水ぼうそうの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
水ぼうそうとは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
一般に水ぼうそうと呼ばれる水痘は、虫さされによく似た小さな丘疹が、最初ほおや顔にでます。発疹は徐々に全身に広がり、水ぶくれになり、激しいかゆみがあります。かさぶたができるまでに7~10日間、かさぶたがとれるまでには、さらに1、2日間かかります。かさぶたのあとはしばらく残りますが、やがてなくなります。
発疹がで始める1~2日前に発熱、全身のだるさ、食欲低下、頭痛、腹痛がみられることもあります。潜伏期間は10~20日間です。いちど感染すると、再びかかることはほとんどありません。
子どもの場合はふつう自然に回復し、軽い症状で終わりますが、成人や免疫力が低下した人では重症化し、まれに死亡する場合もあります。乳児でもかかります。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の感染によっておこる病気です。感染者のくしゃみやせきなどの飛沫感染や患部を触ることによる接触感染、空気感染でうつります。
はじめて水痘・帯状疱疹ウイルスに感染すると水痘を発病しますが、治った後にもウイルスが完全に消失せず神経根に残ってしまい、免疫力が低下すると増殖して帯状疱疹を発病します。
病気の特徴
2~8歳の子どもが多くかかる病気です。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
| 治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| ワクチン接種によって予防する | ★5 | 非常に信頼性の高い臨床研究によって、ワクチン接種で水痘にかかる率が下がるということが証明されています。 根拠(1)(2) | |
| 免疫力の低下した子どもには抗ウイルス薬を用いる | ★5 | 発病の初期に抗ウイルス薬を投与することによって、症状が軽くなったり、免疫力の低下した子どもが合併症をおこす確率を低下させたりすることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。しかし、症状が重い状態で使用しても効果があるかどうかは不明です。 根拠(3)~(6) | |
| 高熱の場合は解熱薬を用いる | ★2 | 水ぼうそうの患者さんを対象にした臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。 | |
| かゆみが激しい場合は薬で抑える | ★2 | 専門家の意見や経験から支持されています。 | |
| なるべくかかないようにして、清潔を保ち、患部の細菌感染を防ぐ | ★2 | 専門家の意見や経験から支持されています。 | |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
抗ウイルス薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| ゾビラックス(アクシロビル) | ★5 | 非常に信頼性の高い臨床研究によって、抗ウイルス薬の効果は確認されています。 根拠(7) | |
解熱薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| アンヒバ/アルピニー/カロナール(アセトアミノフェン) | ★2 | 水ぼうそうの患者さんを対象にした臨床研究は見あたりませんが、解熱薬を用いることは専門家の意見や経験から支持されています。子どもではアスピリンとライ症候群の関連が示されているので、アセトアミノフェンを用います。 | |
かゆみを抑える薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| フェノール亜鉛華リニメント | ★2 | フェノール亜鉛華リニメントを用いることは専門家の意見や経験から支持されています。 | |
予防のためのワクチン
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| 乾燥弱毒性水痘ワクチン | ★5 | 非常に信頼性の高い臨床研究によって、ワクチン接種で水痘にかかる率が下がることが確認されています。ワクチンは、十分な効果が得られるまでには使用後1カ月くらいの時間を要します。ただしワクチンによって抗体ができてしまえば、予防効果は長期にわたって続きます。 根拠(1)(2) | |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
ワクチン接種で確実に予防できる
この病気に対するワクチン接種の予防効果は、確実であることが非常に信頼性の高い臨床研究によって明らかになっています。一般的には重症化する病気ではありませんが、ごくまれにではあっても死亡する患者さんもいます。したがって、予防できることがわかっている以上、1歳を過ぎたら早めに必ず接種させるべきでしょう。また、子どものころに接種したかどうかわからない人でも接種は可能です。心配な人は受けておいたほうがよいでしょう。
免疫力が正常であれば合併症の予防を
免疫力が正常な子どもでは、ウイルス感染そのものに対する治療は特別行う必要はなく、合併症を予防するための治療を行います。特別な理由がなければ、毎日ぬるま湯に入って皮膚の衛生状態をよくする必要があります。皮膚をかきむしって二次感染がおこるのを防ぐために指の爪を短く切り、かゆみ止めのクリームを塗ることもお勧めします。
発熱した場合は、子どもではアスピリンとライ症候群の関連が示されていますので、アスピリンの使用は避けます。その代わりにアンヒバ/アルピニー/カロナール(アセトアミノフェン)を用います。
免疫力低下があれば抗ウイルス薬を
一方、免疫力の低下した子どもでは、抗ウイルス薬ゾビラックス(アクシロビル)あるいは抗水痘免疫グロブリンを投与します。これは低下した免疫力を補強して、ウイルスの増殖を防ぐためのもので、重い内臓合併症を予防する目的です。ただし、これらの薬によって、発疹の消失など皮膚症状の改善が早まることはないようです。
かさぶたになるまでは外出を控える
発疹のでている時期に、ウイルスの感染力はもっとも強くなっています。この間は、感染が広がらないように外出を控えたほうがよいでしょう。かさぶたができれば、感染力も弱まります。発疹の状態を確認しつつ、幼稚園・保育園や学校など、公共の場にでる時期を検討します。
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根拠(参考文献)
- (1) Kuter BJ, Weibel RE, Guess HA, et al. Oka/Merck varicella vaccine in healthy children: final report of a 2- year efficacy study and 7-year follow-up studies. Vaccine. 1991;9:643-647.
- (2) Vazquez M, LaRussa PS, Gershon AA, et al. The effectiveness of the varicella vaccine in clinical practice. N Engl J Med. 2001;344:955-960.
- (3) Dunkle LM, Arvin AM, Whitley RJ, et al. A controlled trial of acyclovir for chickenpox in normal children. N Engl J Med. 1991;325:1539-1544.
- (4) Prober CG, Kirk LE, Keeney RE. Acyclovir therapy of chickenpox in immunosuppressed children--a collaborative study. J Pediatr. 1982;101:622-625.
- (5) Nyerges G, Meszner Z, Gyarmati E, et al. Acyclovir prevents dissemination of varicella in immunocompromised children. J Infect Dis. 1988;157:309-313.
- (6) Klassen TP, Belseck EM, Wiebe N, et al. Acyclovir for treating varicella in otherwise healthy children and adolescents. Cochrane Database Syst Rev. 2002;(4):CD002980.
- (7) Zaia JA, Levin MJ, Preblud SR, et al. Evaluation of varicella-zoster immune globulin: protection of immunosuppressed children after household exposure to varicella. J Infect Dis. 1983;147:737-743.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行