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子宮頸がんの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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子宮頸がんとは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 子宮の膣に近いほうを頸部、子宮の奥のほうを体部といい、子宮頸部に発生するがんを子宮頸がんといいます。初期の段階ではほとんど症状がなく、病期が進行してがんが広がっていくにつれて、おりものが増え、不正出血、性交渉時の出血などもみられます。とくに、性交渉のときの出血は特徴的な症状です。さらに、がんが大きくなり直腸や膀胱にまで広がると、腹痛や腰痛のほか、血便や血尿が出ることもあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 子宮頸がんのおもな原因として、ヒトパピローマウイルスの感染があります。ヒトパピローマウイルスは性交渉によって、男女の性器に感染します。ヒトパピローマウイルスに感染した場合でも、ほとんどは体内の免疫によってウイルスが消失します。ただし、一部が持続感染して細胞組織が変異をおこします。これにより、前がん状態から子宮頸がんをひきおこします。(1)

病気の特徴

 新たに子宮頸がんにかかった人は2011年に11,378人、また子宮頸がんによる死亡者は2013年で2,656人でした。年齢としては、30歳代後半から40歳代前半の人と60歳代前半の人に多いと報告されています。(2)(3)

 

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
子宮頸がんワクチン接種の検討 ★2 若年層に対する子宮頸がんワクチン接種により、ヒトパピローマウイルスの感染を予防する効果と、子宮頸部の異形成を抑制する効果が報告されています。日本では、2010年11月から公費補助がはじまり、2013年4月から定期予防接種の1つとなりました。中学1年生で1回目、1~2カ月の間隔をあけて2回目、初回接種の6カ月後に3回目、というスケジュールとなっています。しかし、同年、子宮頸がんワクチン接種後の神経障害(四肢の痛み、しびれ、脱力ならびに学習障害、記銘力低下、睡眠異常など)が報告されました。ワクチン接種と神経症状の科学的関連性やその病態については検討段階にあります。このため2015年5月現在、厚生労働省では、積極的な接種勧奨を差し控えています。 根拠(4)~(8)(9)
子宮頸がん検診を受ける ★4 子宮頸がん検診導入後の子宮頸がんによる死亡率は、導入前と比較すると大幅に減少したことが複数の国から報告されています。また、子宮頸がん細胞診、およびヒトパピローマウイルス感染症の有無の検診により、進行がんの発生率を抑制できることが報告されています。米国では、はじめて性交渉をしてから3年以内、もしくは21歳から3年ごとの子宮頸がん検診を推奨しています。子宮頸がん検診は、子宮の入り口(外子宮口)付近を綿棒でこすって細胞を採取し、顕微鏡で正常な細胞かどうかを確認します。同時にヒトパピローマウイルス感染症の有無の検査を併用することも推奨されています。ヒトパピローマウイルスが陽性だった場合は、コロポスコープという拡大鏡をつかって子宮頸部を観察します。このとき、がんと疑わしい部分があった場合は、その部位から小さな組織を切り取る組織診を行います。ヒトパピローマウイルスが陰性の30歳以上の女性の場合は、がん検診の間隔を5年にしても効果は変わらないとされています。日本では、20歳から2年に1度の細胞診による検診について、自治体より無料クーポン券を配布する形式などで公費補助し、推奨しています。2015年5月現在、ヒトパピローマウイルス感染症の有無の検査は検診にふくまれていません。 根拠(10)(11)(12)~(14)(15)
病期に応じて治療方法を検討し、選択する ★4 子宮頸がんの確定診断がついた場合、各種の画像診断などでがんの広がりを確認します。がんの治療効果は、患者さん本人の年齢や体の状態、がんの広がり(病期)、がん細胞のもつ特性によって異なります。がんの進行度は、腫瘍の数や大きさ、リンパ節や他の臓器へがんが転移しているかどうかなどで判断します。これらを総合的に考えて、さらに、患者さんの考え方を考慮して、手術療法、放射線療法、化学療法、および症状をやわらげる緩和療法を組み合わせて治療を行います。若い人に多いがんのため、妊娠の希望がある、または妊娠中に診断された場合は、主治医とよく相談し慎重に治療方針を検討する必要があります。再発・転移子宮頸がんの場合は、画像で治療効果を確認しながら治療方法を変更していきます。 根拠(16)~(19)
手術法を検討、選択する ★4 病期(がんの大きさや深さ、形態、転移の有無)によって、手術法が選択されます。子宮頸部の組織を円錐状に切除する方法(円錐切除術)や、子宮を切除する単純子宮全摘出術、子宮と膣、基靭帯の一部を切除する準広汎子宮全摘出術や、子宮・膣の一部や基靭帯、さらにリンパ節を取り除く広汎子宮全摘出術などがあります。 根拠(20)
放射線療法を検討、選択する ★3 限局している小さながんで、手術ができない場合や、患者さんが手術をしない選択をした場合は、根治的放射線療法を行います。子宮内部に放射線を発生する物質を入れて体の中から放射線をあてる小線源療法と、体の外から放射線をあてる外部照射が併用されます。ごく初期の扁平上皮がんでは、手術と同等の治療成績が報告されています。 腺がんでは、手術に劣ります。また、限局している4センチメートルをこえる大きながんでは、同時化学放射線療法(放射線療法と化学療法を同時期に行う方法)があります。 この同時化学放射線療法の後に、手術を追加することの効果については結論がでていません。 根拠(21)(22)(23)(24)(25)
手術後に放射線療法や化学療法を追加する ★4 がんの特性(ヒトパピローマウイルスのタイプなど)、病気のひろがり(病期)などから、再発のリスクの高さである悪性度を検討し、患者さんの全身状態などを考慮して、手術後に放射線療法や化学療法を追加します。治療効果は、病期や悪性度および治療方法に応じて異なります。たとえば再発のリスクの高い、早期の子宮頸がんに対する手術後の抗がん薬療法(化学療法)と放射線療法の併用は、両方の効果を高め合い、予後を改善し、病期の進行を抑える効果が報告されています。 離れた臓器への転移がある場合や進行がんの場合、あるいは再発した場合は、分子標的薬と抗がん薬の組み合わせによる化学療法や、放射線療法の効果が報告されています。 なお、進行がんに対する手術前の抗がん薬療法は海外、日本いずれの研究でも予後の改善が認められず、現在は推奨されていません。 根拠(26)~(28)(24)(25)(29)(30)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗がん薬療法の例

