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悪性リンパ腫の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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悪性リンパ腫とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 悪性リンパ腫は、リンパ球が異常に増殖し、組織の正常の機能を脅かす病気です。頸部、わきの下、足の付け根等のリンパ節が大きくなる節性リンパ腫が全体の半分、残りの半分は体の臓器の中にあるリンパ球の異常な増殖で発症します。リンパ球は体のどの部分にもあるため、どの臓器からも発症し得る病気です。そのため、細かく分類すると70種類におよび、細胞の特性や発症した臓器によって治療方法も予後も異なります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 一部の悪性リンパ腫は、細胞のアポトーシス(予定された細胞死)に関連するBCL2遺伝子異常等の遺伝子異常が明らかになっています。また、ピロリ菌感染による胃MALTリンパ腫や、ヒトT細胞白血病I型、エイズウイルス、EBウイルス等の感染が関与している悪性リンパ腫もあります。しかし、多くの悪性リンパ腫の原因はわかっていません。

病気の特徴

 2010年に新たに悪性リンパ腫と診断された患者数は、23,919人と推測されています。2013年、悪性リンパ腫による死亡者数は11,340人でした。男女ともに70歳代に多い悪性疾患です。(1)

 分子標的療法であるリツキサンの導入で、生命予後が改善しました。また、悪性リンパ腫の一つであるホジキン病の再発例に対し、免疫療法の効果が確認されています。(2)今後も新薬が期待されている領域です。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
リンパ節などを生検し、診断を行う ★3 リンパ節を外側の膜を破らないようにまるごと摘出する形式の生検を行い、悪性細胞の形態、染色体や遺伝子の異常、細胞表面にでているたんぱく質によって、悪性化したリンパ球の種類を判定します。これらの悪性リンパ腫の特性に、患者さんの年齢や全身状態、画像診断等で評価した悪性細胞の広がりを考慮して予後を予測し、治療方法を選択します。増殖のゆっくりした悪性リンパ腫は、化学療法などの治療を行っても、行わなくても予後が変わらないものがあり、経過を観察する場合もあります。増殖速度の速い悪性リンパ腫では、化学療法や放射線療法を合わせた治療を行います。 根拠(3)
非ホジキンリンパ腫びまん性大細胞型の治療 化学療法を行う ★5 治療方法は、悪性リンパ腫の種類や患者さんの状況ごとに、治療成績が報告されています。たとえば、悪性リンパ腫の中でもっとも多い、非ホジキンリンパ腫びまん性大細胞型では、抗がん剤療法(副腎皮質ステロイド薬を含む)+分子標的療法を行うことが一般的です。これは、点滴や飲み薬で細胞毒性のある薬を定期的に体の中に入れて、悪性細胞を攻撃する方法です。抗がん薬は、悪性細胞だけでなく、正常の細胞も障害します。そのため3週間といった間隔をあけて薬を使うことで、正常の細胞を回復させつつ、悪性細胞を体の中から減らしていきます。また、感染と戦う細胞である白血球はこの治療により著しく減少するため、白血球を増加させる薬(G-CSF)の使用など、感染症のコントロールをはじめとする厳重な全身管理のもとで治療を行う必要があります。 根拠(4)
自家末梢血幹細胞移植療法を行う ★3 上記の化学療法を行った後に再発した場合には、自己末梢血幹細胞移植療法を行うことがあります。自己末梢血幹細胞移植療法は、一般的には再発してから行っても、初回に行っても予後に差がないことから、副作用を考慮し、現在は再発時に行われます。 根拠(5)~(8)
放射線療法 ★4 多くの場合、化学療法が中心となりますが、悪性リンパ腫の細胞が大きなかたまりになっている場合などは放射線療法が行われることがあります。たとえば、限局したホジキンリンパ腫では、化学療法の後にリンパ腫の部位に集中的に放射線を照射する領域放射線療法を行います。 根拠(9)(10)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

非ホジキンリンパ腫 びまん性大細胞型の治療の例

主に使われる薬 評価 評価のポイント
R-CHOP療法 抗がん薬 エンドキサン(シクロホスファミド水和物)+アドリアシン(ドキソルビシン塩酸塩)+オンコビン(ビンクリスチン硫酸塩)+プレドニン(プレドニゾロン)+ 分子標的薬:リツキサン(リツキシマブ) ★5 以前行われていたCHOP療法に、分子標的薬のリツキサンを加えると、病状をおさえ込む率や予後の改善が高まると報告されています。リツキサンは、悪性リンパ腫細胞に、CD20と呼ばれるたんぱくがあるときに有効です。これらの薬を21日ごと、6~8回、投与することを繰り返します。治療終了から2カ月程度後にPET/CT等の画像で効き目があったかどうか、確認します。悪性細胞がおさえ込まれており(完全寛解)、悪性細胞の特性や患者さんの状態等から予後が良好と推測される場合は定型的に経過観察を行うことになります。最初の治療で反応がよくなかった場合や再燃時は、自己末梢血幹細胞移植療法の有効性が示されており、この治療を行うことが勧められます。ただし、患者さんの状況により、自己末梢血幹細胞移植が施行できない場合は、複数の抗がん薬を併用する化学療法が行われます。しかし、現段階でどの組み合わせがもっともすぐれているのかは結論がでていません。 根拠(11)~(13)

ホジキンリンパ腫の治療の例

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ABVD療法ほか アドリアシン(ドキソルビシン塩酸塩)+ブレオ(ブレオマイシン塩酸塩)+エクザール(ビンブラスチン硫酸塩)+ダカルバジン(ダカルバジン) ★5 1日目と15日目に点滴で上記薬を投与し、28日間隔で4回行うのが一般的です。治療後、2週間以降、放射線療法を組み合わせたときは1カ月以降、画像などで治療の効果をみます。 根拠(14)(15)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

