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高体温―とくに熱中症について―の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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高体温―とくに熱中症について―とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 高温多湿の環境で、体温や体液を一定の状態で維持しようとする恒常性をうまく保つことができない状態を熱中症といいます。

 炎天下、あるいは高温多湿の屋内で運動や作業をしているときにおこりやすく、著しい脱水によるショック、意識障害、全身のけいれんなどをおこします。体温が41度以上になることもあり、この状態になると、発汗も止まっているので、ただちに体を冷やすといった処置をしなければ、生命にかかわることもあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 体温は体のなかで生じる熱と、皮膚などを通して失う熱のバランスによって決まります。体温の上昇には発熱と高体温があり、熱中症でおこっている体温の上昇は高体温という状態です。

 高体温は体が熱を発散して失おうとする能力(熱喪失能力)を超えて体温が上がるものです。このとき、体温を一定の温度に保とうとする体温調節中枢の設定温度(サーモスタットのようなもの)は変化していません。本来は体温を低下させようとする体温調節が働くはずなのですが、あまりに激しい外部環境の異常、つまり無風状態の炎天下や高温多湿の環境で運動や作業をしていると、体内でつくられる熱が発汗機能などの熱喪失能力をはるかに上回り、体温を調節することができなくなり、危険なまでに体温が上昇します。

 一方、発熱は体温調節中枢の設定温度そのものが高く設定されてしまうもので、熱喪失能力などは正常に働いています。

 高体温には熱中症のほかに抗コリン薬や抗精神病薬などの薬物によるもの(悪性症候群)、甲状腺機能亢進症や褐色細胞腫などの内分泌疾患によるものなどがあります。これらの高体温は生命にかかわることもあり、また解熱薬では下がりません。

病気の特徴

 1日の平均気温が27度、1日の最高気温が32度を超えると、熱中症にかかる人が急増するとされています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
全身を冷却する ★3 体表に水分を散布して送風を行う、冷水に浸す、氷のうを頸部(首)や腋窩(わきの下)、鼠径部(足の付け根)にあてる、冷水による胃洗浄や膀胱洗浄、腹膜灌流などを行い、全身をできるだけ冷却し、体温を低下させます。これらの処置の効果は臨床研究によって確認されています。 根拠(1)(2)
酸素吸入を行う ★2 低下した体内の酸素状態を正常に保つのに必要な処置です。臨床研究によって効果が確認されているわけではありませんが、専門家の意見や経験により支持されています。 根拠(1)
輸液を行う ★2 体内の血液の循環を改善し、電解質のバランスを保つのに必要な処置で、臨床研究によって効果が確認されているわけではありませんが、専門家の意見や経験により支持されています。 根拠(1)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

軽症の場合はその場での処置を

 腹筋や手足がけいれんする、めまいやごく短時間気を失うような状態であれば、風通しのよいところで衣服をゆるめて横になり、食塩水を飲むだけで回復します。

 さらに、めまいや疲労感、頭痛、吐き気、嘔吐、多量の発汗などいくつかの症状があっても体温の上昇がなければ、ただちに命にかかわることはありません。

 安静にして水分や塩分を補給し、これ以上重症化させないことが重要です。

重症の場合は一刻も早く救急車を

 意識障害や全身けいれんを伴う場合は、一刻も早く救急車で病院に運ぶ必要があります。体温が41度を超えていることもありますので、病院に到着するまでの間は、扇風機などで風を送ったり、水に濡らしたガーゼで体をふいたりして、患者さんの体を冷やし、体温をできるだけ38~39度程度にまで下げることが大切です。

輸液と酸素吸入が中心

 体温を低下させることがもっとも重要ですから、体表に水分を散布して送風を行う、冷水に浸す、氷のうを頸部や腋窩、鼠径部に置く、冷水を用いた腹膜灌流、胃洗浄、膀胱洗浄などを必要に応じて行います。

 当然、この状態であれば、脱水症状や電解質の喪失がおきている可能性が非常に高いので、静脈注射による輸液が必要です。低酸素状態に対して酸素の吸入が必要となる場合もあります。輸液、酸素吸入のいずれも、個別に臨床研究によって効果が確かめられているわけではありませんが、専門家の経験や意見により支持されています。

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根拠(参考文献)

  • (1) Bouchama A, Knochel JP. Heat stroke. N Engl J Med. 2002;346:1978-1988.
  • (2) Gaffin SL, Gardner JW, Flinn SD. Cooling methods for heatstroke victims. Ann Intern Med. 2000;132:678.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行