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多発性骨髄腫の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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多発性骨髄腫とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 多発性骨髄腫は、白血球の一つである形質細胞が、血液をつくる場所である骨の中(骨髄)で、異常なスピードで急激に増殖する血液の悪性の病気です。症状がなく、たんぱく尿、総たんぱく質に比べてアルブミンの値が低いといった検査データから、健康診断で発見されることがあります。腰痛、骨折、腎不全、貧血や感染の症状で発症することもあります。このため、患者さんの多くが最初に整形外科や腎臓内科を受診する病気でもあります。

 骨髄の中で異常増殖した形質細胞が骨を壊し、腰、背中、肋骨など骨の痛みや骨折を引きおこします。痛みが強く歩行できなくなって、ベッドから起きることができなくなる患者さんもいます。溶けた骨からカルシウムが血液中にでるので、高カルシウム血症をひきおこし、意識状態が悪くなることがあります。

 異常増殖した形質細胞がつくる抗体であるたんぱくが急激に血中に増加し、尿にも排泄されるため、尿たんぱく・腎不全がみられます。原因不明の腎不全として治療が行われた後に診断されることもあります。病状が進行すると、骨髄が異常な形質細胞だけでいっぱいになってしまうことから、ほかの血液細胞がつくれなくなります。このため、赤血球がたりない状態である貧血になったり、好中球やリンパ球がつくれないことにより白血球減少をきたし、感染に弱くなったりしります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 異常増殖し、がん化した形質細胞(骨髄腫細胞)には、さまざまな遺伝子異常・染色体異常が生じていることが確認されています。ただし、なぜ、そうした異常が生じるかははっきりしていません。しかし、放射線の被ばくや化学薬品(殺虫剤など)の影響、ダイオキシンの曝露がかかわっているのではないかと考えられています。

病気の特徴

 2010年の罹患者数は6,356人と推測されており、2013年の死亡者数は4,121人でした。男女はほぼ同数ですが、男性は70代が多いのに対し、女性は75歳以上の高齢者の多いことが特徴です。(1)

 2000年以降、治療効果のある分子標的療法薬や免疫調整薬(サリドマイド関連薬)が導入されたことにより、根治は難しいものの生命予後が改善しています。高齢の患者さんが多いため、生命予後のみならず、治療を続けながら送る日常生活や社会生活の質を改善することも治療目標になってきています。(2)

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
治療目標を明確にし、治療法を検討する ★3 血液検査、尿検査、骨髄の検査、遺伝子検査、各種画像検査により診断がなされた場合、患者さんの年齢、腎機能や骨の状態と症状、骨髄腫細胞の特性(染色体異常などを含む悪性度)、病気の進行状態を考慮して、治療目標を明確にします。無症状の場合、経過観察を行う方法と、染色体異常などの悪性細胞の性質によって病気の進行が速いと推測される場合に早期に治療を行う方法があります。ただし、どちらがよいのかについては議論が分かれています。 根拠(3)~(6)(7)
自家末梢血幹細胞移植療法を行う ★3 60歳未満の患者さんで、早期の社会復帰をめざす場合は、自家末梢血幹細胞移植療法による予後の改善が報告されています。しかし、いつ骨髄移植を行うのがよいのかについては結論がでていません。自家末梢血幹細胞移植療法は、まず、化学療法で悪性細胞をおさえ込みます。その後、抗がん薬で一時的に骨髄における血球をつくる働きを抑制し、そこから正常の血球細胞が再び増殖を始めるときに、血液中に幹細胞と呼ばれるすべての血球に分化できる細胞がこぼれでてくるタイミングを見計らいます。このタイミングで、血液を一時的に体の外に出して、この幹細胞を集め、それ以外の血液を体に戻します。再度、体が耐えられるぎりぎりの量の抗がん薬や放射線を体に投与し、とっておいた患者さん自身の幹細胞を血液中に戻します。自分自身の幹細胞を利用することで、血球をつくれなくなるという副作用を克服し、通常では利用できない量の抗がん薬や放射線を使うことができます。副作用を考慮して放射線照射をしない方法もあります。これらにより、悪性細胞をより少なくすることが可能になります。 根拠(8)
化学療法を行う ★5 化学療法として、抗がん薬(メルファランや副腎皮質ステロイド薬など)、分子標的療法薬(注射薬:ボルテゾミブ)、免疫調整薬(サリドマイド関連薬 内服薬:サリドマイド、レナリドマイド)を、1剤もしくは組み合わせた治療があります。患者さんの年齢や状態、病気の進行度、悪性細胞の特性、および治療法によって、治療効果についての研究結果が公表されています。化学療法では、出血しやすくなる、感染に弱くなる、間質性肺炎や下肢のしびれ、筋力低下等の末梢神経障害等、全身におよぶ副作用があるので血液内科専門医による厳重な管理が必要です。 根拠(10)~(14)
痛みの軽減や歩行機能の改善などを行う ★3 高齢の患者さんでは、生命予後の改善だけでなく、痛みを軽減して歩行機能を改善させるなど、生活の質の向上が治療の目標になります。 根拠(9)
放射線療法を併用する ★4 骨の痛みの改善や、腫瘤病変による神経圧迫の解除、また、骨髄移植時の全照射として併用されます。また、孤立性形質細胞腫など、腫瘍が一固まりになっている場合に根治療法として用いられることもあります。 根拠(3)(4)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

