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熱性けいれんの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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熱性けいれんとは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 子どもが38度以上の発熱に伴って、けいれん発作をおこすことを熱性けいれん(ひきつけ)といいます。脳炎や髄膜炎という中枢神経系の感染症によるもの、あるいは代謝異常によるものなど、明らかに原因となる病気がわかっているものは含まれません。

 突然、眼球が白目になって意識がなくなり、体や手足が硬くなり、がたがたとふるえはじめるといった症状がよくみられます。こうした症状は通常では長く続かず5分以内にはおさまります。しかし、けいれんが数分間でおさまらない(10分以上続く)場合は救急車で病院に連れて行くことが必要です。

 けいれんは周囲の人間にとっては非常に驚かされる症状ですが、特別な処置をしなくても、いずれ症状はおさまるものです。短時間のことですが、できれば、そのようすを細かく観察しておき(顔色、目のようす、左右の手足の状態、発作時間、体温など)、医師の受診が必要になったら報告してください。

 このようなけいれんはほとんどが心配のいらないものですが、はじめておきた場合、1日に2回以上おきた場合、体の一部(上半身、左右どちらかだけ)がけいれんをおこした場合、けいれん後、顔色が悪く意識を回復しない場合などはすぐに病院で診察を受けて原因を確認すべきです。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 熱性けいれんは熱が急激に高くなり38度以上になった場合におこります。たとえば高熱が続いている場合に解熱薬を服用し、いったん熱が下がり、その解熱薬の効果が切れた場合などにおこりやすいともいわれています。子どもの脳は、発熱によって強い電流を発生させることがあり、それによって筋肉が勝手に動いたり、意識がなくなったりする症状がおこると考えられています。

 成長することで発熱に対する抵抗力ができると、けいれんをおこすことはなくなります。

病気の特徴

 5歳までの乳幼児のうち、7~10パーセントは熱性けいれんの経験があるとされ、比較的よくみられる症状です。また、いちどけいれんをおこした子どもが再度おこす確率は25~50パーセントといわれ、およそ半分以上はいちどきりで終わるものです。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
顔を横に向けて、首のまわりなど衣服をゆるめる ★2 信頼性の高い臨床研究によってはっきりと確認されたものではありませんが、いずれもわが国の「熱性けいれんの指導ガイドライン」(熱性けいれん懇親会指導ガイドライン改訂委員会作成)が推奨している内容です。 根拠(1)
口のなかには指や物は入れない ★2
けいれんの持続時間を測る(10分以上続く場合は救急車を呼ぶ) ★2
熱性けいれんをおこしたことのある子どもが発熱した場合は、体温をこまめに測り、早めに体を冷やす ★2 信頼性の高い臨床研究によってはっきりと確認されたものではありませんが、いずれもわが国の「熱性けいれんの指導ガイドライン」(熱性けいれん懇親会指導ガイドライン改訂委員会作成)が推奨している内容です。 根拠(1)
けいれんの持続時間が長い場合、24時間以内に複数回のけいれんをおこす場合などは次の発熱に際して抗けいれん薬を用いる ★2

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

けいれんを抑える薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ダイアップ(ジアゼパム) ★2 ジアゼパムの予防効果については、非常に信頼性の高い臨床研究が二つあり、一つでは効果が認められるとしていますが、一方の研究ではプラセボ(偽薬)と結果は変わらず、効果は期待できないとしています。いちど熱性けいれんをおこした子どもに対し、けいれんを予防するために次回からの発熱に際してジアゼパムを用いることは、わが国ではごく一般的ですが、欧米ではそれほどでもありません。フェニトインについては、非常に信頼性の高い臨床研究でプラセボ(偽薬)と結果は変わらず、効果は期待できないとされています。フェノバルビタールもバルプロ酸ナトリウムも、非常に信頼性の高い臨床研究によると、効果は認められていますが、副作用のおこる頻度の高さを考えると、予防的に用いることは勧められません。 根拠(2)(3)
アレビアチン/ヒダントール/フェニトイン(フェニトイン) ★1
フェノバール(フェノバルビタール) ★1
デパケン(バルプロ酸ナトリウム) ★1

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

熱性けいれんをおこした場合の応急手当

 熱性けいれんをおこした場合の応急手当は、

 ①吐いた物が気管につまらないよう顔を横に向けて、首のまわりなど衣服をゆるめる。

 ②口のなかには指や物は入れない。

 ③けいれんの持続時間を測り、10分以上続く場合は救急車を呼ぶ。

 ④発熱時には体温をこまめに測り、早めに体を冷やす。

 ⑤けいれんの持続時間が長い場合や24時間以内に複数回のけいれんをおこす場合などは抗けいれん薬を用いる。

 などです。

 とくにけいれんをおこした場合に、舌をかまないようにと、よく口のなかに指や物を入れるといったことが素人的に行われていますが、かえって口のなかに傷をつけることになるので、口のなかにはなにも入れないようにしましょう。

はじめてのけいれんでは、小児科医を受診する

 はじめてけいれんをおこした場合は、髄膜炎や脳炎などの深刻な感染症などによるものでないかどうかを診断してもらうため、必ず小児科医を受診することが必要です。

抗けいれん薬の効果

 熱性けいれんの再発を予防するために、発熱したときに抗けいれん薬のダイアップ(ジアゼパム)を予防的に使うかどうかは異論のあるところです。いずれも非常に信頼性の高い臨床研究によって、効果があるとする結果と、ないとする結果が報告されています。

 この薬を予防的に用いることは欧米ではわが国ほど一般的には行われていません。臨床研究の結果や熱性けいれん自体の病気の経過(成長とともにおこらなくなる)を考慮すると、もう少し慎重に使用すべきと考えられます。

 また、ほかの抗けいれん薬についての予防効果は、いままでのところ得られていません。

 したがって、抗けいれん薬は、「けいれんの持続時間が長い場合」「24時間以内に複数回のけいれんをおこす」という特別な場合に限ったほうがよいと思われます。

成長すれば、自然に治る

 熱性けいれんは数分以内でおさまるものが多く、ほとんどが良性のタイプであり、回数も多くありません。成長すれば自然に治る病気です。

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根拠(参考文献)

  • (1) 熱性けいれんの指導ガイドライン;熱性けいれん懇親会指導ガイドライン改訂委員会,1996.
  • (2) Rantala H, Tarkka R, Uhari M. A meta-analytic review of the preventive treatment of recurrences of febrile seizures. J Pediatr. 1997;131:922-925.
  • (3) Rosman NP, Colton T, Labazzo J, et al. A controlled trial of diazepam administered during febrile illnesses to prevent recurrence of febrile. N Engl J Med. 1993;329:79-84.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行