理論的に白内障を改善ないし予防する可能性のある点眼薬はいくつかありますが、明確に有効性を示した信頼性の高い臨床研究はありません。

 副作用さえなければ、白内障が高度になって日常生活に不便が生じるまでの間、点眼薬を使ってみてもよいと思いますが、現在までの研究成果をみる限りは決定的な効果は期待できません。予防的に用いられていたビタミンC、ビタミンE、ベータカロチンについて、使用は推奨できないとの指針が発表されています。

お年寄りや心疾患のある場合は手術に危険性が

 世界の多くの国々で、とくに先進諸国では高齢化が進み、80歳以上の人では、白内障を発症する人の割合が非常に高くなっています。

 高齢になれば、高血圧や糖尿病、心疾患を合併する可能性も高くなり、手術時の危険性も高まります。そうしたリスクを検討したうえで手術に踏み切るかどうかを、患者さんと医師の間でよく話し合う必要があります。

手術後の生活の変化にも慎重な対応を

 また、手術後突然視力が回復して活動範囲が広がり、それに見合うだけの体力(心臓や手足の筋力)がないために心臓病や転倒をおこすなどの可能性も指摘されています。しかし、アメリカの研究では、白内障の手術により交通事故の可能性は減ることが統計学的に示されています。

 若年者での白内障は、その原因を明確にし、原因ごとに特有の治療が必要となります。

根拠(参考文献)

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  • (2)Polunin GS, Makarova IA, Bubnova IA.Efficacy of catalin eyed drops in age-related cataract agents. VestnOftalmol. 2010 Jan-Feb;126(1):36-9.
  • (3) 村田忠彦. 老人性白内障に対するカタリン点眼薬の効果に対する二重盲検法による臨床的研究. 日本眼科紀要. 1980;31:1217-1222.
  • (4) 戸張幾生, 桐沢長徳, 馬嶋慶直, 他. 初期老人性白内障に対するグルタチオン点眼薬の臨床効果―二重盲検試験による検討―. 眼科臨床医報. 1982;76:1779-1787.
  • (5) 河原哲夫, 尾羽沢大. 老人性白内障における長期的経過の定量的解析―グルタチオン点眼薬の臨床効果. あたらしい眼科. 1984;1:864-867.
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  • (11) Tobacmman JK, Zimmerman B, Lee P, et al. Visuel function imparirmants in relation to genter, age, and visual acuity in patients who undergo cataract surgery. Opthalmogy. 1998;105:1745-1750.
  • (12) Busbee BG, Brown MM, Brown GC, Sharma S. Incremental cost-effectiveness of initial cataract surgery. Ophthalmology 2002; 109:606.
  • (13)Agarwal A, Kumar DA. Cost-effectiveness of cataract surgery. Curr Opin Ophthalmol 2011; 22:15.
  • (14) Lansingh VC, Carter MJ, Martens M. Global cost-effectiveness of cataract surgery. Ophthalmology 2007; 114:1670.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)