分子標的薬の導入で生命予後が改善

 悪性リンパ腫は、分子標的薬のリツキサンが治療に用いられるようになって、大きく生命予後が改善した病気です。さらに、ホジキン病の再発例に対しては、免疫療法の効果が認められたという報告もあり、今後新薬の開発に期待がよせられている分野の病気の一つです。

悪性リンパ腫の種類、広がり、全身状態により治療方針を決定

 リンパ節を外側の膜を破らないようにまるごと摘出する形式の生検によって、悪性細胞の形態、染色体や遺伝子の異常、細胞表面にでているたんぱく質を正確に診断します。これらの条件から悪性化したリンパ球のタイプを判定し、タイプごとに治療効果が予測できます。さらに患者さんの年齢や全身状態、画像診断等で評価した悪性細胞の広がりも考慮したうえで、最適な治療方法を選択します。増殖のゆっくりした悪性リンパ腫では経過を観察したり、増殖速度の速い悪性リンパ腫では化学療法や放射線療法を合わせた治療を行います。

 悪性リンパ腫のなかでもっとも頻度の高い非ホジキンリンパ腫びまん性大細胞型の治療では、R-CHOP療法といって、抗がん薬:エンドキサン(シクロホスファミド)+アドリアシン(ドキソルビシン塩酸塩)+オンコビン(ビンクリスチン硫酸塩)+プレドニン(プレドニゾロン)+分子標的薬:リツキサン(リツキシマブ)による治療の効果が示されています。化学療法では、白血球などの大幅な減少により、感染症のリスクが非常に高まるため、厳重な全身管理もとで治療が進められます。

再発した場合は、自己末梢血幹細胞移植療法を検討

 自己末梢血幹細胞移植療法は、初回に行っても再発してから行っても、予後に差がないと報告されており、現在は副作用を考慮して再発時に検討されます。

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根拠(参考文献)

  • (1)国立がん研究センターがん対策情報センター罹患データ(全国推計値). http://ganjoho.jp/professional/statistics/statistics.html#05 アクセス日2015年1月19日
  • (2)Ansell SM, Lesokhin AM, Borrello I, et al. PPD-1 blockade with nivolumab in relapsed or refractory Hodgkin's lymphoma. N Engl J Med. 2015;372:311-319.
  • (3)NCCNガイドライン. non-Hodgkin lymphomas, 2015 Ver1. Hodgkin lymphomas. 2014;Ver2.http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/f_guidelines.asp#nhl アクセス日2015年1月31日
  • (4)Bohlius J, Herbst C, Reiser M, et al.Granulopoiesis-stimulating factors to prevent adverse effects in the treatment of malignant lymphoma. Cochrane Database Syst Rev. 2008;8:CD003189.
  • (5)Stiff PJ, Unger JM, Cook JR, et al.Autologous transplantation as consolidation for aggressive non-Hodgkin's lymphoma.N Engl J Med. 2013;369:1681-1690.
  • (6)Greb A, Bohlius J, Schiefer D, et al.High-dose chemotherapy with autologous stem cell transplantation in the first line treatment of aggressive non-Hodgkin lymphoma (NHL) in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2008;23:CD004024.
  • (7)Schaaf M, Reiser M, Borchmann P, et al.High-dose therapy with autologous stem cell transplantation versus chemotherapy or immuno-chemotherapy for follicular lymphoma in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2012;18:CD007678.
  • (8)Rancea M1, Monsef I, von Tresckow B, et al. High-dose chemotherapy followed by autologous stem cell transplantation for patients with relapsed/refractory Hodgkin lymphoma. Cochrane Database Syst Rev. 2013;20:CD009411.
  • (9)Campbell BA, Voss N, Pickles T, et al. Involved-nodal radiation therapy as a component of combination therapy for limited-stage Hodgkin's lymphoma: a question of field size.JClinOncol. 2008;26:5170-514.
  • (10)Paumier A, Ghalibafian M, BeaudreA,etal.Involved-node radiotherapy and modern radiation treatment techniques in patients with Hodgkin lymphoma. Int J RadiatOncolBiol Phys. 2011;80:199-205.
  • (11)Sehn LH, Donaldson J, Chhanabhai M, et al.Introduction of combined CHOP plus rituximab therapy dramatically improved outcome of diffuse large B-cell lymphoma in British Columbia. J ClinOncol. 2005;23:5027-5033.
  • (12)Pettengell R, Linch D; Haemato-Oncology Task Force of the British Committee for Standards in Haematology. Position paper on the therapeutic use of rituximab in CD20-positive diffuse large B-cell non-Hodgkin's lymphoma. Br J Haematol. 2003;121:44-48.
  • (13)Pfreundschuh M, Kuhnt E, Trümper L, et al. MabThera International Trial (MInT) Group.CHOP-like chemotherapy with or without rituximab in young patients with good-prognosis diffuse large-B-cell lymphoma: 6-year results of an open-label randomised study of the MabThera International Trial (MInT) Group. Lancet Oncol. 2011;12:1013-1022.
  • (14)Bauer K, Skoetz N, Monsef I, et al.Comparison of chemotherapy including escalated BEACOPP versus chemotherapy including ABVD for patients with early unfavourable or advanced stage Hodgkin lymphoma. Cochrane Database Syst Rev. 2011;10:CD007941.
  • (15)Canellos GP, Anderson JR, Propert KJ, et al.Chemotherapy of advanced Hodgkin's disease with MOPP, ABVD, or MOPP alternating with ABVD. N Engl J Med. 1992;327:1478-1484.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)