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はしかの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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はしかとは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 はしか(麻疹)ウイルスの感染によっておこる病気です。

 感染後約10日間の潜伏期間を経て、まず、38~39度の発熱、せき、鼻汁、目やに、結膜炎、紅斑などの症状が現れます。

 特徴的なのが、口内のほお粘膜にみられる、周囲に発赤を伴う青白い1~2ミリメートルのコプリック斑という発疹です。

 2~3日でいったん熱は下がりますが、その後再び発熱し、発疹がで始めます。発疹は、額や耳のうしろからで始め、1~2日で胸、顔、背中、腹、手足など全身に広がります。やがて、熱が下がり始めると、発疹はでた順序で消えていきます。

 大部分の患者さんの場合では発熱に対して解熱薬などを使うだけで、合併症もなく、約10日間で回復します。ただし、まれに激しい症状で発病し、高熱、けいれん、昏迷から昏睡に陥り、全身の皮膚や粘膜に出血斑が現れることがあります。これは、重症出血性麻疹といい、致命的です。

 また、細菌性の肺炎や脳炎など二次感染を併発して死亡する場合がまれにあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 はしかの原因ウイルスであるはしかウイルスは非常に感染力が強く、感染約1週間後から非常に強い感染力を示し、その状態は発疹がで始めて約5日間持続します。

 感染の経路は、感染者の鼻やのどからの分泌液の飛沫感染によるか、または、それに直接触れることで感染します。

 潜伏期間は、最初の症状が現れるまでが約10日間、発疹がでるまでが約14日間です。

病気の特徴

 秋冬に流行しやすく、年間約10~20万人の患者数が報告され、1~2歳の子どもに多くみられます。また、最近は成人の患者さんが増えています。成人の場合、子どもとは異なり、発疹はよりひどく、一面に広がりやすく、肝炎や気管支けいれんをおこしやすく、細菌感染を合併しやすいといった特徴があります。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
ワクチンによって予防する ★5 わが国の場合、「予防接種法」によって満1歳の誕生日後から7歳半までにワクチンを接種することが推奨されています。アメリカでは1歳と就学前の2回接種を実施し、発症予防の効果が確認されています。また、南アフリカでは、国家レベルのワクチン接種キャンペーンによって、はしかの発症を予防した報告もあります。ただし、妊娠している、免疫力が低下している、卵アレルギーがある場合にはワクチン接種ができません。 根拠(1)(2)
安静にする ★2 はしかになったら体をよく休めることは、専門家の意見や経験から支持されています。
水分を十分にとる ★2 発熱による脱水症状などをおこさないために水分を十分にとることは、専門家の意見や経験から支持されています。
空気が乾燥している場合は加湿する ★2 せきを抑えるために加湿することは、専門家の意見や経験から支持されています。
高熱のある場合、入浴は控える ★2 高熱がでているときには入浴しないことは、専門家の意見や経験から支持されています。
発熱に対して解熱薬を用いる ★2 はしかの患者さんを対象にした臨床研究は見あたりませんが、発熱自体に対する解熱薬の効果は十分実証されていると考えられます。合併症のある場合などに用います。
せきが激しければ鎮咳薬を用いる ★2 臨床研究によって効果が確認されていませんが、鎮咳薬を用いるというのは、専門家の意見や経験から支持されています。
肺炎や脳炎などが疑われる症状がみられたら適切な医療機関を受診する ★3 はしかは多くの場合、自然に治りますが、中耳炎、上気道炎、クループ症候群(特徴的なせきをおもな症状とし、呼吸困難を伴う病気)、肺炎、脳炎などの合併もおこることがありますので、症状が順調に改善せず、呼吸困難や意識障害がみられた場合は医療機関を受診し、治療を受けます。流行時に23パーセントの患者さんに合併症が出たという観察研究もあります。 根拠(3)~(5)
細菌の二次感染を考慮し、抗菌薬を用いる ★2 発疹が現れてから、3日以上発熱が続いたり一度下がっても再び発熱がみられる場合は、中耳炎、肺炎など細菌の二次感染を考慮し、適切な抗菌薬を用います。これは専門家の意見や経験から支持されています。
はしかの患者と接触して6日以内であればガンマグロブリンで発病を防ぐ ★5 はしかの患者さんと接触して72時間以内であればワクチン接種(妊娠中、免疫力が低下している、卵アレルギーがある場合は厳重に除く)が有効であることが、また6日以内であればガンマグロブリンによって発病を抑制できるということが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。ただ、ガンマグロブリンの効果は一時的なものなので、少なくとも5~6カ月たってから改めてワクチン接種することが推奨されています。 根拠(1)
ビタミンAを用いる ★5 作用のしくみはよくわかっていませんが、重症のはしかの2歳未満の子どもに対してビタミンAを用いることで、はしかが早く治ることを確認した非常に信頼性の高い臨床研究があります。そのため、ビタミンA欠乏症が多い地域では重症のはしかに対してビタミンAを用いることが推奨されています。南アフリカのハッセイらは、肺炎や下痢、クループ症候群などの合併症を有する189人のはしかの患者さん(平均生後10カ月)を、大量ビタミンA(パルミチン酸レチノール40万単位)服用群とプラセボ(偽薬)服用群に分けて経過を観察したところ、肺炎、下痢、クループ症候群の改善する速度、入院期間、死亡率すべてにおいて、ビタミンA服用群で明らかによい結果が得られたと報告しています。 根拠(6)~(8)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

