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多発性骨髄腫の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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多発性骨髄腫とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 血液のなかに含まれているさまざまな成分の一つに白血球があります。白血球のなかには免疫の働きをしているグロブリンというたんぱく質があり、それをつくっているのが骨髄にある形質細胞です。多発性骨髄腫は、この形質細胞ががん化して異常に増殖することによっておこる病気です。

 形質細胞は骨の中心にあたる骨髄にあるため、がん化すると、外周の部分を破壊しながら増え続けます。また、異常に増えた形質細胞が大量のたんぱく質をつくり血液に粘りがでてくるようになります。病気になっても最初のころはとくに症状はなく、数年間はゆるやかに進行します。

 もっとも多い症状は腰、背中、肋骨など骨の痛みです。安静にしているとあまり痛みませんが、動くと痛みがでます。痛む場所が特定の場所でなく、移動するのも特徴です。

 また貧血になるため、全身の倦怠感、めまい、頭痛、動悸などもおきてきます。感染症にかかりやすくなり発熱することもあります。血小板も減少するため、皮下出血、鼻血、歯ぐきからの出血などがみられます。そのほか、食欲不振、体重減少などが現れます。

 形質細胞が異常に増殖していくと、頭蓋骨、椎骨、肋骨、骨盤骨などの骨を溶かしていきます。椎骨が侵された場合には神経が圧迫されてしびれや麻痺がおこります。

 また骨の破壊に伴うカルシウム過剰により、しばしば腎不全がみられます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 多発性骨髄腫は急性骨髄性白血病・慢性骨髄性白血病と似ている病気です。白血病になると好中球が異常に増えるように、腫瘍性形質細胞が増殖し、その産物として異常グロブリンが血液中に出現します。

 発症するおもな要因としては、放射線被曝があげられます。原爆で被爆された人や放射線作業にあたる人に多発性骨髄腫が多いのはこのためです。重金属(砒素、鉛など)を多量に摂取すると発症することもあります。また、この病気は高齢者に多くみられますが、これは加齢に伴う免疫監視機構の機能不全が要因なのではないかと考えられています。

病気の特徴

 世界的にみるとアフリカ系アメリカ人に比較的多くみられます。わが国では人口10万人あたり3~4人程度ですが、増加傾向にあります。発症の年齢は65歳~70歳の年齢層がもっとも多く、また、男性が女性より多く約60パーセントを占めます。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
化学療法を行う ★5 現時点での多発性骨髄腫の治療の中心は化学療法で、通常、この療法が最初に行われます。MP療法とVAD療法があり、いずれも2種以上の薬を併用するものです。これは、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(2)
60歳以下であれば、自家末梢血幹細胞移植療法もしくは同種骨髄移植を行う ★4 多発性骨髄腫における骨髄移植では、治療に関連した合併症が多いことが知られています。そのような移植による危険性を主治医と十分に話し合い、納得したうえで決断する必要があります。60歳以下であれば移植を行うことが勧められています。これは信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されている治療法です。 根拠(1)
寛解維持療法としてインターフェロンαを用いる ★5 インターフェロンαは、多発性骨髄腫の維持療法として非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。しかし、効果の割に費用がかかること、いろいろな副作用がおこることが多く、あらかじめ主治医と十分に話し合う必要があります。 根拠(4)
補助療法として放射線療法を行う ★2 自家末梢血幹細胞移植を併用し、さらに抗がん薬を多量に用いる化学療法を行う際に、全身に対する放射線療法を行うことがあります。しかしながら、治療効果については、臨床研究の結果が必ずしも明確に示されているわけではありません。 根拠(5)
サリドマイドを用いる ★2 難治性の多発性骨髄腫に対して、サリドマイドが有効であったという報告はありますが、信頼性の高い臨床研究というわけではありません。また、わが国では多発性骨髄腫の治療薬としては承認されていません。 根拠(6)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

インターフェロン療法

主に使われる薬 評価 評価のポイント
インターフェロン ★5 非常に信頼性の高い研究により、インターフェロン療法は多発性骨髄腫の維持療法として有効なことが確認されています。しかし、費用や副作用の点であらかじめ主治医と十分に話し合う必要があります。 根拠(4)

