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熱性けいれんの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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熱性けいれんとは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 子どもが38度以上の発熱に伴って、けいれん発作をおこすことを熱性けいれん(ひきつけ)といいます。

 明らかにけいれんの原因となる疾患があるものは含まれません。すなわち、脳炎や髄膜炎という中枢神経系の感染症や、てんかん、あるいは代謝異常によるものなどによるけいれんは熱性けいれんではありません。(1)

 熱性けいれんは、おもに6歳未満の乳幼児でおこることがあります。高熱がでた日に、突然、眼球が白目になって意識がなくなり、体や手足が硬くなり、がたがたとふるえはじめます。こうした症状は通常では長く続かず4分程度でおさまります。

 しかし、けいれんが5分以上続く場合、1日に2回以上おきた場合、体の一部(上半身、左右どちらかだけ)がけいれんをおこした場合、けいれん後、顔色が悪く意識を回復しない場合は、救急車で小児科医のいる病院に連れて行くことが必要です。また、はじめてけいれん発作をおこしたときも、必ず小児科を受診してください。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 熱性けいれんは、A型インフルエンザやアデノウイルスなどのウイルス感染症にともなって、熱が急激に高くなった場合におこることが多いと報告されています。(2)

病気の特徴

 日本では5歳までの乳幼児のうち、7パーセント(欧米では2~4パーセント)は熱性けいれんをおこしたことがあると報告されています。(3)

 とくに1歳~1歳半がもっともおこしやすい時期です。まれに、小学生になってからおこす子どももいます。一度、けいれんをおこした場合、2回目をおこす確率は3割程度と報告されています。9割以上の子どもが、成長とともに自然におこさなくなります。

 しかし、1歳未満でおこした場合、両親や兄弟姉妹に熱性けいれんをおこした人がいる場合、39度に至らない発熱でけいれんがおきた場合、もともとなんらかの神経症状がある場合などは、2度目のけいれんがおこりやすいとされています。また、けいれんの持続時間が10分を超える場合も、熱性けいれん以外の原因がないかの小児科医の評価や、注意深い経過観察が必要です。(4)~(6)

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
けいれん発作時の対応 顔を横に向けて、首のまわりなど衣服をゆるめる ★2 いずれも応急処置として、わが国の「熱性けいれん診療ガイドライン2015」(熱性けいれん診療ガイドライン策定委員会編集)が推奨している内容です。けいれんの持続時間が5分以上続く場合は、観察を続けながら、もう一人の大人に救急車を呼んでもらい、対応のできる小児科医のいる病院に搬送を依頼します。病院に到着したら、書きとめたけいれんの状況を小児科医に伝えます。 根拠(1)
口のなかには指や物は入れない ★2
現場にいる大人が一人の場合は、その場を離れずに人を呼ぶ ★4
あわてずに、けいれんのようすを細かく観察し、書きとめる(発熱した時間、発熱からけいれんまでの時間、けいれんの持続時間、顔色、目のようす、左右の手足の状態など) ★4
けいれんを抑える薬を使う ★4 けいれんが自然におさまらない場合(けいれん重責発作時)には、抑えるために抗けいれん薬を使用します。短時間でけいれんが自然におさまる場合は、抗けいれん薬を使わないこともあります。 根拠(1)
けいれんをおこしたことのある子どもの場合 予防的に発熱時に抗けいれん薬を使用する ★2 単純な熱性けいれんでは、予防的に抗けいれん薬を使用する必要はないと結論づけられています。抗けいれん薬の内服によるけいれんの予防効果は一部の研究で報告されていますが、副作用が強すぎるためと、熱性けいれんそのものが短時間で消失する症状であるためです。ただし、1歳未満の場合、発熱から1時間以内にけいれんをおこした場合、両親のどちらかが熱性けいれんやてんかんをおこしたことがある場合、けいれんをくり返す場合などは、予防的に抗けいれん薬を使うことがあります。また、発熱時に予防投薬しても、けいれんを抑えこめないような場合は、継続して抗けいれん薬を内服することがあります。 根拠(1)(7)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗けいれん薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
セルシン静注(ジアゼパム) ★4 けいれんが自然におさまらない場合には、ジアゼパムやミダゾラムの静脈注射を行います。静脈注射ができない場合は、肛門から入れるダイアップ坐剤を使用することがあります。ミダゾラムの点鼻薬は海外で使用されており、ダイアップ坐剤よりも有効であることが報告されていますが、日本では発売されていません。(8)ロラゼパムの静脈注射の有効性も報告されていますが、2015年現在、日本では静脈注射剤が発売されていません。(9)(10)短時間でけいれんが自然におさまる場合は、これらの抗けいれん薬を使わないこともあります。原因が熱性けいれんで、かつ医療機関を受診した段階でけいれんがおさまっていた場合、次のけいれんを予防するためにダイアップ坐剤(ジアゼパム)を使うことは、効果が実証されておらず、副作用の観点から必ずしも推奨されていません。(1)(7) 根拠(1)
ミダフレッサ静注(ミダゾラム) ★4
ダイアップ坐剤(ジアゼパム) ★4
ミダゾラム点鼻薬(本邦未発売) ★0
ロラゼパム静注(本邦未発売) ★0