鎮咳薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
メジコンシロップ(臭化水素酸デキストロメトルファン) ★2 せき止めを用いることは、専門家の意見や経験から支持されています。

解熱薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
アンヒバ/アルピニー/カロナール(アセトアミノフェン) ★2 はしかの患者さんを対象にした臨床研究は見あたりませんが、解熱薬の多くは非常に信頼性の高い臨床研究により体温を下げることが確認されています。合併症がみられる場合などに用います。
ユニプロン(イブプロフェン) ★2

二次感染に対する抗菌薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
メイアクト(セフジトレンピボキシル) ★2 中耳炎、肺炎など合併症があれば適切な抗菌薬を用います。これは専門家の意見や経験から支持されています。

発病を防ぐ

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ガンマグロブリン ★5 はしかの患者さんと接触して6日以内であればガンマグロブリンの静脈注射により発病を抑制できることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。ただ、ガンマグロブリンの効果は一時的なものなので、少なくとも5~6カ月たってから改めてワクチン接種することが推奨されています。 根拠(1)
主に使われる薬 評価 評価のポイント
ビタミンA(パルミチン酸レチノール) ★5 作用のしくみはわかっていませんが、重症のはしかの2歳未満の子どもに対してビタミンAを用いると、はしかが早く治ることを示した非常に信頼性の高い臨床研究があります。ビタミンA欠乏症が多い地域でははしかの患者さんにビタミンAを用いることが推奨されています。 根拠(6)~(8)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

予防接種を

 日本では「予防接種法」によって、一次予防として満1歳の誕生日後にワクチン接種することが推奨されています。また、感染が疑われた場合、はしかの発病を予防するためガンマグロブリンの使用なども、場合に応じて推奨されます。

 なんらかの理由で1~7歳半の間でワクチン接種をしていない場合、自己負担になりますが、予防接種が受けられます。ただし、妊娠していたり、免疫力が低下している、卵アレルギーがあるなどの場合はワクチン接種ができないので、接種前に医師とよく相談する必要があります。

安静と水分補給が中心

 はしかの治療の大部分はせきに対してせき止めの薬を使うというように、対症療法が中心となり、自宅で療養することで、自然によくなります。そこで、発熱、せき、紅斑などの症状が現れているときには、自宅で安静にして、水分を十分補給し、部屋を加湿して湿度を上げます。

 こういったケアをするだけで、通常であればほとんどの患者さんが問題なく回復していきます。

重症の場合は個別対応がベスト

 万が一、高熱、けいれん、出血斑などの合併症をおこした場合には、病院での適切な対応が必要になります。たとえば、中耳炎や肺炎を合併した場合には、抗菌薬が必要になります。重症出血性麻疹や免疫不全などの深刻な基礎疾患をもっている患者さんで、2歳未満の場合、大量のビタミンA(パルミチン酸レチノール)を用いることがあります。ただし、ビタミンAの大量使用は保険適応外です。

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根拠(参考文献)

  • (1) Watson JC, Hadler SC, Dykewicz CA, et al. Measles, mumps, and rubella: Vaccine use and strategies for elimination of measles, rubella, and congenital rubella syndrome and control of mumps: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 1998;47:1-57.
  • (2) Biellik R, Madema S, Taole A, et al. First 5 years of measles elimination in southern Africa: 1996-2000. Lancet. 2002;359:1564-1568.
  • (3) CDC. Measles United States, 1990. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 1991;40:369-372.
  • (4) Quiambao BP, Gatchalian SR, Halonen P, et al. Coinfection is common in measles-associated pneumonia. Pediatr Infect Dis J. 1998;17:89-93.
  • (5) Griffin DE, Bellini WJ. Measles virus. In: Fields' Virology, Fields BN, Knipe DM, Howley PM (Eds), Lippincott-Raven, Philadelphia, 1996. p1267.
  • (6) American Academy of Pediatrics. Measles. In: Report of the Committee on Infectious Diseases (24th Ed), Peter G, (Ed), Red Book, Elk Grove Village, IL: American Academy of Pediatrics; 1997. p344.
  • (7) Hussey GD, Klein M. A randomized, controlled trial of vitamin A in children with severe measles. N Engl J Med. 1990;323:160-164.
  • (8) D'Souza RM, D'Souza R. Vitamin A for treating measles in children (Cochrane Review). In: The Cochrane Library, Issue 2 2003. Oxford: Update Software.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行