化学療法

主に使われる薬 評価 評価のポイント
MP療法(多剤併用療法) 根拠 (2) アルケラン(メルファラン)+プレドニン(プレドニゾロン) ★5 MP療法はメルファランとプレドニゾロンを同時に用いる多剤併用療法です。この併用療法を行うことにより、患者さんの生存期間が延びることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(2)
VAD療法(多剤併用療法) 根拠 (3) オンコビン(硫酸ビンクリスチン)+アドリアシン(塩酸ドキソルビシン)+デカドロン/コルソン(デキサメタゾン) ★5 VAD療法は硫酸ビンクリスチン、塩酸ドキソルビシン、デキサメタゾンを同時に用いる多剤併用療法です。多量の抗がん薬を用いる化学療法として行われることがあります。腎不全の患者さんや効果の速さを期待する際に適当な化学療法であり、有効性は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(3)
主に使われる薬 評価 評価のポイント
サリドマイド ★2 サリドマイドの有効性を示唆する臨床研究があります。しかし、日本ではまだ保険適応されていない薬であり、使用に関しては慎重に検討する必要があります。 根拠(6)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

基本となるのが化学療法

 正確な検査をして多発性骨髄腫の進行状況をみます。初期の場合はすぐに治療することなくようすをみていき、ある程度進行した場合、治療に入ることになります。

 若い患者さんであれば、造血幹細胞移植や自家末梢血幹細胞移植療法、同種骨髄移植も考えられますが、まず行うべき治療は化学療法です。

MP療法かVAD療法

 もっとも頻繁に行われるのはアルケラン(メルファラン)とプレドニン(プレドニゾロン)を同時に使用するMP療法です。

 患者さんの状態によっては、オンコビン(硫酸ビンクリスチン)とアドリアシン(塩酸ドキソルビシン)、デカドロン/コルソン(デキサメタゾン)からなるVAD療法が行われることもあります。

 そして、1、2年はこれら薬剤による、現状を維持する治療となります。

インターフェロンによる治療は医師と要相談

 もう一つの維持療法としてインターフェロンを用いる療法があります。しかし、この治療は副作用がおこる頻度も高く、あまり強くは勧められていません。

 造血幹細胞移植や自家末梢血幹細胞移植療法、同種骨髄移植と同様、インターフェロンについては治療に伴う合併症も多く、血液内科医とよく相談する必要があります。

海外でサリドマイドが有効との報告

 これらの治療ではうまく治らない患者さんには、サリドマイドという薬剤が有効であるという報告が海外の臨床研究に基づいてなされています。しかし、わが国では、多発性骨髄腫の治療としては、まだ承認されていません。

高カルシウム血症の予防も必要

 また、合併症への対応も必要となります。

 骨の破壊に伴って合併する高カルシウム血症に対するカルシトニン製剤(骨吸収抑制薬)、ビスホスホネート系薬(骨吸収抑制薬)、治療に伴う高尿酸血症による腎障害予防のためのアロプリノール(尿酸産生阻害薬)などの使用も行われています。

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根拠(参考文献)

  • (1) Gahrton G. Allogeneic bone marrow transplantation in multiple myeloma. Br J Haematol. 1996;92:251-254.
  • (2) Combination chemotherapy versus melphalan plus prednisone as treatment for multiple myeloma: an overview of 6,633 patients from 27 randomized trials. Myeloma Trialists' Collaborative Group. J Clin Oncol. 1998;16:3832-3842.
  • (3) Samson D, Gaminara E, Newland A, et al. Infusion of vincristine and doxorubicin with oral dexamethasone as first-line therapy for multiple myeloma. Lancet. 1989;2:882-885.
  • (4) Interferon as therapy for multiple myeloma: an individual patient data overview of 24 randomized trials and 4012 patients. Br J Haematol. 2001;113:1020-1034.
  • (5) Lokhorst HM, Liebowitz D. Adoptive T-cell therapy. Semin Hematol. 1999;36(1 Suppl 3):26-29.
  • (6) Johnston RE, Abdalla SH. Thalidomide in low doses is effective for the treatment of resistant or relapsed multiple myeloma and for plasma cell leukaemia. Leuk Lymphoma. 2002;43:351-354.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行