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

熱性けいれんをおこした場合の応急手当

 吐いた物が気管につまらないよう顔を横に向けて、首のまわりなど衣服をゆるめます。口のなかには指や物は入れないでください。けいれんが5分以上続く場合は、観察を続けながら、もう一人の人に救急車を呼んでもらいます。

はじめてのけいれんでは、小児科医を受診する

 はじめてけいれんをおこした場合は、髄膜炎や脳炎などの深刻な感染症などによるものでないかどうかを診断してもらうため、必ず小児科医を受診することが必要です。

抗けいれん薬の使用

 けいれんが自然におさまらない場合(けいれん重責発作時)などには、抗けいれん薬を使用します。なお、再度熱性けいれんをおこすリスクが高いと思われる場合は、予防的に発熱時に抗けいれん薬を使うこともあります。

成長すれば、自然に治ることが多い

 熱性けいれんは数分以内でおさまるものが多く、9割以上が、成長すれば自然に治ります。熱性けいれんをおこしたことのある子どもに対しても、発熱のリスクを下げるという意味で、予防接種も積極的に受けることが推奨されています。熱性けいれんをおこしたことを小児科医に伝えて、予防接種のプランを立てましょう。

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根拠(参考文献)

  • (1)熱性けいれん診療ガイドライン策定委員会編集, 日本小児神経学会監修.熱性けいれん診療ガイドライン2015 . 診断と治療社. 2015. 東京
  • (2)Chiu SS, Tse CY, Lau YL, Peiris M.Influenza A infection is an important cause of febrile seizures.Pediatrics. 2001 ;108:E63.
  • (3)Tsuboi T. Epidemiology of febrile and afebrile convulsions in children in Japan. Nerurology 1984:34:175-181.
  • (4)Nakayama J, Yamamoto N, Hamano K,et al.Linkage and association of febrile seizures to the IMPA2 gene on human chromosome 18. Neurology. 2004 ;63:1803-7.
  • (5)Sugawara T, Mazaki-Miyazaki E, et al.Nav1.1 mutations cause febrile seizures associated with afebrile partial seizures. Neurology. 2001 ;57:703-705.
  • (6)Hesdorffer DC, Benn EK, Bagiella E, et al. Distribution of febrile seizure duration and associations with development. Ann Neurol 2011; 70:93.
  • (7)Hirabayashi Y, Okumura A, Kondo T, et al.Efficacy of a diazepam suppository at preventing febrile seizure recurrence during a single febrile illness.Brain Dev. 2009;31:414-418.
  • (8)McIntyre J, Robertson S, Norris E, et al.Safety and efficacy of buccal midazolam versus rectal diazepam for emergency treatment of seizures in children: a randomised controlled trial.Lancet. 2005;366:205-210.
  • (9)Appleton R, Macleod S, Martland T.Drug management for acute tonic-clonic convulsions including convulsive status epilepticus in children.Cochrane Database Syst Rev. 2008 Jul 16;(3):CD001905.
  • (10)Chamberlain JM, Okada P, Holsti M, et al. Pediatric Emergency Care Applied Research NetworkLorazepam vs diazepam for pediatric status epilepticus: a randomized clinical trial.JAMA. 2014;311:1652-1660.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)