 患者さんの全身状態、骨髄腫細胞の特性、自家末梢血幹細胞移植療法を予定するか否かなどにより使用する薬剤を選択します。患者さんの状況および、各々の治療法によって、病気が進行しなかった期間と生命予後の改善状況の結果が公表されています。以下は、化学療法の一部です。病気がコントロールできた状態になっても、再発をおさえるため、治療を継続する必要があります。

MPB療法

主に使われる薬 評価 評価のポイント
アルケラン(メルファラン)+プレドニン(プレドニゾロン)+ベルケイド(ボルテゾミブ) ★5 自家末梢血幹細胞移植療法を行わない場合の初回治療として行います。ベルケイドを加えた場合、使用しない場合と比較して、予後が改善したと報告されています。 根拠(10)

BD療法

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ベルケイド(ボルテゾミブ)+デカドロン(デキサメタゾン) ★5 自家末梢血幹細胞移植療法を行う場合の初回治療として行います。抗がん薬のみの治療と比較して、病勢を押さえ込む率が高く、その期間もより長いことが報告されています。 根拠(11)

LD療法

主に使われる薬 評価 評価のポイント
レブラミド(レナリドミド水和物)+低量デキサメタゾン ★5 移植の予定の有無に関わらず初回寛解導入および再発治療に用いられます。 根拠(12)(13)

MPLまたはMPT療法ほか

主に使われる薬 評価 評価のポイント
アルケラン(メルファラン)+プレドニン(プレドニゾロン)+レブラミド(レナリドミド)またはサレドカプセル(サリドマイド) ★5 自家末梢血幹細胞移植療法を行わない場合の初回治療として行います。サリドマイドを追加した場合、しなかった場合と比較して、予後の改善が報告されています。 根拠(14)

維持療法薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
レブラミド(レナリドミド) ★5 病勢がいったん安定した状態が得られた場合、その状態を維持する目的で行われる化学療法が維持療法です。 根拠(15)~(17)
サレドカプセル(サリドマイド)ほか  ★5

骨病変に対する治療薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ゾメタ(ゾレドロン酸水和物) ★4 骨の病変に対して骨痛を改善します。ゾレドロン酸水和物については、生命予後の改善が報告されています。このため、化学療法と併用されます。 根拠(18)(19)
ランマーク(デノスマブ)ほか ★3

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

各種検査で診断を行い、患者さんごとに治療目標を明確にする

 血液検査、尿検査、骨髄の検査、遺伝子検査、各種画像検査など詳細な検査を行い、多発性骨髄腫と診断されたなら、患者さんの年齢や全身状態、症状、骨髄腫細胞の特性などから、まず、患者さんごとに治療の目標を検討します。

 まだ症状が出ていない患者さんに対してはすぐに治療を開始せず、経過をみる場合と、骨髄腫細胞の性格により進行が速いと予測されれば早期に治療を始めることもあります。

60歳未満の患者さんで、早期の社会復帰を目指す場合には、自家末梢血幹細胞移植療法の適応を考慮します。この治療法では、通常では利用できない量の抗がん薬や放射線を使うことができるため、より高い悪性細胞抑制効果が期待できます。

化学療法では、抗がん薬、分子標的療法薬、免疫調整薬等をくみあわせて行う

 自家末梢血幹細胞移植療法を行う場合もそうでない場合も、最初に行われるのは化学療法です。患者さんの全身状態などをはじめ、自家末梢血幹細胞移植療法を行うかどうかといったことを考慮し、抗がん薬(メルファランや副腎皮質ステロイド薬など)、分子標的療法薬(注射薬:ボルテゾミブ)、免疫調整薬(サリドマイド関連薬 内服薬:サリドマイド、レナリドマイド)を、1剤もしくは何剤かを組み合わせて治療を行います。

