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悪性リンパ腫の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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悪性リンパ腫とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過


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 悪性リンパ腫は、リンパ組織(リンパ節、リンパ管、脾臓、胸腺、扁桃など)のなかに悪性細胞が増殖する病気で、腫瘍の種類によってホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大きく分けられます。

 日本人の悪性リンパ腫では、ホジキンリンパ腫は約10パーセントと少なく、大半が非ホジキンリンパ腫です。

 リンパ組織は、血管と同じように体のあらゆる部分に張りめぐらされています。そのために、悪性リンパ腫はどこからでも発病することがあり、肝臓、骨髄、および脾臓など体のさまざま場所に広がる可能性があります。

 症状としては、リンパ節の腫れが頸部、わきの下、足の付け根などによくみられます。発熱、寝汗、疲れやすさ、体重減少、皮膚のかゆみなどの症状がリンパ節の腫れと同じ時期か、腫れがでる以前にみられます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 ホジキンリンパ腫は大部分がBリンパ球と呼ばれるリンパ球の関与によると考えられています。非ホジキンリンパ腫は原因となる細胞によって、Tリンパ腫、Bリンパ腫、NK(ナチュラルキラー)リンパ腫と分類され、細胞の分化度によってさらに細かく分けられています。

 悪性リンパ腫の発生原因はよくわかっていませんが、なかにはウイルスにより発症することがわかっているものもあります。成人T細胞白血病リンパ腫には、ヒトT細胞白血病1型ウイルスの感染が関係しています。また、エイズや臓器移植後など、免疫の働きが著しく低下した場合に発生するものや、アフリカに多いバーキットリンパ腫では、EBウイルスというウイルス感染が関係していることがわかっています。

病気の特徴

 わが国で1年間に発生する悪性リンパ腫は約1万人で、少しずつ増えています。ホジキンリンパ腫が20歳~30歳代に多いのに対し、非ホジキンリンパ腫の発生のピークは60歳代で、お年寄りに多い病気です。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

非ホジキンリンパ腫の治療

治療とケア 評価 評価のポイント
低悪性度群 比較的軽症の場合は放射線単独療法を行い、基本的には放射線療法と化学療法を行う。重症になると化学療法(CHOP療法)を行う ★3 低悪性度リンパ腫の多くは症状に乏しく、自然に腫瘍が小さくなっていく例もまれではありません。したがって、症状がない場合には治療せずに観察を続ける場合があります。症状がある場合には、症状の緩和を目的として治療がなされます。限局期(一つのリンパ節領域のみが腫れているか、上半身もしくは下半身のみの2カ所以上のリンパ節領域が侵されている時期)で発見された場合は、放射線治療が行われます。進行期(上半身、下半身の両方のリンパ節領域が侵されているか、最終段階として臓器を侵していたり、骨髄や血液中に悪性細胞が広がっている時期)で発見された場合は、放射線療法と化学療法の併用療法を選択することが一般的です。しかし、放射線療法単独よりも効果が高くなるかどうかは明らかではありません。これらのことは臨床研究によって報告されています。 根拠(1)~(7)
中等度、高悪性度群 基本的に化学療法を行う。進行例では放射線療法を併用する ★5 限局期では放射線療法のみ、または化学療法のみよりも、化学療法と放射線療法を併用すると病気の経過がよくなります。化学療法のなかでは、効果と副作用の点でCHOP療法が標準的治療とされます。進行期に対する化学療法としてVEPA療法、MACOP-B療法、LSG療法(いずれも多剤併用療法)など数多くの治療法がありますが、長期的な病気の経過はあまり差がないとされています。これらの治療法は、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(8)~(10)
自己末梢血幹細胞移植を行う ★3 中等度、高悪性度群に対して初回治療に反応したにもかかわらず、再発した場合には、化学療法に引き続いて自己末梢血幹細胞移植を行うことがあります。 根拠(11)~(13)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

主に使われる薬 評価 評価のポイント
CHOP療法(下記の薬剤による多剤併用療法) 根拠 (1)~(7) エンドキサンP(シクロホスファミド)+アドリアシン(塩酸ドキソルビシン)+オンコビン(硫酸ビンクリスチン)+プレドニン(プレドニゾロン) ★5 これらの薬剤の多剤併用療法は、非常に信頼性の高い臨床研究によってその効果が確認されています。 根拠(1)~(7)
MACOP-B療法(下記の薬剤による多剤併用療法) 根拠 (8)~(10) メソトレキセート(メトトレキサート)+アドリアシン(塩酸ドキソルビシン)+エンドキサンP(シクロホスファミド)+オンコビン(硫酸ビンクリスチン)+プレドニン(プレドニゾロン)+ブレオ(塩酸ブレオマイシン) ★5 これらの薬剤の多剤併用療法は、非常に信頼性の高い臨床研究によってその効果が確認されています。 根拠(10)(8)~

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

悪性度と病期により治療方針を決定

 リンパ腫と診断されたなら、まず、リンパ腫の組織学的分類、さらに腫瘍の広がり具合を示す病期を決定することが治療をするために必要となります。

 組織の悪性度によって低悪性度、中等度、高悪性度に分けられ、進行度によって病期I~IVに分けられます。

  組織型や病期、さらに患者さんの年齢や体力によって、治療方針は異なってきます。適切な治療方針を決めるためには、正確な診断が不可欠です。

 なお、リンパ組織は全身にはりめぐらされていますから、検査も全身におよびます。診断のための検査が長く続くことがあるので、医師とよく相談しながら検査をすべきでしょう。

化学療法では多剤併用療法

 治療の基本的な方針としては、病期I、IIの限局期では、放射線療法が行われます。病状がかなり進展した進行期では放射線療法と化学療法の併用が一般的です。

 化学療法ではCHOP療法やMACOP-B療法という多数の薬剤を同時に用いる多剤併用療法が行われます。

副作用を軽減させる工夫も

 こうした放射線療法、化学療法には、吐き気、嘔吐、発熱、出血傾向、感染症などの副作用があります。現在の治療では、悪性リンパ腫細胞を死滅させる一方で副作用をできるだけ少なくする工夫が多くなされています。

 たとえば、放射線療法では、できるだけ正常細胞に放射線があたらない工夫、化学療法ではCHOP療法をはじめとする多剤併用療法を副作用があまりない形で使う方法などが、世界的に共同研究が組織され検証されてきています。

白血球の産生を高めるG-CSF

 放射線療法、化学療法とも、一時的に骨髄において正常な血液細胞がつくられるのを抑えます。

 そこで、その程度に応じて、正常な白血球の産生を高めるために、G-CSFという薬剤が投与されたり、感染の兆候が少しでもあれば、重症化しないうちに抗菌薬が用いられます。

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根拠(参考文献)

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出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行