出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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慢性甲状腺炎(橋本病)
まんせいこうじょうせんえん(はしもとびょう)

  • 内科
  • 診療に適した科

慢性甲状腺炎(橋本病)とは?

どんな病気か

 慢性甲状腺炎は1912年、橋本策博士により報告された病気で、橋本病とも呼ばれています。

原因は何か

 本来は外部から入り込んだ異物に対して起きる免疫反応が、自分の体の細胞に対して起きて甲状腺の細胞が壊れ、細胞と細胞の間に線維化が起こる臓器特異的自己免疫疾患です。女性に圧倒的に多く、最近の研究では10人に1人かそれ以上の頻度ではないかといわれています。

症状の現れ方

 甲状腺は予備能力の大きな臓器なので、少しくらい破壊されても甲状腺ホルモンを作る能力が低下することはありません。しかし、破壊が甲状腺全体に広がると機能低下症になります。炎症といっても、何年もかかってゆっくりと起こる炎症なので、痛みや発熱が起こることはありません。

 甲状腺腫は全体にはれていて硬く、表面はこぶ状あるいは小顆粒状に触れます。大きさはさまざまですが、よほど大きくないかぎり、物が飲み込みにくくなったり、呼吸困難になることはありません。

 甲状腺の機能も大半は正常なので、橋本病というだけではとくに自覚症状もなく、治療の必要もありません。しかし、加齢とともに甲状腺機能低下症の頻度が増して、最終的には軽度のものも含めると20~30%は機能低下症になります。甲状腺機能低下症からみると、原因の大半は橋本病です。

 甲状腺機能低下症になると寒がり、便秘、記憶力・計算力の低下、眠気などを自覚するようになり、さらに低下症が進むと顔面がはれぼったく、むくむようになります。慢性甲状腺炎で甲状腺機能低下症になった例でも、時に甲状腺の機能は回復することがあります。無痛性甲状腺炎といって、逆に一過性に甲状腺ホルモンが増えることもあります。

検査と診断

 慢性甲状腺炎はもともと甲状腺組織を顕微鏡で見て発見された病気なので、組織所見を見ないと確定診断はできません。しかし、通常は抗甲状腺抗体が陽性で、硬い甲状腺腫が認められ、バセドウ病が否定できれば慢性甲状腺炎と考えて経過をみることになります。

 甲状腺腫が大きい時は、一応、腫瘍性疾患を除外しておくことも兼ねて、超音波断層検査をすることもよくあります。

治療の方法

 甲状腺機能が正常で甲状腺腫が小さい時は、とくに治療は行いません。甲状腺機能低下症の時は、甲状腺ホルモンを投与します。

 甲状腺刺激ホルモンだけが高値で、甲状腺ホルモンの値が正常なものを潜在性甲状腺機能低下症といいます。放置すると動脈硬化症や、はっきりとした甲状腺機能低下症になる可能性が高いので、やはり甲状腺ホルモンを投与します。

病気に気づいたらどうする

 橋本病が医療費の補助の対象になっている県もあるので、難病ではないかと心配される患者さんがいます。しかし決して難病ではなく、甲状腺ホルモンの測定を時々受け、ホルモンが低下しているということがわかれば、甲状腺ホルモンの服用を始めるだけでよいのです。橋本病と診断されても、あまり心配はしないようにしてください。

(執筆者:医療法人社団白寿会田名病院理事長・院長 阿部 好文)

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医療法人社団白寿会田名病院理事長・院長 阿部好文

 生体には、侵入した有害な異物や細菌、ウイルスを自分の体にはないものだと認識して、その侵入者を攻撃して排除する防衛網が備わっています。この仕組みを免疫といいますが、免疫の仕組みの一部が狂ってしまい、敵か味方か見分けがつかなくなり、自分自身の体に向かって攻撃をしかけてしまう病気になることがあります。

 これを自己免疫疾患といい、大きく分けて、全身にいろいろな症状が現れ、一定の臓器に決まっていない臓器非特異的自己免疫疾患と、ある臓器に限って症状が現れる臓器特異的自己免疫疾患の2つがあります。

 前者は、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどで、膠原病としてまとめられることもあります。

 後者の代表は慢性甲状腺炎(橋本病)で、そのほか、バセドウ病、悪性貧血、原発性胆汁性肝硬変、尋常性天疱瘡、1型糖尿病など、いろいろな臓器に対する自己免疫疾患があります。

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