高齢の患者さんでは生活の質の向上が目標に

 高齢の患者さんでは、がん細胞の抑制だけでなく、痛みを緩和し歩行改善を目指すなど生活の質の向上を目指す治療も欠かせません。そうした目的で、放射線治療が併用されることもあります。

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根拠(参考文献)

  • (1)国立がん研究センターがん対策情報センター. 罹患データ (全国推計値). http://ganjoho.jp/professional/statistics/statistics.html#05 アクセス日2015年1月19日
  • (2)Kumar SK, Rajkumar SV, Dispenzieri A, et al.Improved survival in multiple myeloma and the impact of novel therapies. Blood. 2008;111:2516-2520.
  • (3)日本骨髄腫研究会. 多発性骨髄腫の診療指針, 第2版. 文光堂. 2008.
  • (4)日本血液学会. 造血器腫瘍診療ガイドライン2013年版. 金原出版. 2013.
  • (5)International Myeloma Foundation.ホームページ (欧米のガイドライン). http://myeloma.org/pdfs/CR2011-Eng_b1.pdf アクセス日2015年1月19日
  • (6)National Comprehensive Cancer Network. ホームページ(NCCN:全米がんセンターガイドライン策定組織)NCCNのガイドライン.MultipleMyeloma. 2015;Ver.2. http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/myeloma.pdfアクセス日2015年1月23日
  • (7)Agarwal A, Ghobrial IM.Monoclonal gammopathy of undetermined significance and smoldering multiple myeloma: a review of the current understanding of epidemiology, biology, risk stratification, and management of myeloma precursor disease. Clin Cancer Res. 2013;19:985-994.
  • (8)Barlogie B, Kyle RA, Anderson KC, et al.Standard chemotherapy compared with high-dose chemoradiotherapy for multiple myeloma: final results of phase III US Intergroup Trial S9321. ClinOncol. 2006;24:929-936.
  • (9)Palumbo A, Rajkumar SV, San Miguel JF, et al.International Myeloma Working Group consensus statement for the management, treatment, and supportive care of patients with myeloma not eligible for standard autologous stem-cell transplantation.J ClinOncol. 2014;32:587-600.
  • (10)San Miguel JF, Schlag R, KhuagevaNK,et al.Persistent overall survival benefit and no increased risk of second malignancies with bortezomib-melphalan-prednisone versus melphalan-prednisone in patients with previously untreated multiple myeloma. J ClinOncol. 2013;31:448-455.
  • (11)Harousseau JL, Attal M, Avet-Loiseau H, et al.Bortezomib plus dexamethasone is superior to vincristine plus doxorubicin plus dexamethasone as induction treatment prior to autologous stem-cell transplantation in newly diagnosed multiple myeloma: results of the IFM 2005-01 phase III trial. J ClinOncol. 2010;28:4621-4629.
  • (12)Rajkumar SV, Jacobus S, Callander NS, et al; Eastern Cooperative Oncology Group.Lenalidomide plus high-dose dexamethasone versus lenalidomide plus low-dose dexamethasone as initial therapy for newly diagnosed multiple myeloma: an open-label randomised controlled trial. Lancet Oncol. 2010;11:29-37.
  • (13)Benboubker L, Dimopoulos MA, Dispenzieri A, et al. FIRST Trial Team.Lenalidomide and dexamethasone in transplant-ineligible patients with myeloma. N Engl J Med. 2014;371:906-917.
  • (14)Kapoor P, Rajkumar SV, Dispenzieri A, et al.Melphalan and prednisone versus melphalan, prednisone and thalidomide for elderly and/or transplant ineligible patients with multiple myeloma: a meta-analysis. Leukemia. 2011;25:689-696.
  • (15)Palumbo A, Hajek R, Delforge M. et al. Continuous lenalidomide treatment for newly diagnosed multiple myeloma. N Engl J Med. 2012;366:1759-1769.
  • (16)McCarthy PL, Owzar K, Hofmeister CC, et al. Lenalidomide after stem-cell transplantation for multiple myeloma. N Engl J Med. 2012;366:1770-1781.
  • (17)Attal M, Lauwers-Cances V, Marit G,et al. Lenalidomide maintenance after stem-cell transplantation for multiple myeloma. N Engl J Med. 2012;366:1782-1791.
  • (18)Mhaskar R, Redzepovic J, Wheatley K, et al.Bisphosphonates in multiple myeloma: a network meta-analysis. Cochrane Database Syst Rev. 2012;16CD003188.
  • (19)Henry DH, Costa L, Goldwasser F, et al.Randomized, double-blind study of denosumab versus zoledronic acid in the treatment of bone metastases in patients with advanced cancer (excluding breast and prostate cancer) or multiple myeloma. J ClinOncol. 2011;29:1125-1132.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)