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高体温―とくに熱中症についての治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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高体温―とくに熱中症についてとは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 高温多湿の環境で、体温や体液を一定の状態で維持しようとする恒常性をうまく保つことができない状態を熱中症といいます。炎天下、あるいは高温多湿の屋内で運動や作業をしているときに発症する労作性熱中症や、調節機能が衰えている(予備力のない)高齢者が高温多湿の室内で発症する古典的熱中症があります。症状としては、めまいや筋肉のけいれんから始まり、進行すると、頭痛や吐き気、脱水によるショック、不整脈がおこります。重症にいたると、肝臓や腎臓の障害や血液を止める働きの低下、意識障害、全身のけいれんなどをおこします。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 体温は体のなかで生じる熱と、皮膚などを通して失う熱のバランスによって決まります。体温の上昇には発熱と高体温があり、熱中症でおこっている体温の上昇は高体温という状態です。

 高体温は体が熱を発散して失おうとする能力(熱喪失能力)を超えて体温が上がるものです。無風状態の炎天下や高温多湿の環境では、体内でつくられる熱が発汗機能などの熱喪失能力をはるかに上回り、体温を調節することができなくなり、体温が40度を超えてきます。この状態になると、臓器が正常に機能しなくなります。

 

病気の特徴

 2014年8月の1カ月間に熱中症のため救急搬送された人は日本全国で15,183人でした。このうち、18~64歳までの成人が42.5パーセントであり、65歳以上が45.7パーセントでした。

 重症度をみると、死亡が15人、中枢神経症状や肝・腎機能障害もしくは血液凝固異常のいずれかを示す重症であったのは274人でした。気温35度で湿度52パーセントから気温25度で湿度88パーセントの範囲で、最も救急車の搬送が多くなることが報告されています。(1)(2)

 高齢者におこる古典的熱中症ついては、ベッド上(寝たきり)の生活の人、外出頻度の少ない人、精神疾患のある人、日常生活にケアが必要な人、慢性疾患の薬剤を内服している人でおこりやすいことが報告されています。(3)

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
全身を冷却する ★2 若年者の労作性熱中症で体温が40.5度を超え意識障害などの神経症状があり、かつ適切な対処ができるケア提供者が現場にいる場合は、発症から30分以内に、2~15度の水をはった水槽等で全身を冷却します。体温が39度より下がるまで続けます。この処置は、病院に搬送する前に現場で早急に行うことが推奨されています。体温が39度を切ったら、最も近い救急処置のできる医療機関に搬送します。病院搬送後は、体温測定、呼吸や循環等の状況と、採血検査により血糖やナトリウムなどの電解質、肝臓や腎機能、凝固機能の評価が行われます。この結果に合わせて、呼吸の補助や輸液、電解質の補正などの治療を行います。なお、搬送後も経過を観察するために、体温の測定方法を変更しないことが推奨されています。高齢者の古典的な熱中症では、上記のような冷水浴は危険です。このため、体表に常温の水分をスプレーなどで散布して送風を行う気化式冷却法や、腋窩や鼠径部をアイスパッドで冷却する方法が一般的です。 根拠(4)(5)(6)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

予防が大切です

 若年者の労作性熱中症を予防するには、温度と湿度の管理、飲水だけでなく塩分の摂取、こまめな休憩をとり、体を冷やすことが必要です。(2)

 高齢者の古典的な熱中症は、クーラーのない部屋にいる高齢者などでよくみられます。空調設備を完備し、室内の温度・湿度の管理と、脱水にならないように支援することが必要です。

軽症の場合はその場での処置を

 腹筋や手足がけいれんする、めまいやごく短時間気を失うような状態であれば、風通しのよいところで衣服をゆるめて横になり、食塩水を飲むだけで回復します。早めに安静にして水分や塩分を補給し、これ以上重症化させないことが重要です。

重症の場合は一刻も早く救急車を

 意識障害や全身けいれんを伴う場合は、患者さんの体を冷やし、体温をできるだけ38~39度程度にまで下げて、病院搬送します。

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根拠(参考文献)

  • (1)総務省消防庁ホームページ 平成26 年8月の熱中症による救急搬送の状況
  • http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h26/2609/260919_1houdou/02_houdoushiryou.pdf
  • (2)総務省消防庁ホームページ熱中症に注意
  • http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/topics/201405/heat.pdf
  • (3)Hajat S, O'Connor M, Kosatsky T. Health effects of hot weather: from awareness of
  • risk factors to effective health protection.Lancet. 2010 ;375:856-63.
  • (4)Ca DJ, McDermott BP, Lee EC, Yeargin SW, Armstrong LE, Maresh CM. Cold
  • water immersion: the gold standard for exertional heatstroke treatment.Exerc Sport Sci Rev. 2007 ;35:141-9.
  • (5)Sithinamsuwan P, Piyavechviratana K, Kitthaweesin T, et al.; Phramongkutklao
  • Army Hospital Exertional Heatstroke Study Team. Exertional heatstroke: early recognition and outcome with aggressive combined cooling--a 12-year experience.Mil Med. 2009 ;174:496-502.
  • (6)Bouchama A1, Dehbi M, Chaves-Carballo E. Cooling and hemodynamic
  • management in heatstroke: practical recommendations.Crit Care. 2007;11:R54.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)