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無痛性甲状腺炎
むつうせいこうじょうせんえん

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無痛性甲状腺炎とは?

どんな病気か

 何らかの原因により甲状腺が壊れ、なかに蓄えられていた甲状腺ホルモンが血液中にもれ出して、一過性の甲状腺機能亢進症を示す病気です。亜急性甲状腺炎と違って、甲状腺に痛みがないので無痛性甲状腺炎と呼ばれています。

原因は何か

 出産をきっかけに起こることがよく知られていますが、とくに誘因がなく発症する場合もあります。もとには橋本病があると考えられていますが、どのような仕組みで甲状腺が壊れてホルモンがもれるのかは不明です。

症状の現れ方

 動悸、暑がり、体重の減少などの甲状腺機能亢進症の症状が、比較的短期間に認められるようになり、受診する例が多いようです。甲状腺機能亢進症の5~10%くらいが無痛性甲状腺炎です。

 症状が比較的軽度であること、病気で悩む期間が短いこと、眼球突出などの眼症状はないことなどがバセドウ病との違いですが、紛らわしいのでしばしば誤診されていました。しかし、バセドウ病では治療しないと甲状腺ホルモンは低下しないのに対して、無痛性甲状腺炎の甲状腺機能亢進症は一過性で、治療しなくても正常化するので、治療法はまったく異なり、両者の区別は重要です。

検査と診断

 バセドウ病ではTSHレセプター抗体が陽性になるので、甲状腺機能亢進症であってTSHレセプター抗体が陰性であれば、無痛性甲状腺炎の可能性が大きくなります。

 しかし、時に無痛性甲状腺炎でもTSHレセプター抗体が一時的に陽性になることがあり、その時はバセドウ病との区別が難しいので、放射性ヨード摂取率の検査をすることがあります。この検査は1週間ほど海草類をとらないようにしてヨード制限をしてから、放射性ヨードを入れたカプセルを内服し、6時間あるいは24時間後に甲状腺に取り込まれた放射性ヨードの放射を測定する検査です。

 バセドウ病では放射性ヨード摂取率は高値になるのに対して、無痛性甲状腺炎では極めて低値になるので見分けることができます。ただし、この検査はどの施設でもできるものではないので、自覚症状が強くない時は、無痛性甲状腺炎と考えて治療をしないで経過をみることもあります。

 無痛性甲状腺炎であれば、最初は甲状腺組織の破壊のために、濾胞に蓄えられた甲状腺ホルモンが血液中にもれ出てきて、甲状腺ホルモンが高くなります。

 しかし、バセドウ病と違ってホルモンが過剰につくられているわけではないので、1~2カ月すると甲状腺ホルモンは低下してきて、反対に甲状腺機能低下症になります。甲状腺機能低下症は2~3カ月でおさまり、通常はもとの正常な甲状腺機能にもどります。ただし、20%くらいの症例では、そのまま永続的な甲状腺機能低下症になるので、最後まできちんと経過をみることが重要です。

治療の方法

 甲状腺から血液中にもれ出てしまった甲状腺ホルモンを減らす治療法はありません。動悸や手の震えなどの症状が強い時は対症療法としてβ遮断薬を使い、過労を避けるようにして甲状腺ホルモンが低下するのを待ちます。

病気に気づいたらどうする

 通常は1~2カ月で症状はなくなるので、無痛性甲状腺炎と診断されても心配する必要はありません。ただ、亜急性甲状腺炎と違って繰り返すことがあるので、年に1~2回程度の検査を受けたほうがよいでしょう。

(執筆者:医療法人社団白寿会田名病院理事長・院長 阿部 好文)

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 妊娠時は甲状腺が少し大きくなります。甲状腺ホルモンを結合する蛋白が増えるのでチロキシン濃度は2倍にも増えますが、甲状腺の機能を示す遊離チロキシン濃度は妊娠初期にわずかに増え、後期には非妊娠時の正常範囲の下限となる程度のわずかな変化なので、妊娠した時は遊離チロキシン濃度で甲状腺の機能を評価することが重要です。

 一方、出産後は4分の1くらいの人に甲状腺機能の変化が認められ、この多くは無痛性甲状腺炎であることが明らかになっています。従来、産後のひだちが悪いといわれていたもののうちのかなりのものは、この疾患だったのだろうと考えられています。

 また、バセドウ病は妊娠中はよくなって、出産後に急に悪くなることが多いので、甲状腺疾患のある患者さんは妊娠前後の時期は甲状腺専門医の管理をきちんと受けることが重要です。そうすればバセドウ病治療中であっても、一律に妊娠・授乳は禁止ということはありません。

コラム生体のはたらきを支えるホルモン

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 体全体を調節する機能を担うものには、大きく分けて神経系と内分泌系とがあります。神経系はちょうど電話のような情報伝達系で、神経の走行に沿って狭い範囲に電気信号を使って迅速に情報を伝達します。

 一方、内分泌系は郵便のような情報伝達系で、ちょうど葉書の役割にあたるホルモンが血液のなかに入って流れ、郵便受けの役割にあたるホルモン受容体に結合すると情報が伝達されます。したがって情報伝達の速度はゆっくりですが、ホルモン受容体のあるところなら全身のどこにでも情報が伝達されます。

 ホルモンというと性ホルモンが思い浮かびますが、今では100以上のホルモンが見つかっており、それぞれ固有の役割をもっています。ホルモンを分泌する臓器としては、間脳(視床下部)、下垂体、甲状腺、副甲状腺、副腎、卵巣、精巣があり、これらは内分泌臓器と呼ばれ、多くのホルモンを分泌しています。

 それ以外にも心臓の心房細胞からはナトリウム利尿ホルモンが、脂肪細胞からはレプチンが、胃からはグレリンがというように、従来は内分泌臓器ではないと考えられていた臓器からもホルモンが分泌されていることがわかってきました。

 これらのホルモンがそれぞれ微妙なバランスをとって生殖、食欲、飲水、睡眠など、生体の根元的なはたらきを支えているので、ホルモンバランスが崩れるとさまざまな症状が現れてきます。

コラムホルモンとホメオスタシス

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 生体には、外部の環境が大きく変化しても内部の環境の恒常性(体温・血流量・血液成分などを正常な範囲に保っている状態および機能)を保つ機能があります。それを今から70年以上前に、米国の生理学者のキャノンがホメオスタシスと名付けました。

 たとえば、外気の温度は30℃でも0℃でも体温は36℃くらいに保たれています。また、断食をしていても、大食い競争に参加していても糖尿病でないかぎり、血糖値は100mg/mlを大きく外れることはありません。

 それは血糖値が上がれば膵臓からインスリンが分泌されて血糖が下がり、血糖値が下がりすぎればグルカゴンやカテコールアミンなど血糖を上げるホルモンが分泌されるというように、生体内には左右に振れる振り子をもどす力があるからです。この生体内にある振り子を一定の位置にとどめておくはたらきがホメオスタシスです。

 ホメオスタシスは自律神経系と内分泌系とによって調節されていて、自分の意思とは関係なく、自律的に、かつ総合的に機能しています。したがって、私たちは意図的にホメオスタシスをはたらかすことはできません。

 しかし、ホメオスタシスも万能ではありません。たとえば、塩辛い物を食べ続ければ腎臓のホメオスタシスの維持機能も損われ、その現れとして高血圧になってしまいます。自分自身の体のはたらき方を知ること、したがってホルモンによってホメオスタシスがどのように守られているかを知ることが、われわれの健康を守る第一歩であるといえるでしょう。

無痛性甲状腺炎に関する医師Q&A