主に使われる薬 評価 評価のポイント
CDDP単独療法 根拠 (31) ランダ(シスプラチン) ★4 がん細胞を壊したり増殖を抑える効果のある薬剤を、定期的(毎週など)に点滴でいれます。この薬によって、増殖速度の早いがん細胞のほうが健康な細胞よりも壊され、健康な細胞は次の治療の日までに回復してきます。このサイクルをくり返し、残ったがん細胞をできるかぎり体のなかからなくしてしまう、という治療法です。健康な細胞も薬の作用をうけるため、強い副作用を各種の方法でコントロールしながら、治療を行う必要があります。がん細胞をたたく効果を高めるため、放射線療法を同時期に行うこともあります。 根拠(31)
FP療法ほか 根拠 (31) ランダ(シスプラチン)+5-FU(フルオロウラシル) ★4

再発や遠隔転移のある場合

主に使われる薬 評価 評価のポイント
抗がん薬と分子標的薬の併用 根拠 (32) 抗がん薬 ランダ(シスプラチン)+タキソール(パクリタキセル)、分子標的薬 アバスチン(ベバシズマブ)など ★4 抗がん薬療法と分子標的療法の併用による予後の改善が報告されています。2015年5月現在、子宮頸がんに対する分子標的療法は、日本では健康保険適用がありません。 根拠(32)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

子宮頸がんワクチン接種や定期的な検診で予防を

 子宮頸がんのワクチン接種により、子宮頸がんのおもな原因とされるヒトパピローマウイルスの感染や子宮頸部の異形成の予防効果が報告されています。日本では、2013年4月から定期予防接種の1つに加わっていますが、同年、接種後の神経障害が報告されました。ワクチン接種と神経障害が科学的に関連しているかどうかは検討段階にあり、2015年5月現在、厚生労働省は積極的な接種勧奨は差し控えています。

 子宮頸がんの検診については有効性が証明されており、複数の国で、検診導入後に子宮頸がんによる死亡率が減少しているとの報告がみられます。

 子宮頸がんの検診は子宮の入り口から採取した細胞の細胞診と、ヒトパピローマウイルス感染の有無の検査があり、これらの併用が推奨されています。日本では、20歳から2年に1度の細胞診による検診について、自治体の公費補助があります。10代~20代のうちから、病気の理解をすすめ、予防の重要性を知ることが大切です。

外科的な切除を行う

 子宮頸がんの治療の中心は外科的な切除です。病気の進行度(病期)によって、がんを摘出する範囲が決まり、円錐切除術、単純子宮全摘出術、準広汎子宮全摘出術、広汎子宮全摘出術などから、手術方法を選びます。

放射線療法・同時化学放射線療法を行う。

 手術を行えない場合や、希望しない場合は、放射線療法を行います。

手術後、化学療法や放射線療法を組み合わせて行う

 リンパ節への転移があるといった病期や、悪性度が高いなどのがんの特性によって、再発のリスクが高い場合は、手術後に化学療法と放射線療法を組み合わせて行います。再発のリスクの高い早期の子宮頸がんに対しての化学療法と放射線療法の併用は、互いが効果を高めあい、進行を抑制する効果が認められています。また、遠隔転移がある進行がん、再発がんに対しては、分子標的薬と抗がん薬を組み合わせた化学療法、放射線療法の効果が報告されています。

 進行したがんでは、症状のコントロールを目標として緩和療法を併用します。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

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  • (3)国立がん研究センターがん情報サービス 人口動態統計によるがん死亡データ(1958年~2013年)http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html アクセス日2015年5月1日
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  • http://www.tri-kobe.org/nccn/guideline/gynecological/ アクセス日2015年5月2日
  • (17)National Comprehensive Cancer Network ホームページ(NCCN:全米がんセンターガイドライン策定組織)NCCN Guidelines. Cervical Cancer 2015 ver.2 http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/cervical.pdf アクセス日2015年5月8日
  • (18)独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センターホームページ 子宮と卵巣のがんの療養情報
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出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)