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緑内障の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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緑内障とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 緑内障は眼圧が上がることによって視神経が圧迫され、障害されていく病気です。しだいに視野が狭くなり、進行を放置していると失明に至ります。眼圧が上がることによって瞳孔が開き、緑がかって見えることからこの名がついています。

 目の中には房水(血液の代わりに栄養を運ぶ機能)という液体があり、毛様体でつくられ、シュレム管から外に排出されます。この房水の圧力が眼圧と呼ばれるもので、目の形状を一定に保ち、正常に機能するための重要な役割を担っています。

 初期には暗点(見えない部分)ができても、両眼で補完するので自覚症状はあまりありません。その後暗点が広がって、視力が落ち、見えない部分がほとんどになります。急性の緑内障の場合は、眼圧が急に高まるため目の痛みや頭痛、吐き気などの症状をおこします。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 生まれつき房水を排出する流水路が未発達のため、房水がたまって眼圧が上昇する先天性緑内障(出生時から3、4歳までの緑内障の場合で、まれな病気)と、炎症やけがなどが原因となっておこる続発性緑内障、原因が特定できない原発性緑内障の3タイプに大きく分類されます。

 もっとも多いのが原発性緑内障で、これは眼圧上昇のメカニズムの違いによってさらに閉塞性隅角緑内障(隅角がふさがれ、房水がたまって急速に眼圧が上がる。短期間で失明する可能性がある)と、開放性隅角緑内障(隅角がふさがっていないが、徐々に眼圧が高くなり、長期間にわたってだんだん視力障害が進み、いずれ失明することがある)に分かれます。

 病気のタイプで治療方法は異なりますが、いずれもいちど障害された視神経を元に戻すことはできません。早期発見、早期治療が望まれます。

病気の特徴

 わが国では40歳以上の人で3.56パーセント、全国では200万人と推定されていますが、そのうちの80パーセントは自覚症状のない潜在的な緑内障患者であるとされています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
続発性緑内障 眼圧を上昇させる原因をとり除く ★4 副腎皮質ステロイド薬が原因となっている場合は、それが含まれる薬の点眼や服用の中止を検討することが必要です。これは信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(4)(5)
眼圧を下げる薬を点眼する ★5 病気の治療と同時に眼圧のコントロールが重要です。眼圧を下げる薬の効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(6)
症状に応じた手術を行う ★3 線維柱帯切開術(房水の通り道にある線維柱帯を開いて、房水の流れを促進する方法)、線維柱帯切除術(房水と白目の裏側の間にバイパスをつくって房水を流れやすく促進する方法)、毛様体破壊術(毛様体における房水の産生をおさえる方法)など、症状によっては必要であれば手術も行います。これらは臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(7)(8)
先天性緑内障 隅角切開術を行う ★3 房水の排出を妨げている隅角を切開して、房水を流れやすくする方法で、臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(1)(2)(3)
閉塞性隅角緑内障 原因を確定する検査を行う ★5 急激な充血、視力の低下、眼圧の上昇などの症状が現れたら、まず、原因を確定することが重要です。緑内障は原因によって治療法が異なるため、複数回にわたる検査の必要性は非常に信頼性の高い臨床研究によっても認められています。 根拠(9)(10)
眼圧を下げるための薬を用いる ★5 できるだけ早く眼圧を正常化する必要があることは非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。とくに急性緑内障発作の場合は、早急に、かつ適切に眼圧を下げる治療をしないと視神経に大きな障害が加わり、失明する危険性があります。 根拠(11)(12)
レーザー虹彩切開術を行う ★5 眼圧が正常化すれば、レーザー虹彩切開術を行って隅角をふさいでいる虹彩を切開して房水の通り道を広くします。この方法の効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(13)
手術後も眼圧を下げるための薬を用いる ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によって、虹彩切開術後も眼圧を正常に保つことが重要であることが確認されています。 根拠(14)
症状のないほうの目の手術も行う ★3 ドイツのメンツェスらは、23人の緑内障患者さんを対象に、予防的な措置から正常な他方の目にレーザーによる虹彩切開術を行ったところ、その後正常なほうの目で緑内障をおこした患者さんは一人もいなかったと報告しています。 根拠(15)
開放性隅角緑内障 眼圧を下げるための薬を用いる ★5 点眼薬によって眼圧を下げたほうが効果があるとする非常に信頼性の高い長期的な臨床研究があります。 根拠(16)~(18)
手術を検討する ★5 長期的な非常に信頼性の高い臨床研究から、薬で眼圧を正常化できずに視野狭窄が進行する場合はレーザー線維柱帯形成術、線維柱帯切開術、線維柱帯切除術などの手術を検討すべきとされています。 根拠(19)~(21)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

眼圧を下げるための点眼薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
サンピロ(塩酸ピロカルピン) ★5 これらはすべて非常に信頼性の高い臨床研究から眼圧を低下させる効果があるとされています。最近では、これらを組み合わせて使用することもあります。ただし、既往症によっては併用に注意を要する薬剤もあるので眼科専門医とよく相談することが必要です。 根拠(22)(23)(24)(25)
キサラタン(ラタノプロスト) ★5
ミケラン(塩酸カルテオロール) ★5
トルソプト(塩酸ドルゾラミド) ★5

点眼薬では十分に眼圧が下がらない場合

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ダイアモックス(アセタゾラミド) ★5 点眼薬だけでは十分に眼圧が下がらない場合には、内服の炭酸脱水酵素抑制薬を用います。アセタゾラミドの効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(26)(27)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

早急な診断と原因の特定が重要

 緑内障であることの診断と、その原因を明確にすることが、適切な治療を速やかに行えるかどうかを決定します。緑内障の初発症状は頭痛や腹痛である場合があり、当初はなかなか診断がつかないこともあります。

既往症によっては薬剤の副作用に注意

 副腎皮質ステロイド薬による続発性緑内障であれば、副腎皮質ステロイド薬を含む点眼薬や服用薬をただちに中止しなければなりません。また、原因はなんであれ、同時に、眼圧を効果的に下げることが証明されている点眼薬の一つを使用します。コリン作動薬〔サンピロ(塩酸ピロカルピン)〕、アドレナリン作動薬〔ピバレフリン(塩酸ジピベフリン)〕、β遮断薬〔ミケラン(塩酸カルテオロール)〕、プロスタグランディン誘導体〔キサラタン(ラタノプロスト)〕、炭酸脱水酵素抑制薬〔トルソプト(塩酸ドルゾラミド)〕などはどれも眼圧を低下させることが確認されています。

 したがって、個人個人のもっている病気のことも考えて副作用のおこる可能性のもっとも低い薬が選ばれます。β遮断薬では、点眼した薬が血液に吸収されて全身にまわり、徐脈や低血圧、心ブロック、気管支喘息、勃起障害、抑うつなどを引きおこすことがありますので、もともとそのような病気をもっている人には要注意です。

 点眼薬だけで眼圧が十分に下がらない場合には、内服の炭酸脱水酵素抑制薬〔ダイアモックス(アセタゾラミド)〕を併用することもあります。

薬で正常化しない場合は手術も

 薬を使っても眼圧が正常化しない場合や、眼圧が正常化しても視野狭窄が進行する場合には、レーザー光線を用いた虹彩切開術や線維柱帯切除術などの治療が適応となります。

 また、片方の目が緑内障の場合に、他方も緑内障になる可能性が高いことから、他方の目についても予防的にレーザーによる虹彩切開術を施行することが有効である可能性が高いことも報告されていますので、眼科専門医と相談するとよいでしょう。

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出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行